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「資源ごみ」と言うと怒られる マシンガンズ滝沢秀一が清掃員をやって得た気づき

World Now 更新日: 公開日:
マシンガンズの滝沢秀一さん
マシンガンズの滝沢秀一さん=東京・四谷、相場郁朗撮影

お笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さん(45)は、芸能活動のかたわら、ごみ清掃員として東京都内をまわっています。「本職」と語る、ごみ清掃の仕事を始めて10年目。しだいに「見えないものが見えるようになってきた」といいます。ごみを出す側の私たちにとって、「見えないもの」とは何なのでしょうか。また、ごみを減らすために、自身が取り組んでいる工夫についても聞きました。

――どんなきっかけでごみ清掃の仕事を始めたのですか。

36歳の時に妻が妊娠して出産のお金が必要になりました。芸人の仕事だけではとても足りないのでアルバイトを探したんですけど、これが見つからないんです。まだお笑いをやりたい途中なのに消極的にやめるのはイヤだった。友達にたまたま紹介されたのがごみ清掃員でした。

それまで、ごみのことを真剣に考えたことなんて一回もなかったので、衝撃を受けたんですよ。何にかって言うと、ごみの量。ごみ清掃車は1台約2トン入るんですけど、それを1日6回集めては捨てて、ってやるから合計12トン。それが何百、何千台って毎日、いろんなところを走っているんですよ。

ごみ清掃員を描いた滝沢友紀さんのイラスト

怖くなってベテランの先輩に『日本って、ごみあふれませんか』って聞いたら、『あふれるよ』って当たり前のように言うんです。もうびっくりしちゃいましたよ。

――ごみの量や種類も地域によって違うと気づいたといいます。

普通の住宅地とお金持ちの地域のごみは違いがはっきりと分かります。高級住宅地の方が圧倒的にごみが少ないんですね。これ、すごい発見だと思っていて、お金持ちって金でバンバン買ってバンバン捨てるイメージを持っていたんですけど全然違う。

マシンガンズの滝沢秀一さん=東京・四谷、相場郁朗撮影

お金持ちにも「上中下」があると思いますけど、「上の上」はすごいですよ。本当に住んでいるのかっていうくらい少ない。普通の地域ではよく出る発泡酒やチューハイの缶は少なくて、木の箱に入ったようなワインのビンがちょっと出るみたいな。自分の認めたもの以外は買わないような感じを受けました。

そこで決めたんです。お金持ちのごみをまねてめちゃくちゃ少なくしてやろう。そうすれば自分もお金持ちになれるんじゃないかってね。

――ごみを減らすためにどんな工夫をしていますか。

分別はね、やっぱり大事ですよ。ビンとか缶とかペットボトルはみんな当然やってるよって思うでしょ。それはそうだけど、可燃ごみの中にはまだ資源があるんです。「雑がみ」なんですよ、一番のポイントは。家のごみ箱を見てください。資源になる紙、意外とけっこうあるんですよ。包装紙や紙の箱、紙袋とか。僕は封筒の住所とか書いてあるところだけ切り取って、あとは雑がみにしています。

あと大事なのは、買う時に捨てる時のことまでイメージすること。歯ブラシとかの日用品でどれを買おうかなって悩んだら、僕は包装の少ない方にします。洋服は買わないで、レンタルするようになりましたね。心地良いですよ。モノを持たない美学みたいな。

マシンガンズの滝沢秀一さん=東京・四谷、相場郁朗撮影

――日ごろからいろいろなことに取り組んでいますね。

そうでしょ。次にぶつかるのはね、生ごみ。これが厄介者なんだ。僕は生ごみを微生物が分解してくれる黒土コンポストを始めたんです。生ごみをミキサーで砕いて、その黒土のなかに入れるでしょ。しばらくすると、生ごみが消えてなくなるんです。4カ月で90リットルの袋一つ分くらい減らせるんですよ。あれ、引いてます? 僕のこのごみを減らす熱意に引いていません?

