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「妊娠したい?したくない?」は昔の話 大きく変わったアプローチ

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
モンタナ州ミズーラの自宅で生後6カ月の娘エマーソンを抱くカーリー・タグル=2019年2月11日、Louise Johns/©2019 The New York Times

研究者や医師たちは、妊娠は計画的か計画外かのどちらかだと考えがちだった。しかし、実際には二者択一では判断できないという新たな調査データが明らかになった。かなりの女性がそのどちらでもないと感じているというのだ。データは、妊娠した女性の5人に1人が本当に赤ちゃんを欲しがっているかどうか自信が持てないでいることを示している。

この最新データは、医師や為政者たちが家族計画を策定するうえで大きな影響を及ぼすとみられる。医師が、妊娠したいか自信が持てない女性たちに避妊や妊婦健診で助言をする際も、従来の対応では不十分といえそうだ。

「これまで私たちは妊娠を二元的にとらえてきた。妊娠したいのか、したくないのか、と。では避妊だ、あるいは妊婦用のビタミン剤が必要だ、と。そうではなく、妊娠をもっと連続的にとらえるべきだ」。家族計画と避妊政策を研究しているオレゴン健康科学大学の産婦人科医マリア・イサベル・ロドリゲスはそう指摘した。

最新データは、米疾病対策センター(CDC)が母親になったばかりの女性を対象にした大規模調査の内容を変更したことで明らかになった。妊娠願望に関する質問の回答欄に「自分が望んでいたかどうか、分からなかった」という項目を入れたのだ。その結果、得られたデータは、本当に妊娠したいのかどうか決めかねている、あるいは妊娠を強く望んでいても複雑な思いを抱いている女性が何人もいることを示している。最新の分析結果は2014年分で、米民間調査機関のグットマッハー研究所がこのデータと妊娠中絶手術に携わった医師のデータを組み合わせて出した。明らかになったのは、妊娠した女性の9%から19%が、望んだ末の妊娠かどうか「分からなかった」ということだった。

他に「子どもが欲しいか」、あるいは「もっと欲しいか」を尋ねる調査も行われた。先進各国で行われた妊娠に関する33件の意識研究を分析したところ、ざっと5人に1人から3人に1人の女性が「分からない」と答えた。ニューヨーク・タイムズと米調査会社モーニングコンサルトが米国内の20歳から45歳の男女を対象に調べた結果、まだ子どものいない人の16%が本当に子を欲しいかどうか「よく分からない」と答えた。

グットマッハー研究所の上級研究員アイザック・マドー・ジメットによると、妊娠に対する女性のあいまいな意識は、まだ分析結果が発表されていないけれど、経済的負担や人生設計を思いあぐねている若い世代や妊娠可能年齢ぎりぎりの女性によくみられる傾向だ、と明かした。また、白人より黒人の方があいまいな傾向にあり、少なくとも2人の子を持った親にも同様の傾向がある、とも語った。

妊娠に対する女性の意識が高まり、計画外妊娠であっても多くが望ましいものになり得ることも確認された。

クリスティン・ジェニングス(33)はかつて不妊症かもしれないと言われ、妊娠をあきらめた。だが1年前、彼女と夫は経済的な見通しが立ったと思い、避妊薬の服用をやめたらどうなるか試してみることにした。すると驚いたことに数週間後の妊娠検査で陽性になった。

「あれは本当に変な気持ちになった瞬間だった。もし私たちが本当に子どもが欲しくて、希望も持っていたら、本心から興奮しても当然だったのに」とジェニングス。「それでも、私はうつむいていた。まるで、こんなことは期待していなかった、といった感じだった」と当時を振り返って言った。

数週間後、彼女は勤務先のオハイオ州クリーブランド郊外の工業会社で大昇進を打診された。「特にあの月に妊娠していなかったら、おそらく私は夫に言っていただろう。『私は産めない。仕事に集中したいの』って」

オハイオ州メンターの勤務先を久しぶりに生後11カ月の娘ジェイドと訪れたクリスティン・ジェニングス=2019年2月11日、Maddie McGarvey/©2019 The New York Times

