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子育てのスキル「MAAM」は仕事にも生きる 日本女性よ、自信を持って社会へ

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――開発のきっかけは、ご自身の経験だそうですね。

私は大企業で管理職として成功していました。36歳の時に出産という非常に素晴らしい経験をしたのですが、会社は私の思いとは違い、問題ととらえたのです。

日本はもっと高いようですが、イタリアでは女性の就業率が低く、50%にも達しません。私は退職し、次のステップに進むことにしました。母親のためのコワーキングスペースを開き、多くの働く母親たちの話を聞いてMAAMを着想したのです。

彼女たちは皆「子育てが私のリーダーシップを培う」と言いました。私はMBA(経営学修士)を持っていますが、子育てはMBAのようにスキルを身につける経験だと思いました。

リカルダ・ゼッザ氏=秋山訓子撮影

――たとえばどんなスキルでしょうか。

子育てでは予期せぬことが次々に起こりますから、それに素早く対応する能力が求められます。多くの人に頼らなければいけませんから、チームワークも必要です。共感力や効率性のほか、子どもの幼児言葉を理解し一緒に遊ぶことで創造力、頭の回転の速さ、さらには時間管理能力も身につくでしょう。これらは全てリーダーシップを培う機会にもなりうるのです。

子どもを愛情込めて世話することはリーダーシップにつながる。それはまさに、心理学者エリック・エリクソンの言う「はぐくむリーダーシップ」(generative leadership)です。

――そのリーダーシップを職場や仕事でも生かせるというわけですね。

ある役割で使うエネルギーを、他の役割へと転用するこの能力を、私は「トランジリエンス(transilience)」と名付けました。日常の習慣や行為が実は思わぬ力を持っていることを再発見し、利用することです。新しい視点で見直すと、自分には思ってもみなかったスキルがあると気づくのです。

――リーダーシップ醸成は脳の科学的な変化に基づくことを強調していますね。

誰かの世話をするとき、脳やホルモンに変化が起こります。たとえば、子どもを世話することで母親だけでなく父親や、誰かを心をこめて世話する人にもオキシトシンが分泌され、愛情が深まることは実証されています。

プログラムは男女別につくられ、これまでに3千人の母親と1千人の父親が学びました。ほとんどの女性が、プログラムを受けて強くなったと感じ、自分のスキルを認識したと答えています。男性は自分の感情について話しやすくなり、人の話を聞くことや共感することを学んだという感想が多いです。

――昨年11月に来日してワークショップや講演をされましたね。

企業の管理職の女性を対象にしたワークショップでは、みるみるうちに女性たちの表情が生き生きとして、目が輝いていくのがわかりました。修了後に女性が「子育てがハンディにならないとわかって自信がついた。リーダーに立候補してみることにした」と感想を寄せてくれました。

講演に来た大学生は「私の両親は幸せそうではないので、子どもを産みたくなかった。でも講演を聞いて子育てをしたくなりました」と言っていました。

日本女性に言いたいのは、今こそ新しいモデルが女性にも社会にも必要とされている時だということです。何でも完璧にこなそうとせず、もっと楽しく考えてみたらどうでしょう。自分が犠牲になろうなどと考えず、解決法を作り出すのです。確かに社会を変えるのは簡単ではありませんが、今のままでは持続可能ではないというのは自明なのですから。

Riccarda Zezza 社会起業家、MAAMプログラム開発者

イタリア生まれ。ノキアの部長などを経て独立。「MAAM 母親業という修士号」を出版後、子育ての経験が仕事に役立つスキルとなるオンラインプログラムを開発し、イタリアでは40社が導入。小学生の子ども2人とミラノ在住。