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リサイクルが正解とは限らない 原発ごみで考える「資源とごみの境界線」

World Now 更新日: 公開日:
日本原燃の再処理工場=2018年11月、青森県六ケ所村、朝日新聞社機から撮影

■ごみと資源の分かれ目は

前回の訪問から20年以上経っただろうか。下北半島の付け根、太平洋に面した六ケ所村は師走、地吹雪が吹き荒れることも珍しくないが、意外に暖かで道路も乾いていた。例年は年越しごろから雪が積もり、根雪になるという。

再処理工場は日本中の原発から集めた使用済み燃料を細かく刻み、まだ燃えるウランとプルトニウムを取り出す。これらを混ぜてMOX燃料と呼ばれる燃料に加工し、再び原発で燃やすことにしている。

再処理工場は当初1997年完成予定だった。多くの不具合や国の規制強化に伴う追加工事などで25年も遅れ、工事費は約3兆円に達した。訪れた日は高さ150メートルの主排気筒で、風速100メートルでの飛来物を防ぐ竜巻対策が進んでいた。

六ケ所再処理工場。高さ約150メートルの主排気筒の地上近くでは、竜巻対策の強化工事が進んでいた

ごみと資源の分かれ目はどこにあるのか。ごみを減らすためなら何でもリサイクルすべきなのか。

リサイクルしようとすると、回収や再生などでさまざまな費用がかかる。お金だけではなく、環境への負荷など総合的に考えられなければいけない。直接処分する以上の費用をかけても、費用を上回る便益が得られれば有効なリサイクルといえる。逆に費用が便益を上回れば、お金がムダになったり、環境に余計な負荷をかけたりする。

原発の使用済み燃料も基本は同じだが、歴史的経緯が絡み、ややこしい。

■集まった期待、外れた思惑

世界の原発は70~80年代に急増した。先進国がエネルギー多消費型経済を発展させた時期だ。当然使用済み燃料も増えたが、原発推進派は楽観的だった。使用済み燃料を再処理して高速増殖炉で燃やす研究開発が進んでいたからだ。原理的には燃えないウランをプルトニウムに炉内で変えることができ、使用済み燃料が優秀な資源になる、少資源国の日本では準国産資源だと期待された。

だが、思惑は外れた。

再処理や高速増殖炉の開発では技術的な難題が次々に出て、お金もかかりすぎた。経済性を重視する欧米諸国は、80年代以降に相次いで高速増殖炉の開発と再処理を放棄した。

さらに79年に米スリーマイル島原発事故、86年に旧ソ連チェルノブイリ原発事故が起き、安全対策を強化したことで建設費が跳ね上がって原発自体の新設が激減した。使用済み燃料は再処理せずにそのまま捨てることにし、最終処分場探しに力を入れた。

シェルターに覆われた現在のチェルノブイリ原発4号炉=2021年4月22日、国末憲人撮影

最大の原発大国である米国でネバダ州の予定地が地下水問題で計画撤回に追い込まれるなど、多くの国が苦しみながらも建設候補地の住民らと対話を続け、フィンランドでは最終処分場の建設、スウェーデンでは審査が進んでいる。

だが、日本は技術評価が甘く、一度始めた政策を惰性で続けてきた。原発の本格的な安全強化の取り組みは福島第一原発事故後だった。90年代は原発の建設ペースを維持し、95年のナトリウム漏れ事故などでほとんど運転できなかった高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉を決めたのは、事故から21年たった2016年のことだ。再処理してつくったMOX燃料を普通の原発で使う「プルサーマル計画」について、国と電力会社は今も捨てておらず、六ケ所再処理工場の完成と操業を目指している。

■無駄と分かっていてもできない方針転換

半面、最終処分場探しは遅れている。国と電力会社は再処理の過程で出た高レベル放射性廃棄物を地下300メートル以深に埋める計画だ。基準を法律で決めたのは00年で、83年に候補地探しを始めたフィンランドより17年遅い。

原子力発電環境整備機構(NUMO)が地層の安定性などを評価した全国の「科学的特性マップ」を17年に公表し、処分場の適地かどうかの文献調査に応じる市町村を募り始めた。20年に北海道の寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村が手を挙げたが、反対も根強く、すんなり進みそうにはない。

長崎大学核兵器廃絶研究センターの鈴木達治郎教授は「六ケ所再処理工場の総事業費は約14兆4000億円とされ、電力会社は今後年平均2500億円もつぎ込む計算だ。MOX燃料は通常の燃料より高くつく。動かす意味はない」という。原子力委員会の委員長代理だった12年には「全量再処理」路線の転換を目指したが、果たせなかった。

「プルトニウムは英仏では価値ゼロ、米国ではマイナスと見積もっている。再処理をやめて、いったんはごみとして処分場に運び込んでも、将来ウランの高騰や高速増殖炉の実用化で資源と言えるようになったら取り出すなど、知恵はある。だが核燃料サイクルに深く関わる経済産業省と電力業界、青森県の三者はいずれも、大きな摩擦や損害を生じる方針転換を避けたがる。大金がムダになるとわかっていても、電気料金が原資だから自分たちの財布は痛まないし、誰もチェックしない」

使用済み核燃料を受け入れる「貯蔵プール」=2018年12月、青森県六ケ所村

使用済み燃料はすでに国内の原発の敷地内などに約1万9000トンもたまっている。18年、衆議院の原子力問題調査特別委員会で鈴木教授は「脱原発か否かにかかわらず、解決すべき重要な課題」として、使用済み燃料・廃棄物問題を最上位に挙げた。超党派での取り組みや、専門家への調査報告の委託などを求めたが、いまだ前進はない。

六ケ所村には再処理工場など核燃料サイクル関連施設が集中し、その敷地は約750ヘクタールにも及ぶ。再生可能エネルギー導入が世界的に進み、20年前にはなかった92基の風力発電用風車や東京ドーム約50個分の太陽光パネルが再処理工場などを取り囲んで稼働していた。時の流れを象徴する景色に見えた。