ジェニングスの複雑な感情は徐々に熱中に転じた。彼女は生後11カ月の娘ジェイドを愛している。新しい仕事もうまくいっている。今振り返れば、妊娠当初は複雑な思いにかられて孤独だった。「母親になるのを切望する女性たちに囲まれていて、私と同じ思いをしている人は一人として知らなかった」とジェニングス。

妊娠し、母親になる。それが女性に複雑な感情を抱かせることは、社会学者もフィールドワークで知っている。女性は理想的な母親像という社会規範に影響されやすい。また、セックスと妊娠を結び付けるロマンチックな考え、それに子の世話と仕事の両立でも社会的な影響を受けやすい。

今日、女性は教育レベルも高まり、一生の仕事を持つようになってきた。選択肢が多様化し、女性はより多くの矛盾に直面するようになった。婚期も出産年齢も遅くなっている。一方で、多くの女性は住宅価格の高騰や学生ローンの記録的な負債を抱え、子の養育費も増大しているため、子どもを持つことに不安を抱いている。避妊はいっそう身近になり、費用もそうかからず、しかも効果的になってきている。

「本当に子どもが欲しい、でもそれがまだ許される状況にはない。背景はさまざまだが、そう感じている女性たちがいる」とロドリゲスは言った。

カーリー・タグル(19)は妊娠したことが分かった時、「本当に驚いて、どう感じたらいいのかまったく分からなかった」という。赤ちゃんの父親はすでにいなかった。彼女は友人宅の長椅子を借りるだけのホームレスだった。

「私は娘を産みたくない訳ではなかった。娘に必要なことを何一つできないことが嫌だった」。それでも、赤ちゃんの性別が分かったことが未来をより想像しやすくしたようだ、とタグル。必死に自立の道を探し、自分が住むモンタナ州ミズーラの町に、住宅や医療、ベビー用品その他のサービスを提供してくれる「マウンテン・ホーム・モンタナ」というプログラムにたどり着いた。今はGoodwill(訳注=グッドウィル、リサイクルショップ)で働き、高校の卒業証書ももうじき手にするまでになった。

「今はとても感謝している」。生後6カ月の娘エマーソンについて彼女は言った。「私はこの娘を愛している。それ以外に私の人生は考えられない」とも。

かつて家族計画に関する政策の重点は「意図しない妊娠」の数を減らすことに置かれていた。しかし、何人かの専門家は「意図しない妊娠」ではなく「望んでいない妊娠」を減らすことの方がより重要だと指摘する。ルイジアナ州立大学で生殖意欲を研究している社会学者ヘザー・ラキンは「意図しない妊娠は、我々が考えているほど否定的な結果にはならないとみられる。かえって肯定的な結果をもたらすケースもある」と話した。

ここ数年、全ての女性患者に妊娠を望んでいるかどうかを積極的に問う医師が出てきている。女性が妊娠を望んでいないなら、医師は経口避妊薬やコンドームより効果的な長期作用型の避妊具(訳注=体に埋め込んで使用する)を提供できる。この避妊法の中止も医師が診察して行う。妊娠したいか自信がない女性は一貫性に欠けた避妊法をとる傾向があり、さまざまな選択肢が必要だろう。

妊娠に矛盾した思いを抱いている女性には、出産前の医療ガイダンスに加え、もっと楽に元に戻せる避妊法の処方が最良の治療になる。産婦人科医のロドリゲスは、妊娠したいか自信が持てないと言う女性に、念のため胎児の健康を考えて葉酸(訳注=ビタミンB群の一種)を摂取することや緊急の避妊や中絶の選択肢などについて話す。また、家族計画や年齢、生殖力などに関する悩みなどについても問いかけ、ストレス要因をできるだけ減らすようにしている。

新たなデータは、妊娠した女性だけでなく妊娠・出産できる年齢期にある女性に継続的な医療を提供していくことの重要性を示している、とロドリゲスは話している。(抄訳)

(Margot Sanger―Katz and Claire Cain Miller)©2019 The New York Times

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