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韓国の「美容整形文化」に反旗を翻した女性たち

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
キム・チヨン。韓国社会の美の基準に異を唱えて立ち上がった女性グループのメンバーの一人だ=Jean Chung/©2018 The New York Times

キム・チヨンは7歳だったころ、美容整形の手術を受けたいと思ったのを覚えている。以来、彼女は上下のあごの整形費用を親が出してくれるまでの13年間、自分が写った写真を破り捨ててきた。あごを一度砕いてから整えるという手術だ。

その後キムはすぐに、どうして容貌(ようぼう)にそんなにこだわるのか――彼女の計算では、ひと月200ドル、1日2時間を費やしていた――、疑問を抱くようになった。髪を短く切った。それから化粧品を粉々にして捨てた。

現在22歳のキムは、韓国社会の硬直した美容基準に抵抗する女性グループの一員だ。「コルセットから抜け出せ」(訳注=コルセットは胴などを締め付けて体形を整えるための女性用下着だが、比喩的に「制約」の意味もある)と呼ぶ運動グループで、仲間は増えている。女性たちは、男性支配の文化が深く根付いている韓国社会を揺るがすグローバルなセクハラ告発運動「#MeToo」にも触発され、世界で最も過剰な美容偏重社会の一つで受け入れられてきた美容整形や化粧に関する古い態度に反旗を翻したのだ。

キム・チヨンが持っているイヤリング=Jean Chung/©2018 The New York Times

「韓国では女性蔑視がどんどんひどくなっており、美容産業が事態をさらに悪くさせている」とキムは言う。

韓国では美しいことが大事だ。ここでは、1人当たりの美容整形手術率は世界一で、しかも比率は上がり続けている。美容整形ツアーの目的地になっている。グローバルな市場調査会社「Mintel(ミンテル)」によると、韓国の美容マーケット――化粧品やマスクなどのフェイシャルケア製品――は、2017年には130億ドルの売り上げがあり、世界のトップ10に入っている。

男性もこのマーケットにますます組み込まれているが、美容への圧力は主に女性に向けられている。多くがかなりの美容整形手術を受けているK―POPのスターたちが、その標準として持ち上げられている。何百万人ものフォロワーがいるYouTubeのセレブたちは、詳細なメイク動画をアップしている。バスでも、地下鉄でも、テレビでも、女性向けの美容広告があふれかえっている。

「生まれながらの美人?」。ソウルの地下鉄の広告に、こうある。「そんなの真っ赤なウソ」

女性たちはいま、反撃にでている。2018年の夏には数万人が結集し、抗議の声をあげた。性的暴行や盗撮ビデオ用の隠し撮りカメラの普及、美容から法律に至るまで社会のあらゆる分野で女性が直面する厳しい基準に対しての異議申し立てだ。

政治的、経済的な格差が怒りの火に油を注ぐ。男女間の賃金格差は韓国がOECD(経済協力開発機構)加盟国のなかで最も大きい。女性が国会(一院制)に占める割合は全議席の6分の1、企業では役員の10分の1にすぎない。

リナ・ペの名で知られるペ・ウンチョン(21)は美容指導をするYouTubeのスターだ。彼女は2018年の早い時期に脱コルセット運動のことを知り、自身のYouTubeのコメント欄への書き込みを注意深く点検した。その多くは少女たちからで、化粧をすると学校へ行く勇気が湧いてくると言うのだ。

ぺ・ウンチョンは化粧品でいっぱいになっている引き出しを見せてくれた=Jean Chung/©2018 The New York Times

「何かがすごく間違っていることに気付いた」とペは振り返る。「彼女たちに、お化粧なんかしなくても大丈夫ということを伝える新しいビデオをつくろうと思った」

そして6月、クリーム、ファンデーション、アイライン、つけまつげなどで丹念に化粧をほどこすビデオをYouTubeにアップした。

その後、ペはメイクをすべて落としてみせ、ビューアーにこう告げる。「あなたのことを他人がどう見ようと、それほど気にしないで。そのままのあなたこそが格別で、美しいのだ」と。

YouTubeではリナ・ペの名前で知られるペ・ウンチョン。彼女はメイクをしている姿をYouTubeで見せている=Jean Chung/©2018 The New York Times

このビデオは550万回再生された。ペのYouTubeのフォロワーは2万人から14万7千人近くに激増した。ある出版社は彼女に、本を書くようもちかけた。彼女は髪を短くし、化粧をすることもやめたことで、月に500ドル近く出費が抑えられた。目下、彼女のビデオは料理や意見交換に焦点が移されている。

チャ・チウォン(22)は都市再生会社でビデオコンテンツのクリエーターをしているが、2018年に脱コルセット運動に参加し、自分のYouTubeチャンネルを開設した。フォロアーは3万人になった。以前、彼女は化粧品に月700ドルをつぎ込んでも十分ではないと思ったことがあるほどだった。いまは、化粧品をオモチャにして遊びに使っている。

ソウル近郊のスウォン(水原)で、YouTube用に朝の支度の様子を動画に撮影するチャ・チウォン=Jean Chung/©2018 The New York Times
都市再生会社のビデオコンテンツ・クリエーター、チャ・チウォンがスマホに残していたかつての自分の写真。脱コルセット運動に参加する前の2018年2月に写したものだ=Jean Chung/©2018 The New York Times

だが、脱コルセット運動は醜い反発を引き起こした。

キム、ペ、チャ――3人とも髪形は、この運動を特徴づけるマッシュルームカット――が言うには、いずれも暴言や殺害の脅しの標的にされている。キムは、将来上司になる可能性のある2人の人物から、女性らしさが不十分だと告げられた。

社会的なプレッシャーも依然として強い。イム・スヒャンは、整形手術をしてイメージの問題と取り組む若い女性を描いた韓流ドラマ「私のIDは江南(カンナム)美人」で主人公を演じている。題名のカンナムは、通りに美容整形クリニックが軒を連ねるソウルの高級ビジネス地区だ。

美容整形をした若い女性のことを描いた韓流ドラマ「私のIDは江南(カンナム)美人」で主役を演じているイム・スヒャン=Jean Chung/©2018 The New York Times

「私は、仕事の性質ゆえに、人びとの目が私に注がれるということへの意識から抜け出しているなんて、とても言えない」。イムは、カンナムのヘアサロンでインタビューに応じて、こう答えた。「私を見て。髪をセットし、化粧を施し、爪を整え、かわいい服装をした」 彼女はほほ笑み、こう話した。「自由になれないのだ」(抄訳)

(Alexandra Stevenson)©2018 The New York Times

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