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「資源の呪い」解けるか 銅山開発がはらむ負の側面 人権や環境に配慮した資源調達を

World Now 更新日: 公開日:
足尾銅山の製錬で出た煙によって荒れ果てた山々
足尾銅山の製錬で出た煙によって荒れ果てた山々=2010年3月、栃木県日光市、朝日新聞社

銅の需要が高まる中、国や企業、そして私たち消費者も忘れてはいけないのが、銅をはじめとする鉱山開発の負の側面だ。

鉱石には硫黄、ヒ素、カドミウムなどが含まれていることが多く、こうした有害成分による環境破壊が問題となってきた。日本でも栃木県の足尾銅山(1973年に閉山)で、鉱石から銅を取り出す際に発生した亜硫酸ガスによって森林が枯れたり、有害成分が川や土壌を汚染したりするなどの鉱毒被害が起きた。

南米・ペルーでは最近も環境問題に端を発した争議が鉱山会社と地元住民の間で起きている。

ペルーの銅採掘量は世界の10%を占め、チリに次いで世界第2位の産出国。銅輸出が貿易額の3割を占めるなど国の経済を支えている。銅の採掘現場は標高4000メートルを超える高地が多いが、周辺に村落があり、牧畜や農業を営む人が暮らす。

世界最大級の銅山の一つで、中国企業が保有するラスバンバス銅鉱山では、周辺住民のデモが絶えない。

ペルーのラスバンバス銅鉱山で野営する先住民族の人たち
ペルーのラスバンバス銅鉱山で野営する先住民族の人たち=2022年4月、ロイター。先住民族たちは鉱山を運営する中国企業の五鉱資源に対し、地元への利益配分を求めて抗議活動を展開していた

現地NGOによると、現場を往来するトラックの騒音や農作物への粉じん被害に抗議。2016年の操業開始以降、現在まで住民による道路封鎖などの活動が繰り返されているという。

また、開発企業が得た利益が還元されないという不満も住民の間に根強い。2021年の大統領選では、資源の国有化も争点の一つとなった。

利益の一部を地元に還元する制度はあるものの、同国の市民オンブズマンは、行政機関の汚職などによって、十分に地元に資金が渡っていないと主張。「残念ながら、何千もの家族の生活の質を向上させる効果は限られている」とする。

こうした鉱山を有する国や地域がしわ寄せを受ける構図の問題は他の鉱物資源をめぐっても起きている。

フィリピンやインドネシアのニッケルを中心とした鉱山開発現場の問題を訴えている国際環境NGO「FoE Japan」の波多江秀枝さんは「脱炭素社会に向けた、鉱山を拡張させようという圧力の高まりが現場ですさまじい問題を起こしている。開発圧力に対し、地元が本当にノーと言える状態になっているのか」と指摘する。

天然資源による利益が地元に還元されず、経済発展が遅れたり貧困が深刻化したりする課題は「資源の呪い」とも呼ばれ、これまでダイヤモンドや石油などでも指摘されてきた。

BMWやフォードなど一部の自動車メーカーは、EV向けの資源調達で、環境や人権などへの配慮を証明する国際基準「責任ある鉱業保証のためのイニシアチブ」(IRMA)で認定された鉱山から鉱物を購入すると表明している。人々の関心が集まれば、こうした動きが広がる可能性もある。 

波多江さんは言う。「大量生産、大量消費の考えのままで脱炭素社会への取り組みを進めようとすれば、鉱物資源採掘の現場は破壊され続ける。本当に生活に必要な分はどの程度なのか、その鉱物がどこから来ているのかよく考えていくべきではないか」