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「労働組合は所得格差を縮める」政策で強化をめざす国々 賃金上がらない日本では

World Now 更新日: 公開日:
コロナ禍、物価高を受けて、カジノで働く人たちが初めて行ったストライキ=2023年11月、米デトロイト、藤崎麻里撮影

労働組合は時代遅れーーそんな認識が世界で変わりつつある。労働組合自身の奮闘に加えて、各国で政策的な見直しがすすめられているからだ。1980年代に新自由主義的政策による民営化の旗がふられ、行き過ぎた資本主義で生まれた格差に直面し、回帰ともいえるような動きが出始めている。

アメリカの経済学者が労組を再評価「経済成長育む」

労使関係に詳しい法政大の山田久教授は「ローレンス・サマーズのような主流派の経済学者が労組を再評価するとは」と驚く。

サマーズはハーバード大教授で、米クリントン政権で財務長官を務めた。自由貿易を重んじ金融業界の規制緩和を進め、2008年のリーマン・ショックにつながったとの批判もある。

そのサマーズが2020年の共同論文で「各先進国が(より安い労働力を見いだす)グローバリゼーションや技術革新による影響を受けたが、米国のように労組の組織率がより低下した国の方が、(もうけを人件費に回す)労働分配率が下がり、所得の不平等が広がっている」と指摘。背景には「労組の力をそぐ政策や株主の利益に偏重する経営」があるとした。

ローレンス・サマーズ元米財務長官=2019年11月、米マサチューセッツ、青山直篤撮影

市場経済を重視し、労組に厳しいとされてきた米国の政策の現場でも変化が起きている。米財務省は昨夏、「労働組合と中間層」と題した報告書を初めて出し、労組回帰を印象付けたといわれた。

その著者の1人、ローラ・ファイブソン・ミクロ経済担当次官補代理は、米経済政策研究所による昨秋の講演会で「労組を強化し、組織率を高めることは、幅広い経済成長とレジリエンスを育む」と強調した。

報告書は、労組の組織率が低下する中で、大企業のCEOと一般従業員の報酬比がこの56年で20倍になり、不平等が広がっていると指摘。労組があれば組合員の賃金が10~15%引き上げられ、人種や性別による格差を抑える可能性があると指摘した。

バイデン政権では、労働者が団結しやすくするための団結権保護法や、地方公務員に団体交渉権を広げる公共部門交渉自由化法の立法の検討などを進めている。

米経済政策研究所が開いた「労働組合と中間層」についての講演会

ドイツでも強化の動き「適切な解決見いだせる存在」

ドイツでも2014年に労働協約が組合員以外に広く適用されるよう条件を緩和。組合費の税制優遇など労組を強化する政策提案がでている。

ドイツが労組を重視するのは、独立行政法人労働政策研究・研修機構の山本陽大主任研究員によれば「団体交渉や労働協約により労働条件などを決めてきた伝統のあるドイツでは、DXなどで雇用の在り方が大きく変化するなかでも、労働組合こそが使用者団体との交渉・妥協を通じて適切・妥当な解決を見出すことのできる存在として捉えられている」からだという。

各国がこうした政策に取り組む背景には、働き手の手元に賃金が十分にあれば、個人消費が活性化し、経済発展につながるという考え方がある。それに加え、欧米では政権交代がしばしばおこり、政権をとった中道左派が労組の強い支持を受けている面がある。

山田教授は「賃上げは企業に任せていても十分に進まない。労組支援のような働き手の内発的な動きを強めることが重要だ」と説明する。

日本の「新しい資本主義」には労組が不在

日本でも法律上は労組に強い権限が与えられている。産業別組合がうまく機能すれば、業界の横の連携をいかしながら同業他社の交渉を圧力にしながら、交渉する環境を整えやすい仕組みになっている。

岸田政権は賃上げを重視し、分厚い中間層の形成をめざす「新しい資本主義」を打ち出した。ただその中に労組は担い手としては登場していない。

昨秋に新設した賃金・雇用担当首相補佐官に、労組の組織内議員だった矢田稚子氏を迎えたが、「政局的な分断の動き」と警戒する連合幹部も多かった。

新しい資本主義会議に臨む岸田文雄首相。右後ろは矢田稚子首相補佐官=2023年10月、首相官邸、上田幸一撮影

どんな政策の支援がありうるか。連合総研と連合でつくる「労働組合の未来」研究会は、労働組合法の解釈の見直しを提起する。

同法7条に基づき、組合活動は組合費で就業時間外にやることとされ、行政機関もこれ以外は不当労働行為だと解釈してきた。賃金が発生しない形で、組合員による組合費だけでおこなわれることが組合の独立性を高めるとの考えからだ。

だが組織率の低下で、組合費が減る中で、韓国では法改正し、労組の専従者が組合費で手当てしなくても生活できるよう就業時間に組合活動することを認めるようになった。

連合総研の中村天江主幹研究員は、組合員への調査結果からも、日本でも共働き家庭が増える中で「男女ともに組合活動をおこなうための時間的な負担感は高くなっている」とみる。非正規で働く場合も、仕事以外に組合活動の時間を割いたり、組合費を払ったりするのが難しく、参加しづらい環境にある人もいるという。

このため、中村さんは「労組を必要とする幅広い働き手が参加しやすくするためにも、従来の労組のあり方からの変化が求められる。労組の財政に対する援助や、集団的な労使関係を有効に機能させるための法律の解釈・運用の見直しや法改正の検討が必要だ」と話す。

日本でも欧米各国と同じように、1980年代以降に民営化がすすみ、その後には不安定な雇用が増え、格差が広がってきた。さらに日本ではこの30年、賃金も上がらなかった。

日本も、社会の均衡を保つために労組の社会的機能を再評価して強化するよう政策のかじを切る米国やドイツのように、労組が活動を広げやすくするためには何が必要かを考え、議論を深める時に来ている。