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強制性交罪を不同意性交罪へ変更方針、「NoはNo」ドイツ社会を動かした集団性暴行事件

国際女性デー2023 更新日: 公開日:
写真はイメージです=gettyimages提供

先日、法務省が「強制性交罪」の罪名を「不同意性交罪」に変更する方針を打ち出しました。罪名変更は、刑法で処罰要件の改正が検討されていることに伴うものです。

今までは不本意な性行為であっても、「暴行」や「脅迫」が伴わなければ強制性交罪に問われることはありませんでした。

でも刑法が改正された場合は「アルコールまたは薬物を摂取させること」「恐怖、驚愕(きょうがく)させること」「経済的・社会的地位の利用」などの行為や状況がみられ、それらによって被害者の同意しない意思表示などを難しい状態にして性行為をした場合は、不同意性交罪に問われます。

たとえば会社の上司が部下に対して自らの立場を利用して、部下が不同意できない状況にした上で性行為をした場合です。「強制性交罪」から「不同意性交罪」への罪名変更には、「同意のない性行為は処罰の対象となることを明確に示す」狙いがあります。

「性的同意」について、ちゃかす人々

これを受け、SNSでは「だったら行為の前に書面で了解を得なければいけないのか」「後になって同意がなかったと言われかねない」などと主に男性だと見られるユーザーから不満の声が上がっています。

ただ、今回の改正方針では被害者の「内心」のみで判断がされるのではなく、性行為の状況、場所、2人の関係性などが精査され、犯罪成立には客観的な要素が必要です。

繰り返しになりますが、世の中では上司という立場を悪用して部下に関係を迫るケースが後を絶ちません。でも今後は、部下に関係を迫った際に身体的な暴力や言葉による脅迫がなくとも、罪に問われる可能性があるというわけです。

法務省が入る庁舎=朝日新聞社
法務省が入る庁舎=朝日新聞社

気になるのは、「性的同意を得ること」について、日本ではなんだかんだと「ちゃかす」男性がいることです。「事前に(女性の)許可をとるなんてあほらしい」と、性行為をする際に相手の同意がなくてもたいしたことではないと言いたげな言い回しが目立ちます。

「日本では嫌よ嫌も好きのうちなんだよー」といった悪ふざけもよく耳にします。性被害について、女性に限らず男性も被害に遭う可能性があるわけですが、女性の被害の方が多いのも現実です。そう考えると、一部の男性がいまだに「女性の嫌よ嫌よは好きのうち」と解釈しているフシがあるのは困ったものです。

「NoはNo」、大みそかの集団性暴行事件が世論動かしたドイツ

ドイツでは日本よりも一足早い2016年に「暴行・脅迫要件」が撤廃されています。相手が「私は嫌」と言葉を発したり、泣いたり、頭を横に振ったりして、同意しない意思表示をしたにもかかわらず、性行為を行った者は、たとえその際に暴行や脅迫がなくても刑に処するとしています。

Nein heißt Nein.(発音:ナイン・ハイスト・ナイン。意味は英語のNO means NO.と同じ。和訳は「イヤはイヤ」)のスローガンのもと、現在のドイツでは、双方の意思があってこその性行為だというのが社会の共通認識です。

筆者がドイツに住んでいた1990年代も性的同意についてメディアなどで頻繁に議論されていましたが、当時はまだ暴行・脅迫が伴わないと罪には問われなかったため、当時は男性を中心に「許可をイチイチとるなんておかしいよな~」と今の日本のような「ちゃかし」をする人がたびたび見られました。

2015年の「ケルン大みそか集団性暴行事件」が一つのきっかけとなり、翌年2016年の刑法改正につながりました。

ドイツでは大みそかに外で花火を打ち上げながら、お酒を飲み、年の変わり目を大勢でお祝いする習慣がありますが、2015年の大みそかから2016年元旦にかけて西部ケルンで年越しを祝っていた女性たちから、集団強姦や痴漢、窃盗の被害に遭ったと500件以上の被害届が警察に出されました。

多くの女性が被害に遭ったにもかかわらず、ドイツのメディアは事件後の数日間、この事件をあまり報じませんでした。後にモロッコ人やアルジェリア人などの北アフリカ出身の男性が数多く逮捕され、その中にはドイツで難民申請中の人が複数いました。「メディアは外国人への偏見を助長させないためにあえて報道を控えたのではないか」と世間から非難される事態となりました。

この「ケルン大晦日集団性暴行事件」の翌年に刑法改正がされてから、自らの性被害について声を上げる女性が増えました。報道によると、刑法改正前である2015年には性犯罪について38564件の捜査手続きがあったのに対し、改正後である2019年には56798件の捜査手続きがとられました。

夫婦間であってもレイプはレイプ

ドイツでは1997年から、夫婦であってもレイプ罪が成立するようになりました。

それまでは、たとえば妻にとってはそれがレイプであっても、法的には夫婦間のことだからとレイプには該当しないと見なされていたため夫が罪に問われることはありませんでした。

しかし80年代や90年代に女性団体を中心に「結婚していない男女であれば、罪に問われる行為が、結婚しているからといって罪に問われないのはおかしいのではないか」との声があがり世論も大きく動きました。

ただこの夫婦間のレイプについても、結婚していない男女間のレイプと同じく、暴行や脅迫が伴わないとレイプだと認められていませんでした。しかし、2016年の刑法改正後は、相手がノーと意思を表明したにもかかわらず性行為に及ぶことは罪となります。

「性的同意」について、「欧米と違って日本は契約社会ではないから、あまりに白黒はっきりとするのは違和感が…」という見解も聞きます。確かに日本とドイツなどの欧米の国との間には文化の違いがあります。

ドイツの人が物事を直球で言う「ローコンテクスト文化」であるのに対し、日本の人は言葉を発さない「あうんの呼吸」を好み、物事をはっきりと言わない「ハイコンテクスト文化」だとされています。

でも日本でも性被害が大きな問題となっている今「文化が違うから仕方ない」とは言えません。今回「強制性交罪」から「不同意性交罪」に罪名が変更されることで、人々の「不同意意識」が広まることに期待したいです。