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脱コンクリで脱炭素、調湿効果 炎天下でも快適、若い世代が担う地産地消の「土の家」

World Now 更新日: 公開日:
ジンガ・ンブップさんが設計した建設中の「土の家」=2023年12月22日、セネガル西部ガパル、荒ちひろ撮影
ジンガ・ンブップさんが設計した建設中の「土の家」=2023年12月22日、セネガル西部ガパル、荒ちひろ撮影

近現代の建築は鉄やコンクリートを使い、耐久性の高い建物を実現してきました。しかし、これらの建材に由来する二酸化炭素(CO₂)がいま、重荷になっています。アフリカでは、これまで以上に暑さ対策への意識が高まり、伝統を生かした「脱コンクリート」の家が見直されています。新たな動きを担うのは、若手の建築家や起業家たち。アフリカ西部セネガルを訪ねました。

分厚い土れんがが熱を吸収、湿度を調節

首都ダカールから南東へ約60キロ、大西洋岸沿いの町ガパルに昨年12月末、建設中のある住宅を訪ねた。

明るい赤茶色の壁に丸い窓、天井は緩やかなアーチを描いている。シンプルだが温かみのあるモダンなたたずまいが目を引いた。

2階建ての「土の家」だ。この地域で豊富にとれるラテライト(紅土)に数パーセントのセメントを混ぜて圧縮した、土れんが(圧縮土ブロック、CEB)でできている。

互い違いに積み重ね、泥で固めた壁は、30センチの厚みがある。この日の気温は35度近く。じりじりとした日差しの下から足を踏み入れると、すっと暑さがひくのを感じた。

ジンガ・ンブップさんが設計した建設中の「土の家」。炎天下でも中はひんやりと涼しい。真ん中が玄関で、右奥はリビングルーム=2023年12月22日、セネガル西部ガパル、荒ちひろ撮影
ジンガ・ンブップさんが設計した建設中の「土の家」。炎天下でも中はひんやりと涼しい。真ん中が玄関で、右奥はリビングルーム=2023年12月22日、セネガル西部ガパル、荒ちひろ撮影

「分厚い土れんがの壁が熱を吸収し、涼しく保たれる。湿度を調節する性質もあり、家全体が呼吸をするように快適な状態を生み出します」

設計した建築家のジンガ・ンブップさん(35)が、土の家の利点を説明した。

ンブップさんは、セネガル人とカメルーン人の両親のもとに生まれ、南アフリカや英国で建築を学んだ。ロンドンの大学院では「CO₂ゼロ」の住宅を研究したが、主流は自然エネルギーの利用など先端技術を使うことが前提だった。「でも、すべての家にソーラーパネルをつけることはできない。到底、資源が足りません」

「生体・気候建築」を掲げるセネガルの建築家のジンガ・ンブップさん=2023年12月22日、ダカール、荒ちひろ撮影
「生体・気候建築」を掲げるセネガルの建築家のジンガ・ンブップさん=2023年12月22日、ダカール、荒ちひろ撮影

本当に持続可能な建築とは――。その後、携わったセネガルでのプロジェクトで、建物の一部に使った土れんがに、糸口を見いだした。「私たちの足元には土がある。科学的な蓄積もある。現代的な建築デザインが加われば、もっと受け入れられる」

2019年、フランス人建築家と首都ダカールで建築事務所を立ち上げた。その土地の気候や環境にあった「生体・気候建築」を掲げ、地産地消の建材を使い、快適で環境に適した建築デザインに取り組む。建設中の家も、空気の流れや日射の向きなどを考慮して、窓や吹き抜けを配置している。

土や泥を使った家づくりが行われてきたセネガルだが、現在では都市部を中心に鉄筋やコンクリートの建築が主流だ。だが、コンクリートは熱を伝えやすく、蓄えやすいため、日中の暑さで室温が上がりやすく、夜間に外の気温が下がってもコンクリートから熱が放出され、室内は涼しくなりにくい。「一日中、冷房に頼らざるを得なくなる。年中気温の高いセネガルには適していない」

土の家の利点は、住み始めてからの省エネだけではない。鉄やコンクリートは、製造時に化学反応や化石燃料の利用で多くのCO₂を出し、建材の輸送にもエネルギーを使う。地産地消の日干しの土れんがなら、大幅に減らせる。

