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人類は耕しすぎた…大量の炭素が大気に放出 不耕起栽培、「封印」策として期待集まる

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農業による温暖化対策「4パーミル(4/1000)・イニシアチブ」は、パリ協定が採択されたCOP21で始まった
農業による温暖化対策「4パーミル(4/1000)・イニシアチブ」は、パリ協定が採択されたCOP21で始まった=2015年12月、パリ

自然界に作物と雑草の区別はない。農業とは、人間にとって都合のいいものだけを育てようとする試みだ。

一方で、その土地や環境に最も適応した植物が雑草だ。ハンディキャップなしで競争すれば、作物の分が悪い。

これに人はすきなどを使って耕すことで対抗した。土壌環境を一変して雑草を根絶し、いったんゲームをリセットするのだ。

耕すことで、雑草を抑え、種をまく苗床を準備し、肥料を土に混ぜ込む。これにより作物の種子は、雑草よりも早く発芽して競争に勝てる。

こうした効果は短期的には農家にとって利益になるが、長期的には土壌の侵食や有機物の減少をもたらし、土を悪くする。

ギリシャやローマなどの文明は、土の劣化が原因で衰退したという説をとる研究者もいる。それでも人力や牛馬の力で耕していた時代はのどかだった。農地は限られ、今ほど耕してはいなかった。

しかし、農業機械で大規模に耕され、大量の水、化学肥料、化石燃料を使って、単一作物を大規模に栽培するようになると状況は一変した。食料増産につながったが、一方で地球温暖化をはじめ様々な環境問題を引き起こした。

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、世界の温室効果ガス排出量約520億トン(CO₂換算)のうち、農林業などの土地利用によるものは4分の1を占める。

土壌は巨大な炭素の「貯蔵庫」だ。大気には約3兆トン、森林などの植生にはCO₂に換算すると約2兆トン分がたまっているとみられているが、土壌にはその2倍以上の5.5兆~8.8兆トンがあるという。表土だけでも約3兆トンを貯蔵している。耕すことで、植物の根や微生物が地中にため込んだ炭素が大気中に放出される。

茨城大学農学部の農場では、20年前から不耕起栽培の研究が続けられている
茨城大学農学部の農場では、20年前から不耕起栽培の研究が続けられている=2022年6月、茨城県阿見町

地球温暖化防止の国際ルール「パリ協定」を採択した2015年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)の際に、フランス政府主導で「4パーミル(4/1000)・イニシアチブ」という活動が始まった。

全世界の土壌中にある炭素の量を、毎年0.4%ずつ増やすことができれば、人為的な活動による大気中への温室効果ガスの排出を帳消しにできるという。

それを根拠に、土を良くして土中の炭素を増やす「カーボンファーミング(炭素農業)」を世界中に普及させる取り組みだ。今では日本をはじめ各国政府や国際機関、農業団体、NGOなど700以上が登録している。

その有力な手段が「耕さない農業」だ。

土壌学者でオハイオ州立大学のラタン・ラル特別栄誉教授によれば、有史以来農業活動によって排出された土壌の炭素量は、産業革命以降に化石燃料の燃焼で排出されたCO₂を上回るという。

ラルさんは1970年代に重機によって大規模に耕されたアフリカの農場や土壌を調査し、不耕起栽培や被覆作物などによる土壌管理の有効性を実証した。「土壌を管理して病気の土を治せば、現在、そして将来の人口を養える」とラルさんはいう。

不耕起有機栽培の日本での草分け、小松崎将一・茨城大学教授は20年前から陸稲や大豆などを試験栽培し、耕起と不耕起による収量や炭素貯留量などを比べている。

その結果、不耕起と被覆作物のライ麦を組み合わせると、土壌の炭素貯留量が著しく増えた。温室効果ガスの亜酸化窒素などは増えたものの、CO₂の排出は半減し、差し引きで温暖化防止に役立つことがわかった。

小松崎さんは「日本は雑草が多く、不耕起に手間がかかる。だが、ロボット草刈り機を使えば除草剤を使わなくても、生態系に配慮した不耕起栽培は可能だ」と指摘する。

小松崎将一・茨城大学教授
小松崎将一・茨城大学教授

農地の炭素貯留には、世界の企業も注目している。農家に温室効果ガスの削減、生態系保全などを促すために、「エコシステム・サービス・マーケット・コンソーシアム(ESMC)」が炭素クレジットの排出量取引市場をつくった。カーギルやゼネラルミルズ、ネスレなど多くの大企業が参加し、ボードメンバーにはラルさんも名を連ねる。

カーボンファーミングへの大規模な資金流入は、不耕起栽培の世界的な普及へとつながる。ただ、土壌への炭素貯留量や排出量を管理するのは難しく、温暖化対策の抜け道にならないかを注視していく必要がある。