――すごい熱意を感じます。

ごみを少なくしたから仕事が増えたかどうかは分かりませんけど、僕という人間は確実に変わったと思います。ちゃんと分別して、ごみを少なくしようと思うと、その先で清掃員がどう回収するのか想像できるようになってくるんですよ。ロボットか何かが回収しているわけじゃないんです。そういった、見えないものを想像できるようになったというのはありますね。

 ごみ清掃員を描いた滝沢友紀さんのイラスト

あともう一つ見えるようになったのは社会ですね。いまはやっぱり、作る人、捨てる人の方が偉くて、回収しているお前らが処理しろよっていう関係なのかなと思います。これってね、ものを作る方も、捨てる方も、回収する方も、同等じゃないとゆがんだ社会になっちゃうと思うんですよね。

――芸人仲間が経営する飲食店などで、食品のごみを減らす活動にも最近力を入れています。

食べ物のごみを見ていると、「俺が買ったものなんだから、別に食べかけで捨てようが俺の勝手だろう」っていう傲慢(ごうまん)さみたいなものを感じるんですね。結局、いまは「顔の見えない社会」が作られているんだろうなって思うようになりました。

ごみの3R(リデュース、リユース、リサイクル)ってよく言われますよね。僕はもう一つのR、リスペクトを加えようと言っています。尊敬する、敬意を払うって気持ちがあれば、ごみ問題のいろんなことを解決できるような気がしているんです。

――清掃員を9年続けてきて、自分の中でどんなことが変わりましたか。

僕の本職は、ごみ清掃員だと思っています。日本のごみを減らしたいっていう目標があるんです。何も知らずに突然この仕事を始めて、すごい量のごみを日々回収していると、「ごみを減らしたい」って本当に思うんですよ。よく「資源ごみ」って言いますよね。でもうちらの世界だと怒られるんです。「資源」だろ、ごみじゃないだろって。

マシンガンズの滝沢秀一さん=東京・四谷、相場郁朗撮影

――ユーチューブなどで、「ごみとSDGs(持続可能な開発目標)」を考える取り組みにも力を入れています。

ごみを減らすだけでも、分別するだけでもいいんですよ。SDGsってどこか遠い世界の環境問題というイメージがあるかもしれないけど、本当にそこから始めることって大事なんです。自分がお金出して買ったからどう処理してもいいだろうではなくて、最後まで責任を持つことが大事なんですね。みんなでこの地球で生活しているわけですから。

資本主義って、わーってつくって、売れなかったら廃棄してまたつくって、というのを繰り返してきましたよね。それで海が汚れたり、温暖化の問題につながったりして、今ようやくサステイナブルな生活に移ろうとし始めているじゃないですか。自分たちの生活スタイルを見直すことが大事なんだと。

やっぱりね、プラスチックの使いすぎはいけないとか、何をどう分別するべきだとか、環境に対する共通認識みたいなのをここらで作らないといけませんよね。

本当にね、この仕事していて、やっぱりごみの量って異常なんです。もう狂ってる。だから、どうにかしなくちゃいけないんですよ。

マシンガンズの滝沢秀一さん=東京・四谷、相場郁朗撮影

滝沢秀一(たきざわ・しゅういち)
1976年、東京都生まれ。98年に相方の西堀亮と「マシンガンズ」を結成。2012年からごみ清掃員として働く。妻・滝沢友紀さんが漫画を描いた「ゴミ清掃員の日常」「ゴミ清掃員の日常ミライ編」など、ごみに関する著作は多数。

滝沢友紀さん
滝沢友紀さん

イラスト
滝沢友紀(たきざわ・ゆき)
1971年生まれ。夫からの依頼で48歳で、まさかの漫画家デビュー。読む専門で描くのははじめてだったので、現在も必死で勉強中。仕事に励む夫を描いたイラストを担当。