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「母の愛情=手作り弁当」はどこからきたのか? 主婦向け雑誌から読み解いてみる

World Now 更新日: 公開日:
通園、通勤のための弁当を特集する1970~80年代の「主婦の友」の付録
通園、通勤のための弁当を特集する1970~80年代の「主婦の友」の付録=長沢美津子撮影

ーー資料にした雑誌は?

「主婦の友」(1917~2008年)で、長く女性のための実用情報を提供してきました。メディアの中のことが現実そのままではありませんが、多くの読者を獲得していた雑誌のひとつなので、繰り返し登場する内容は、受け入れられていたものだと考えることができるでしょう。

ーー弁当の作り方の記事から何が見えるのでしょうか。

注目したのが戦後になって増えていく「幼稚園弁当」の記事です。取り上げるテーマとして定番で、別冊付録ではカラー写真で具体例が紹介されるようになります。専門家として幼稚園の園長や教諭、栄養士、料理研究家が登場して弁当の意義やあるべき姿をコメントしたり、幼稚園のルポがのったり。

ーー核家族化が進み、暮らしに関してメディアが指南役になった時代でもありました。

保育所が、近年まで使われていた行政用語で「保育に欠ける」、つまり保育の支援が必要な家庭のための福祉施設という位置づけで給食が用意されるのに対し、幼稚園は教育の場。家庭から持たせる弁当も、指導の対象になりました。

おいしく食べるという「楽しさ」と、栄養バランスや時間内に食べ終わるといった「しつけ」の面も求められます。当時も違和感を持つ人はいたでしょうが、園と母親は対等の関係ではなく、同調圧力も働きます。

ーー「子どものため」と言われると……。

記事には実際に愛情という言葉が数多く登場しています。「ママの愛情があふれたお弁当」といった表現です。

対岸では食の市場化が加速していて、手作り弁当に対して菓子パンを食事にすると「心の栄養が不足する」と言われる。そもそも母親の役割が重い社会で、手作り弁当が母と子のコミュニケーション、愛情を伝えるメディアだという「手作り=愛情」規範が成立したのです。

ーーその後の変化は?

90年代には共働き世帯が多数派になり、女性の生き方は多様になりました。しかし、「手作り=愛情」規範の根元には、ケア的な労働を家庭に、女性に担わせるという社会があります。まずはそこから変えていくことではないでしょうか。