戦争犯罪とは?
1899年採択のハーグ陸戦法規や1949年のジュネーブ諸条約といった武力紛争のルールに著しく反する行為を指し、民間人への攻撃や捕虜虐待、毒ガス使用などがこれにあたる。広義には、民間人に対する組織的な拷問やレイプなどの「人道に対する犯罪」、特定の集団を破壊しようとする「ジェノサイド」、国連憲章違反の侵略行為を計画したり実行したりする「侵略犯罪」なども含む。
国際刑事裁判所(ICC)とは?
国際社会が関心を持つ戦争犯罪を裁く常設の国際機関。1998年に採択されたローマ規程に基づき、2003年にオランダ・ハーグに設置された。同じハーグにある国際司法裁判所(ICJ)が主に国家間の紛争を扱う国連の機関なのに対し、ICCが問うのは個人の罪で、国連と密接な関係を持つものの国連の機関ではない。
裁判の前段階にあたる犯罪の捜査は、ICC検察局が担う。ICC内の組織だが、裁判部門からは独立している。検察官も裁判所の任命ではなく、締約国会議が直接選出する。
ローマ規程には10月現在、日本や欧州の主要国など123カ国が加盟しているが、米国や中国、ロシアは参加していない。ウクライナは未加盟だが、管轄権受諾を宣言しており、事実上の加盟国として扱われる。
ICCは2023年3月、ロシアのプーチン大統領とその側近に対し、ウクライナから子どもたちを違法に連れ去ったことが戦争犯罪にあたるとして、逮捕状を発付した。加盟国には捜査への協力義務があり、プーチン大統領が入国すると逮捕しなければならない。プーチン大統領の行動範囲は大きく制限されることになった。
プーチン大統領の場合は逮捕状発付が公表されたが、通常は非公表の場合が多い。つまり多くの国も当の容疑者本人も、誰が容疑者なのか知らない。その人物がうっかり加盟国に渡航し、ICCが突然逮捕を求めてくることもありうる。加盟国はローマ規程に従うか、その人物を守るかの間で板挟みとなることも考えられる。
ICCの捜査はどのように始まる?手続きの流れ
ICCの検察官による捜査は、以下の三つのいずれかに基づいている。
①締約国による付託
②国連安保理による付託
③検察官が予審裁判部の許可を得たうえで着手
検察官は犯罪の重大性などを考慮し、実際に捜査に入るかどうかを決める。
ロシアのウクライナ侵攻に関する捜査は、日本を含む加盟国43カ国からの付託に基づいている。ウガンダの反政府武装組織「神の抵抗軍」(LRA)に対する捜査も、ウガンダ政府による付託が発端で、同様に①に属する。
一方、スーダンのダルフール紛争に関する訴追は、②の国連安保理からの付託。③の検察官が主導した例としては、ケニアの大統領選に伴う暴力事件に関する捜査などがある。
戦争犯罪にも恩赦はあるの?
各国政府が独自の基準で実施する恩赦は、国際法廷にとって障害となりかねない。一方で、内戦などの場合は戦争後の国内の和解を進めるうえで、恩赦は重要な手段となる。
ただ、近年は恩赦の対象として「武器を捨てて投降した」「自らの行為を反省している」など条件がつけられる場合が多い。兵士には恩赦を認めても、指導者的立場の人には認めない場合も少なくない。
立命館大学の越智萌准教授(国際刑事司法)は「西欧では罪と罰をはっきりさせる価値観が根強く、恩赦という制度は神や君主の慈愛による例外的なものと位置付けられてきた。一方、正義に対する価値観が異なるとされるアフリカやアジア地域では、共同体の『和』を重視してどこかの時点で『水に流す』ことも受け入れられやすかった。ただ、被害者の受け止め方も考慮して、近年は処罰をはっきりさせる傾向が強まっている」と説明する。