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飛行機で300キロ先へも、アラスカのフードデリバリーはスケールが違う 配達料は?

ニューヨークタイムズ 世界の話題
A fast-food takeout order on a plane with other cargo at Merrill Field in Anchorage, Alaska, April 21, 2022. With the help of bush pilots, residents of remote Alaskan villages can satisfy their cravings for city fare. (Kerry Tasker/The New York Times)
米アラスカ州アンカレジのメリルフィールド空港で、他の荷物とともに飛行機に積み込まれるファストフードの宅配袋=2022年4月21日、Kerry Tasker/©2022 The New York Times

われこそは、世界一高給取りの食べ物宅配ドライバー――そんな気分によくなる、とロバート・ゴーライク(38)は笑う。といっても、握るのはハンドルではない。セスナ機の操縦かんだ。

本職は米航空会社アラスカ・エア・トランジットのパイロット。最近のある朝も、アラスカ州最大都市アンカレジ東部にあるメリルフィールド空港の駐機場にその姿があった。

9人乗りの愛機に大量の荷物を積み込まねばならない。郵便物から農産物、赤ちゃん用のおむつ……。暮らしに欠かせない品々を、この日は200マイル(約320キロ)以上も離れたアッパークスコクウィム地方まで運ぶことになっていた。

でも、数々の積み荷の中で、受け取り手が最も待ち焦がれているのはこれだろう。料理宅配大手ドアダッシュの二つの包みだ。

一つは、アンカレジ市内にある「ペドロのメキシカングリル」店のステーキタコスとチュロス。もう一つは、やはり市内にある「フェイモス・ウォク」店のいくつかの持ち帰り中華の定番で、ローミンや牛肉とブロッコリーの炒め物、ツォ将軍のチキンなどだ。

注文したのはナタリア・ナバロ(29)とその家族。どの品にも、頼んだそれぞれの「街の味」へのこだわりと期待がこもっている。

「なんでも好きなものを注文できるけど、最高潮になるのは届いてから。まさに、心の底から味わい尽くすって感じになる」

ただ、そこまで没頭できるようになるまでには、長い道のりがある。

Takeout orders at the front desk at Alaska Air Transit before being boxed and refrigerated, in Anchorage, April 20, 2022. With the help of bush pilots, residents of remote Alaskan villages can satisfy their cravings for city fare. (Ash Adams/The New York Times)
アラスカ・エア・トランジット社の受付に届いた食事の注文品。これから箱詰めされ、保冷される=2022年4月20日、アンカレジ、Ash Adams/©2022 The New York Times

パイロットはまず、アンカレジから南西に進路をとり、重く沈んだように見えるクック湾の上を延々と飛ばねばならない。さらに、白くおおわれたアラスカ山脈の岩の頂をいくつも越え、ようやく湖沼地帯の一角にあるニコライの仮設滑走路にたどり着く。

注文品は、そこでナバロに手渡された。食べ物を入れた箱は、ほんの少しつぶれただけだった。

ナバロはここにある村の診療所で保健部門の補助要員として働いている。村の人口は100足らず。食料雑貨店もなければ、レストランもない。

だから、ナバロたちは月に1回か2回、ドアダッシュで注文するようになった。チキンとヘラジカの肉で作るスープやシチューの繰り返しという単調な食生活に変化をもたらすためだ。

今回の注文品は前日の午後にアンカレジの空港に届いていた。それを電子レンジで温めると、ナバロたちはそれぞれの味の世界に浸りきった。

実際に街で食べるのとは、確かに違う。「でも、宅配という選択肢があることは、ちょっとうれしい。できたてのほかほかというわけではないが、自分がほしいと思うものの雰囲気は十分に漂ってくる」

