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衛星写真から見える北朝鮮の植樹事業、「国家の大計」のはずが…飢餓や経済難で乱伐も

北朝鮮インテリジェンス 更新日: 公開日:
植樹イベントに参加する朝鮮労働党(WPK)の第2回初級党書記大会の参加者たち。2022年3月2日、北朝鮮の朝鮮中央通信が公開した
植樹イベントに参加する朝鮮労働党(WPK)の第2回初級党書記大会の参加者たち。2022年3月2日、北朝鮮の朝鮮中央通信が公開した=ロイター

飢餓の中でも樹木保護した金正日総書記

北朝鮮を逃れた元朝鮮労働党幹部によれば、北朝鮮は金日成氏の時代から、労働新聞や宣伝映画で植林の重要性を訴えてきた。1990年代半ばに大量の餓死者を出した「苦難の行軍」の際ですら、金正日総書記は「樹木と飢えは交換できない」と語り、外貨や燃料作りのための森林伐採を禁じたという。

それでも北朝鮮の森林面積は減少を続けた。

衛星写真を使って北朝鮮を分析している韓半島安保戦略研究院の鄭聖鶴・映像分析センター長らによれば、北朝鮮の山林面積は1970年代には国土のほぼ8割にあたる約980万ヘクタールだったが、2015年には6割弱の約568万ヘクタールまで減った。

植樹する人々
植樹する人々=朝鮮中央通信公式サイトより

金日成氏の時代には、食糧増産のため、山間地を段々畑に開墾した。1990年代に入り、経済難が更に厳しくなると、金正日氏の命令に背いて乱伐が進んだ。

正恩氏は「全国の樹林化」を唱え、様々な施策を打ち出した。「年間に2000万株以上の苗木を栽培できる」という東部・江原道の育苗場を何度も視察した。毎年3月の「植樹節」で、自ら苗木を植えたこともあった。

植樹にノルマ、経済難で乱伐も

北朝鮮の山林面積は現在、緩やかな回復基調にあるが、定着するかどうかはまだわからない。

平壌近郊の村の衛星画像。左が2015年4月に撮影されたもの、右が2019年4月に撮影されたもの。植樹で緑が増えている
平壌近郊の村の衛星画像。左が2015年4月に撮影されたもの、右が2019年4月に撮影されたもの。植樹で緑が増えている=韓半島安保戦略研究院提供

朝鮮中央通信は2022年3月の「植樹節」の際、全国で数百万株の苗木が植えられたと報道した。脱北者らの証言によれば、各地域や職場ごとに植樹しなければいけない苗木の数にノルマが課されるという。

ただ、元幹部は「北朝鮮は岩山が多く、植樹した場合には肥料と水の安定した供給が必要になる」と語る。政治的なノルマをこなすだけで、継続的な山林管理ができずに立ち枯れる苗木も多いという。

北朝鮮では調理の手段として、首都平壌(ピョンヤン)中心部ではプロパンガスを使う家庭が多いが、それ以外では「クモンタン」と呼ばれる練炭が使われる。

北朝鮮の経済が好調だった時代は、国が各家庭に原料になる粉炭を配給していた。現在は市場で買い求めるのが一般だが、電力不足で石炭の生産量が落ちたり、外貨稼ぎで石炭の輸出が相次いだりすると、練炭の供給に支障が出る。

「苦難の行軍」当時も、練炭が品薄になったため、山間部で木を切って木炭にして燃料にするケースが相次いだという。

金日成氏は市民に対し、植樹について「恩恵を受けるのは君たちではなく、君たちの孫だ」と語ったという。金正恩氏の植樹事業の成否は、安定した国家運営の継続にかかっている。

インタビュー:韓国・韓半島安保戦略研究院の鄭聖鶴・映像分析センター長

――金正恩氏は全国で植樹事業を進めています。

正恩氏は2015年から2024年まで、10年間で「全国の樹林化」などを達成するとした植樹事業を展開しています。世界の森林を監視しているオンラインプラットフォーム「Global Forest Watch」によれば、北朝鮮で2001年から2020年まで伐採された森林面積は24万8000ヘクタールになります。

北朝鮮の森林面積は2015年が最小で約568万ヘクタールでしたが、最近は正恩氏の政策により、徐々に面積が増えています。
北朝鮮メディアは「森林面積が100万ヘクタール増えた」と宣伝していますが、私が調べたところでは、2020年の時点で、2015年比約71万5000ヘクタール増にとどまっています。

韓半島安保戦略研究院の鄭聖鶴・映像分析センター長
韓半島安保戦略研究院の鄭聖鶴・映像分析センター長=2023年11月、ソウル、筆者撮影

――北朝鮮で森林の荒廃が進んだ理由は何でしょうか。

1990年代半ばに大量の餓死者を出した「苦難の行軍」など、経済難に伴って北朝鮮の山林が荒廃しました。当時、経済難から多くの工場や企業所が操業を停止しました。暖房や調理のための燃料が極端に不足したため、人々が山林で樹木を手当たり次第に伐採しました。

――正恩氏が推進する植樹事業は順調と言えるでしょうか。

衛星が撮影した北朝鮮の山林の写真を分析すると、地域ごとに植樹事業の進展度で差が出ているようです。平壌や地方の拠点都市周辺に比べ、白頭山周辺や慈江道、両江道など中朝国境地帯は植樹が進んでいません。辺境のため、中央政府の行政権が十分及んでいない可能性があります。

また、脱北者らの証言によれば、北朝鮮で植樹を担当している当局者が、自分たちの担当区域に課せられた植樹の数のノルマを達成するため、区域外の樹木を奪って移植しているケースもあるそうです。

――植樹の様子から北朝鮮のお国柄をうかがうこともできますか。

衛星写真を見ると、以前は墓地だった場所にも植樹している様子がわかります。逆に南北軍事境界線近くの非武装地帯では樹木に火を放った様子がうかがえます。韓国軍もやっていますが、軍の哨戒所からの見晴らしを良くするため、障害になる木を焼き払っているのです。

また、北朝鮮では山間部に送電線を張り巡らせる際、送電線の下の樹木を伐採します。送電線を中継する鉄塔を建てる際、機材を運ぶ通路が必要になるからです。通路ができると、野生動物の移動範囲が限られて生態系に影響を及ぼすと言われています。韓国はヘリコプターで機材を運ぶため、樹木の伐採は必要最小限にとどめています。

樹木の苗木を栽培している様子
樹木の苗木を栽培している様子=朝鮮中央通信公式サイトより

ただ、韓国で2001年から2020年まで伐採された森林面積は27万1000ヘクタールで、北朝鮮の伐採面積を上回っています。これは太陽光発電のためのソーラーパネルを山間部などに設置する事業を展開しているためです。

――金正恩氏の植樹事業は成功しますか。

乱伐の原因になった暖房や調理のための燃料を確保できるかどうかに注目しています。北朝鮮では練炭がよく使われますが、北朝鮮は外貨稼ぎのために練炭の原料になる石炭を中国に輸出しています。練炭の安定した供給は、植樹事業を継続するための条件の一つになると思います。