土れんがの研究は半世紀以上前から進み、セネガルでは、以前から建築基準もある。地元の自然素材を使っても、「十分に頑丈で機能的な家をつくれる」と力を込める。

伝統的な建築にモダンなデザインと機能を

「土の建築は昔からあったもので、私たちはパイオニアでも、スタート地点でもありません」。ンブップさんはそう強調するが、土の建築を見直す動きはいま、少しずつ社会に広まりつつある。

ロシアによるウクライナ侵攻で、小麦の値段が上がり、私たちがいかに膨大なエネルギーを消費して輸入品に依存してきたかが改めて浮き彫りになった。「地元の資源を生かす時が来たのだと思う。建築を通して、伝統と再びつながり、未来へつなげていきたい」

「生体・気候建築」を掲げる建築家のジンガ・ンブップさん(左)とニコラス・ロンデさん。2人はダカールで建築事務所「Worofila」を立ち上げた=2023年12月22日、荒ちひろ撮影
「生体・気候建築」を掲げる建築家のジンガ・ンブップさん(左)とニコラス・ロンデさん。2人はダカールで建築事務所「Worofila」を立ち上げた=2023年12月22日、荒ちひろ撮影

ンブップさんが使う土れんがの製造元「エレメンテール」の共同創設者ドゥドゥ・デメさん(41)も、土の建築の良さを伝えようと取り組んできた。

工場を訪ねると、赤茶色の土埃が舞う中、十数人がテンポ良く流れ作業で土れんがをつくっていた。

大型トラックで原料のラテライトが運び込まれると、慣れた手つきで大きなシャベルでふるいにかける。土を型に入れ、手動の圧縮機にセットする。てこの原理を使った大きなレバーで2人がかりで圧縮し、天日で乾燥させる。

次々と新しい土れんがが並べられていった。

できあがったばかりの土れんがを持つ「エレメンテール」の共同創設者ドゥドゥ・デメさん=2023年12月23日、セネガル西部、荒ちひろ撮影
できあがったばかりの土れんがを持つ「エレメンテール」の共同創設者ドゥドゥ・デメさん=2023年12月23日、セネガル西部、荒ちひろ撮影

デメさんが土れんがに着目したのは、フランスで土木工学を学んでいたころ。頭に浮かんだのは、祖母が暮らす泥の家。外がどんなに暑くても、中はいつも涼しかった。

セネガルに戻って2009年に会社を立ち上げた。だが、当初はなかなか売れなかった。土れんがを使った建築に対し、「お金のない田舎の古い家」というイメージが根強いのだという。イメージを覆すモダンで機能的な建物のお手本が必要だと考え、「まずは自分で建てよう」と、自社の土れんがを使った住宅やホテルを建てた。

土れんがなど自然素材をつかった家づくりに取り組む建設スタートアップの共同代表マリアマ・バジ=2023年12月27日、セネガル西部、荒ちひろ撮影
土れんがなど自然素材をつかった家づくりに取り組む建設スタートアップの共同代表マリアマ・バジさん=2023年12月27日、セネガル西部、荒ちひろ撮影

志をともにする若い世代のすそ野は広がりつつある。Z世代の土木技師マリアマ・バジさん(25)は、専門学校で土木工学を学んでいた2019年、土れんがの存在を知り、デメさんらに教えを請うた。「学校で扱うのはコンクリートや金属ばかり。でも、自然とともに暮らしてきた民族にルーツがある私にとって自然環境を守ることは当たり前で重要なことだった」

安全で快適で環境に優しい家づくりをめざして同じ年に、建設スタートアップを立ち上げた。翌2020年、国連の「SDGsのためのヤングリーダーズ」17人の一人に選ばれた。

できあがったばかりの土れんが。地元のラテライトにセメントを混ぜて圧縮、日干してつくる=2023年12月23日、セネガル西部、荒ちひろ撮影
できあがったばかりの土れんが。地元のラテライトにセメントを混ぜて圧縮、日干してつくる=2023年12月23日、セネガル西部、荒ちひろ撮影

この3年で9棟を完成させ、さらに数棟を建設中だ。SNSを使ってクールで快適な土の家を発信し、実際に体感してもらおうと建材工場や建設した家のツアーも計画する。

年々厳しくなる暑さに原油高も重なり、冷房にかかる光熱費は右肩上がり。「土の家の価値を見直す人が増えていると思う。建築業界はCO₂排出の多くを負っている。土の建築の取り組みで、私の役割を果たしたい」