そんな熱い思いを満たすために、届ける側にはちょっと複雑な組み合わせが必要となる。

まず、宅配ドライバー。これに航空会社の職員とパイロットが加わり、どんな奥地や凍土の地にも街の味を送ることができる支援の鎖がつながる。

先のアラスカ・エア・トランジットは、数十社ある小さな地元航空会社の一つだ。いずれも、州全土に何百とあるへき地の集落の命綱になっている。

人の移動だけではない。ネットフリックスのDVDやアウトドア用品、雑貨といった日々の暮らしに欠かせぬ日用品も運んでいる。これに、ピザやビッグマック、しっかり包んだベトナム麺のフォーが加わるようになった。

Brian Bilodeau, a freight agent, places a food order in a hangar refrigerator at Alaska Air Transit in Anchorage, April 20, 2022. With the help of bush pilots, residents of remote Alaskan villages can satisfy their cravings for city fare. (Ash Adams/The New York Times)
アラスカ・エア・トランジット社の格納庫にある冷蔵庫に食事の注文品を入れる貨物運送業者=2022年4月20日、アンカレジ、Ash Adams/©2022 The New York Times

スパニカ・オルドネス(35)は、5年前にフォートユーコンに住んでいたころのことを思い出す。

州第2の都市フェアバンクスから北東に140マイル(220キロ超)離れた小さな村。北極圏のすぐ北側に位置し、大河ユーコン川沿いにある。村には小さな店が1軒あるだけ。外食できるところなんてなかった。

楽しみはフェアバンクスから届くピザだった。わくわくしながら待った。毎月1度、雑貨品を注文する際に、何度かピザハットに頼んだ。空輸してもらうのが、味を保つには一番よかった。

当時、空港に届けてもらうように注文できたのは、ピザと中華に限られていた。

「もっとほかのものも頼みたかったが、ドアダッシュがまだなかった」とオルドネスは振り返る。

今は、ドアダッシュのような宅配サービスはどこにでもある。レストランや雑貨店がないところに住んでいても、直近の都市にあるあらゆるメニューを注文することができる。

DoorDash food orders, which are boxed and refrigerated before delivery, at Alaska Air Transit in Anchorage, April 20, 2022. With the help of bush pilots, residents of remote Alaskan villages can satisfy their cravings for city fare. (Ash Adams/The New York Times)
配達前に箱詰めされ、冷やされたドアダッシュの注文品=2022年4月20日、アンカレジ、Ash Adams/©2022 The New York Times

冒頭のゴーライクが州南岸のプリンス・ウィリアム湾の各地を飛ぶと、宅配用に注文された食事がほとんどどのフライトにも積まれている。

「この目で見る限り、ケンタッキーフライドチキン(KFC)が一番多いみたいだ」とゴーライクは明かす。

他社の対応状況はどうか。アンカレジの「空のタクシー」会社ミッドナイト・エアは、オーナーのロバート・メイによると、週3回ほどドアダッシュとウーバーイーツが注文を受けた食事を運んでいる。

州南西部のクラーク湖とクスコクウィム地方を飛ぶレーク&ペニンシュラ・エアラインズは毎日、食料品の即日配達アプリ、インスタカートの注文品をさばいている。ドアダッシュによる食事の配達だと、「1日おきぐらいか」と地上スタッフのケイティ・バローズは見る。

ゴーライクが所属するアラスカ・エア・トランジット社のオーナーの一人、ジョシー・オーウェンは、いち早く対策をとった。

注文アプリのおかげで、州内の主な道路交通網につながっていない集落に届けられる街の味がどんどん増えるようになったのを見ての一計だった。食事を事務所に持ってくる宅配ドライバー用に、大きなテントを駐車場に張った。そこで注文主の名前と届け先の地名を書いたラベルを貼って、自社のスタッフに引き継いでもらうようにした。

それでも、アラスカの片田舎に住む人たちの暮らしは基本的には変わっていない、とオーウェンは指摘する。確かに、ときには最寄りの街から食料雑貨類を取り寄せるようにはなった。でも、多くの人たちは、必要最低限のもので暮らす生活様式を守り、自分の土地でできた収穫物を食べている。

