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ウーバーイーツは「食のネトフリ」を目指す テクノロジー×食の未来

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香港で開かれた「食の未来サミット」には、ウーバーイーツで配達しているアジア各国の飲食店が会場に店を出した

■日本の加盟店、10都市に1万店超

ウーバーイーツは、客がオンラインで注文した飲食店の料理を、配達員が店で受け取って宅配するという事業を2015年にカナダ・トロントで開始した。5月現在、米国や日本など36の国と地域、500以上の都市で事業展開し、加盟する飲食店の数は22万店超と急拡大。配達員は30万人以上だという。

日本では2016年に東京の一部でサービスを開始し、その後は横浜、大阪、名古屋、福岡など10都市に拡大。加盟店は1万店を超えた。今年8月には東京の市部など、対象エリアを広げていく方針だ。

注文する際は、アプリやネットで届け先を指定し、料理を注文する店を選ぶ。配達料は店との距離や、その時間帯に配達員がどれだけいるかで上下する。近い店なら260円程度だ。配達員の写真や現在地が表示され、リアルタイムでどこにいるか分かるため、自宅の呼び鈴がなるタイミングまで把握できる仕組みだ。注文確定から届くまで、東京では平均約27分だという。

できあがった料理を宅配する配達員

配達員はウーバーイーツが雇用した社員ではなく、同社に登録した個人。自転車や原付きバイクなどを使い、自分のスケジュールにあわせて宅配という労働を提供して報酬を得る仕組みで、シェアリングエコノミーの一つだ。もともと、自家用車を運転中のドライバーと、移動手段を必要とする利用者の双方をつなぐ、ウーバーのライドシェア事業で培ったマッチング技術を売りにしている。

飲食店側にとってみれば、自前で人を雇ったり、配達用バイクを買ったりすることなく宅配を始められるという利点がある。

フードデリバリーの市場はいま、急激な拡大をみせている。調査会社エヌピーディー・ジャパンが行っている外食・中食の消費者動向調査(CREST)によると、2018年の日本国内のデリバリー市場の規模は4084億円で、前年比5.9%増。2016年にウーバーイーツが参入してからは競争が激化し、3年連続で大幅に伸びているという。それでもなお、外食・テイクアウト・デリバリーのうち、デリバリーの割合は日本では3%。韓国は10%、中国は8%で、成長の余地があるという。

同社フードサービス・シニアアナリストの東さやかさんは日本のフードデリバリー市場について「世界的に伸びているが、日本はまだ遅れている」という。注文は電話が大半で、現金支払いも依然として多い。しかし、注文のオンライン化やキャッシュレス決済が広がるにつれ、今後さらに市場は伸びていくという。また、10月に予定されている消費増税で出前は8%の軽減税率が適用されることも「今後も伸びる要因になる」と指摘する。

■「食の未来サミット」で見えた未来像

ウーバーイーツは7月、アジア・太平洋地域の加盟店の幹部ら約300人を招き、香港で「食の未来サミット」を開いた。

会場に飾られたウーバーイーツのパネル

テクノロジーの会社が描く「食の未来」とは、例えばこんなものだ。

味のマッチング――96%。あなたと同じような好みを持つユーザーがこの料理を好んでいます。あなたの好きなアジア風の味付けがされています。シーフード(エビ)が含まれている点は、マッチング上はマイナス評価です。

栄養のマッチング――99%。高たんぱくです。野菜の量は多めです。ナトリウムは少なめです。単純糖質と複合糖質の両方が入っています。
あなたと春雨料理とのマッチング――99%。

例えば、ウーバーイーツのアプリが、利用者一人一人の食の好みを把握した上で、こんな風におすすめの料理を提案してくれるとしたらどうだろう。同社グローバルプロダクト本部長のステファン・チョイ氏が、サミットの会場でそう将来像を説明した。日課のワークアウト後には筋肉の増強に適したものを、摂取できるカロリーに余裕があれば追加でデザートを、といった具合だ。

ウーバーイーツの将来像について話すグローバルプロダクト本部長のステファン・チョイ氏

「食事は誰にとっても重要で、日々の暮らしの中でも意味のあること。栄養目標を達成するのを助けて、ユーザーの生活に合う最善の食べ物を効果的に提供できないか考えている」とチョイ氏。狙うのは、過去の視聴履歴や好みの俳優などからおすすめの映画を提案する「ネットフリックスのような」オススメを提案することだという。

こうしたマッチングを実現するために重要なのは、味や舌触り、香りといった、料理の特徴を詳細にデータ化することだ。また集めたデータをもとに飲食店に料理のメニューや店舗運営の改善策を提案する、という活用法も視野に入れている。

■変化迫られる飲食店

「私たち飲食店がやらなくてはいけないことは、配達代行サービスと共にどう生きていくかを学ぶことだ。彼らは数年前にはいなかった。でも今は、彼らのことを考慮せずにビジネスをすることは考えられない」。オーストラリアの飲食店オーナーは会合でそう話した。テクノロジーの進化により、飲食店側は必然的に変化を迫られることになる。

飲食店が成功事例などを共有するワークショップも開かれた

オンラインの配達サービスに加われば、新規顧客を獲得できる可能性が広がり、また注文数のデータや客からのフィードバックを得られるというメリットはある。ただしオンライン上での競争は激しい。

デリバリーサービスの広がりとともに、実店舗を持たないで料理だけを作り、配達代行サービスを使って料理を届ける「ゴーストレストラン」という新たな形態も広がりつつある。立地や商圏、店の雰囲気といったこれまでの差別化要因は薄れ、別の価値でオンライン上で差別化をどう図るかという難題が待ち受ける。

香港の「食の未来サミット」で、「おもてなしとテクノロジー」をテーマにしたパネル討論に出た高岳史典さんは、東京や京都などでラムチョップのレストランを経営する。「レストランビジネスは、人相手のビジネス。テクノロジーは顧客のために使うべきで、レストランのためではない。店のバックヤードの改善には使っていいが、人を相手におもてなしができるのは人だけだ」と、あくまでも「人」が大事だと強調した。そして、「宅配はいかに品質をよく保てるかが大事になる。ウーバーイーツにとって、それが挑戦になる」と注文をつけた。

会場では、ウーバーイーツが開発を進めている宅配用ドローンも展示された

米国では、ドローンを使った配達の実現に向けて研究を進めているウーバーイーツ。最先端のテクノロジーと、料理のぬくもりやシェフの思いといった「ウェットな要素」がどのようにマッチングされていくのだろうか。「ウーバーイーツはおもてなしの会社なのか、それとも物流会社なのか、どちらが先に来るのか」。会場からはそんな質問も出た。ウーバーイーツ日本代表の武藤友木子氏は「将来的にはより良いおもてなしを提供したいと思っているが、現時点ではまだ道半ばにある」と答えた。