Review1 一青窈 評価:★★★(3=満点は★4つ)
己の強さと弱さ見つめる
「娘がいるから頑張れる」という言葉が重く響く。外の世界で何が起こっているのかを伝えることが使命だとする片目眼帯の仏人記者と、クルド人女兵士が主軸となって進む映画。
改めて、昨年ノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラド氏の著書『THE LAST GIRL』を読み、どう力になれるのか全くの途方に暮れた。911のテロでツインタワーが崩れる映像を目の当たりにした感覚に似て、あの瞬間は涙ながらにハナミズキの原詩を書いた。やはり言葉が浮かんだ。〈誰のために狂っているのだ/男たちよ/何のために戦っているのだ/男たちよ/娘の生贄も/金も幾らあってもお前を癒さない/満たさない/ではなんのため/国、世界、未来/何の為に/聖なる戦いならば/なぜに神は血を望むのだ〉
もし突如自分が拉致されたならば、それでも翻って女性部隊に並ぼうと奮い立つ事が出来るだろうか。誰だってもともと戦闘員ではなかった。銃を持って寝ることでしか安心を得られない人たちの気持ち、今もイラク北部で虐殺される一般市民、性奴隷となっている女性の人生を考えると、自分はもっと強く生きなければと望んでしまう。己の弱さと強さを見つめ直す作品だ。
Review2 クロード・ルブラン 評価:★☆(1.5=満点は★4つ)
「古典」抜け出したが……
戦争は男たちだけのものではない。エヴァ・ウッソン監督はこの作品で私たちに、女性、とりわけイスラム国と戦うクルド人の女性たちが、戦場の最前線に立っていること、そして、対立の中で決定的な役割を果たせることを示そうとしている。
「#Metoo(私も)」の波が世界に広がった後に開かれたカンヌ映画祭での上映は、この長編作品のテーマに沿ういいタイミングだった。
しかし、満足のいく結果を得るためには、作品を撮る狙いが良いだけでは不十分なのだ。『バハールの涙』はそのことを示す作品になってしまっている。ジハード(聖戦)を掲げるテロリストにさらわれて奴隷にされたヤジディ教徒のコミュニティー出身の女性たちの戦いをあまりにも強調したいがために、演出がある種の風刺のようになってしまい、ウッソン監督が本来目指していたはずの物語を損ねてしまっている。
対立の複雑さや女性たちが戦闘に加わる理由を描く部分が弱く、見ていても心から納得できない。
とはいえ、非常に男性的な題材のはずなのに、ウッソン監督は古典的な戦争映画から抜け出すことに成功している。それができた時点ですでに、大したものではある。