「宅配される食べ物の多くは、いってみれば『おやつ』にすぎない」というのだ。

航空会社の多くは、乗客の乗り降りがあるときにだけ、へき地に立ち寄ることにしている。その予定が分かると、住民にとってはドアダッシュやグラブハブ、ウーバーイーツ、あるいは便利屋を通じて注文を出すタイミングとなる。

そこから先は、宅配ドライバーが動く。注文品を集め、航空会社に直接持っていく。

そして、空輸の配達料は――行き先と注文品の重さ、貨物スペースにどれぐらいの空きがあるかによって決まる。その便に乗せるだけで、10~30ドルの料金が必要になることだろう。

でも、それだけの価値はあると受け止める人が多い、と先のレーク&ペニンシュラ・エアラインズの地上スタッフ、バローズは話す。

「なにしろ、マクドナルドだろうが、KFCだろうが、そこに行く道路がない。便利屋やドアダッシュに航空会社を動員して、配達料が20ドル。実際に街に出ることを考えれば、さほど高いということもないだろう」

Villagers help a pilot unload in Nikolai, Alaska, March 15, 2022. With the help of bush pilots, residents of remote Alaskan villages can satisfy their cravings for city fare. (Brian Adams/The New York Times)
到着した飛行機の荷下ろしを手伝うニコライの村民たち=2022年3月15日、Brian Adams/©2022 The New York Times

ただし、この宅配には不確定要素が一つある。天候だ。予想外の嵐で、便が欠航することがある。機は駐機場から動けない。注文品は保冷室に移される。

さらには、食べてしまうという奥の手も登場する。

「ドアダッシュの箱が、『でん』といわんばかりに居並ぶ場合は」といってバローズはいたずらっぽく笑った。「うちのアンカレジのスタッフが食べることがよくある」

もちろん、それで終わりではない。再注文し、きちんとお金も払って、翌日の便で送り出せるようにするという便法だ。

へき地の住民にとっては、便利屋も重要な役割を果たしている。

ケイティ・オコナー(22)は、双子の姉妹シャリとともに2020年秋にこの仕事を始めた。州南西部の(訳注=重要な漁港があることで知られる)ディリンガム出身で、アンカレジの学校に通っている。

仕事の内容は、さまざまな雑用の手助けをすることにある。街の獣医師に診てもらうために、ペットを空港で引き取る。車を保管場所に入れる。ベーリング海のセントポール島で開かれる従業員への感謝のパーティー用に、中華ファミレスのパンダエクスプレスの料理300ドル相当を空港に届けたこともあった。

「アンカレジにいる、いとこのように思ってもらえればうれしい」とオコナーは例える。

テイクアウトの食べ物を空輸するビジネスには、追い風が吹いている。

クリステン・テイラー(40)は20年6月、アンカレジにある米大手ピザチェーンのパパマーフィーズのフランチャイズを買収した。すぐに、二つ目の事業としてアラスカ・スカイ・パイを設立。冷凍ピザやケーキ、パーティー用の飾りを州全土に発送し始めた。

いくつかのアンカレジの航空会社と契約しており、16インチ(41センチ弱)のピザならほぼどの集落でも5ドル未満の配達料で届けられる、とテイラーは胸を張る。10枚頼めば、その配達料も無料になる。

夏は、アラスカの住民が屋外で忙しく過ごす季節だ。釣りや猟、冬に備えての食料の収集……。テイラーは毎週、25~50枚のピザをへき地に発送する。秋から冬にかけてが、繁忙期になる。1日だけで数百枚のピザをさばくこともある。

その数は年間だと推定7500枚。誕生日や卒業式のお祝い。葬儀もあれば、結婚式も。高校のプロムも、商機の一つとなる。

「奥地で暮らすための厳しい苦労には、強い敬意を抱いている」とテイラーは語る。

とくに、ピザの注文をしてくれた家族からもらう便りには、心を動かされることが多い。北極圏の村に住む女の子からは、こんなメッセージも来た。

「テレビでは、ピザを見たことがありました。でも、実際に手にしたのは、今回が初めてでした」(抄訳)

(Victoria Petersen)©2022 The New York Times

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