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飛行機移動は「飛び恥」SAF導入進む欧州 航空券は割高に 世界でルール分断の課題も

World Now 更新日: 公開日:
エールフランスの航空機
エールフランスの航空機=エールフランスKLM提供

ジェット燃料より高額のSAF(持続可能な航空燃料)を利用する航空機のチケットは、割高になるのは避けられそうにない。気候変動対策の費用を利用者が広く負担する考え方だ。CO2をたくさん出す飛行機での移動が「飛び恥」と批判された欧州では、航空会社のSAFの導入が先行して進む。

「持続可能な航空燃料に貢献し、お客様のCO2排出量を削減しましょう」。仏エールフランスのホームページで航空券の購入手続きを進めると、こんな言葉が表示される。東京-パリを往復すると1人あたり1230キログラムのCO2を排出すると記され、この排出量を削減するオプションが選択できる。削減する排出量に応じて3段階の選択肢があり、追加費用の約7000~14万円はSAFの調達にあてられるという。

エールフランスKLMのサステナビリティー担当幹部のファティマ・ダ・グロリアさんは「航空会社のなかでもSAFのフロントランナーだ」と胸をはる。昨年は世界で生産されたSAFの16%を仕入れ、全ジェット燃料の約1%をSAFに置き換えた。

ネステや米DGフューエルズと複数年の売買契約を結び、計160万トンの供給を受ける。地元の石油大手トタルエナジーズからも計80万トンを仕入れる契約を結び、2030年に燃料の10%をSAFに置き換える計画は「十分に可能だ」とみる。

エールフランスKLMのファティマ・ダ・グロリアさん
エールフランスKLMのファティマ・ダ・グロリアさん

ただ、環境意識が高い欧州とはいえ、必ずしもSAFの認知が広がっているわけではないようだ。

オランダのスキポール空港からロンドンに帰国する会社員の男性に聞いてみると、「KLMをよく利用するが、SAFというものは初めて聞いた。料金を支払っていたことも知らなかった」。オランダの大学に通うトルコ人の女性は「良い取り組みだと思うが、上乗せ料金を支払うかは金額次第で判断する」と話した。

ダ・グロリアさんは「SAFのオプションを選んでいる人数は非公表だが、決して多いとはいえない。もっと多くの人に協力してもらう必要がある」という。

エールフランスKLMの本社があるフランスでは、航空業界の脱炭素規制が進む。仏政府は昨年から、高速鉄道で2時間半以内の距離にある国内線の運航を禁止。エールフランスはパリのオルリ空港を発着する3路線から撤退。鉄道と組み合わせたチケットを販売している。

EUの規制強化で50年にSAF混合70%へ

フランスでは、すでに燃料の供給事業者にSAF1.5%の混合が義務づけられている。さらにEUの規制強化によって、域内では2025年には2%、2030年には6%、2050年には70%に引き上げられる。日系の航空会社も含め、域内の空港を出発する全ての航空会社が追加の負担を迫られることになる。

ダ・グロリアさんは「SAFの普及のために規制は必要だ。価格と生産は鶏と卵の関係にあり、価格が高いと使わないが、生産量が増えなければ生産効率が上がらず、コストは高いままだ。義務化によってこのサイクルを破る必要がある」と評価する。エールフランスKLMはフランスやオランダ発の便では、オプションではなくチケット代にSAFのコストを組み込んでいる。

オランダのスキポール空港で待機する航空機
オランダのスキポール空港で待機する航空機

ルフトハンザも欧州などを結ぶ一部の経路で「グリーン運賃」の販売を始めている。この運賃を選ぶと、運賃の一部がSAFの調達資金に充てられ、残りは環境保護プロジェクトに使われる。グリーン運賃を選ぶ人は、対象路線の乗客のうち4.7%ほど。ルフトハンザの日本・韓国支社長、ローレンス・ライアンさんは「想定の2倍の人が利用している」と手応えを語る。

一方で、日本発着の便ではまだ導入されていない。共同運航する全日本空輸(ANA)と料金体系をそろえているため、独自に導入するのは難しい面があるが、背景には環境問題に対する向き合い方の違いがあるという。「日本や東南アジアは、欧州と比べ環境保護への意識は高いとはいえない。日本でも理解を得るには、さらなる取り組みが必要だ」と指摘する。

日本国内でも徐々に導入が進む。ANAは企業向けにSAFの利用を選べるプランを販売している。環境への取り組みが企業の評価基準となるなか、貨物輸送や出張などの企業活動で排出するCO2を削減したいという企業の需要を取り込み、計16社が利用する。日本航空(JAL)は期間限定で、ニューヨーク─羽田の定期便でSAFをとりいれた。

価格高止まりのSAFか、割安のクレジットか

世界的にSAFの導入が進むなかで、新たな課題にも直面している。

一つが認証基準のローカルルール化だ。ICAOが今年から始めたCO2の削減を求める新しいルールでは、CORSIAの基準を満たすSAFを使うか、削減量を売買する仕組みの「カーボンクレジット」を買って削減にあてる必要がある。

ただ、EUは独自に基準を設け、CORSIAで認められるパーム油を制限している。一方、米国は自国産業の保護のため、トウモロコシなどから生産されるエタノール由来のSAFの製造を促進する動きがあり、製造プロジェクトに補助金をつけている。

CORSIA基準のSAFが少数派となった場合、製造量が増えず、価格競争も起こりづらくなる懸念がある。欧米の航空会社がSAFより割安なカーボンクレジットを購入することになれば、CORSIA基準の調達を念頭に置く日本企業などは不利な状況に置かれかねない。

ANAの脱炭素チームのマネジャー、吉川浩平さん(42)は「対等な競争環境が保てないという指摘が海外からも出始めている。ルールの分断がSAF普及の足かせとなりかねない」と懸念する。

ANAとJALのSAFの購入コストは今後、年間数百億円規模にふくらむ可能性もある。JAL燃料グループマネジャーの熊倉賢さん(46)は「脱炭素の手段としてSAFの優先順位を高く考えているが、市場にあるSAFは非常に少量で、カーボンクレジットの方が割安でもある。コストを考えると悩ましい状況だ」と打ち明ける。