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アグネス・チャンが3人の息子を育てて体得した、「子育て最初の1年」に大切なこと

アグネスの子育てレシピ 更新日: 公開日:
二男はスタンフォード大学留学中に出産した。長男、生まれたばかりの二男と一緒に同大学のキャンパスで(アグネスさん提供)

香港で出版される新刊書を執筆しています。

香港の出版社の編集長から「是非、是非、書いてください」とお願いされていた本で、テーマは「0-12ヶ月の子育て」です。

香港では共働きの家庭が多くて、赤ちゃんの世話を祖母、祖父に任せたり、お手伝いさんに頼んだりします。

確かに、金曜日に地下鉄の駅に行くと、祖父母に連れられて親の迎えを待つ子供たちの姿をよく見かけます。週末以外は祖父母の家で生活する子供たちです。

公園に行くと、フィリピン人のメイドさんが赤ちゃんを乗せた乳母車を押して集まっている光景がよくあります。メイドさんたちは自分たちでお喋りしたり、スマートフォンをいじったりしていて、赤ちゃんは乳母車の中で無表情のまま前を見ています。

共働きでないと生活ができない香港の現状では、赤ちゃんや子供を預けるのは仕方がないと思います。

でも、0-12ヶ月の時期は赤ちゃんにとって、脳の成長の黄金期です。この時期にたっぷりの刺激と愛情で育ててあげないと、満足に脳も体も成長できないのです。

しかも赤ちゃんは、人との信頼関係を築く基盤もこの時期に学習します。このときにそばに親がいないと、一番最初に信じる人、頼る人、好きな人が親でなくなってしまいます。そうなると、子供と親との繋がりが上手くいかず、小学生、中学生になった時に、「子供達とコミュニケーションが上手くいかない」ということになりかねません。

「0歳児の育て方、接し方を親だけでなく、子どもを預けられた人たちにも伝えたいのです。そうでないと、人生の最初の段階で挫折してしまう子供が増えてしまいます」と編集長は言います。

いざ書き始めてみると、書かなければいけないことが次々に出てきました。

今回は小児科医でアレルギーの専門医でもある姉に助けてもらって、「医者に聞く」と言うコーナーを作りました。

■「人生最初の1000日」が持つ意味

ユニセフは「人生の最初の1000日を大事にしないといけない」と訴えています。お母さんのおなかで生を受けたその日からの1000日です。つまり、子育てのスタートは妊娠した瞬間からなのです。

お母さんは自分の体をいたわって、栄養のある良いものを食べ、たっぷりの睡眠と適当な運動でおなかの赤ちゃんの成長を応援しないといけません。

赤ちゃんが生まれるまでの9カ月の間に、夫婦は親になる覚悟を確認し合って、新しい命を迎える準備をします。いろんな物を準備するときに、親になる実感が湧きます。とっても大切なプロセスです。何が必要か、どうして必要かと考えていくうちに、想像力が働き、自分たちと赤ちゃんが家族になっていく場面が目に浮かぶのです。お腹の赤ちゃんに対する愛しさが増し、親になる楽しみが実感できるのです。

ユニセフは母親学級をいろんな国に設置し、地元の女性に栄養、衛生と育児の基本知識を教えています。

私もユニセフのミッションで栄養失調児が多い中米のグアテマラを訪ねたときに、ユニセフ主催の母親学級に参加しました。

ゲームを交えながらの教え方で、地元の女性たちは楽しんで学習していました。母乳の推進や、助産婦さんの訓練、妊婦と新生児への栄養食品の提供などを通して、人生の最初の1000日の重要性を訴えていました。

先進国に生活するお母さんも油断してはいけません。

自分の体をいたわって、栄養のある良いものを食べ、たっぷりの睡眠と適当な運動でお腹の赤ちゃんの健やかな成長を応援しましょう。

多くの新米ママパパは新生児の事がよく理解できないため、生まれてから、世話するときに慌てます。でも新生児に対する知識が増えれば、落ち着いて対応できます。

例えば、新生児にはいろいろな反射本能があります。新生児の頬を触ると、その方向に顔をむき、おっぱいを探すのです。これは哺乳類である赤ちゃんが生き延びるための本能です。

新生児の胃袋はとっても小さくて、胡桃くらいしかありません。だから、何回も何回もおっぱいをねだるのはわがままではなく、すぐに胃袋が満杯になるからなのです。

新生児は目が大きく見えます。なぜかと言うと、生まれたときに、目はすでに成人の3/4の大きさを持っているのです。だから、赤ちゃんはみんなお人形のように可愛いのです。

これらの面白い知識を知っていれば、目の前の赤ちゃんをより理解できるし、生命の不思議さと力強さを感じられます。

赤ちゃんの世話で大きなポイントの一つが母乳です。ユニセフは赤ちゃんが6カ月になるまで、純母乳で育てる事を勧めています。私も賛成です。

赤ちゃんが生まれてから1時間以内に、「初乳」を飲ませるのが重要です。

この透明な液体の中には母から子への抗体がたくさん含まれています。この「初乳」は赤ちゃんの免疫力を高める事ができます。

母乳の中には赤ちゃんが必要とする全ての栄養素が含まれています。消化しやすく、吸収もしやすい。赤ちゃんの消化機能に優しいのです。

母乳育児は親子の絆も作れます。赤ちゃんが自分の体から出る母乳で育っていくのを見て、母になる自信が生まれます。

母乳は自然に出てくると私も思っていましたが、実際は妊娠中に色々準備しないと、特に初産の場合は出にくいことがあります。助産婦さんに相談して、おっぱいを揉んだり乳首をきれいにして、母乳が出やすくした方がいいのです。それを知らなかった私は、長男を産んでから1週間近く母乳が出ませんでした。でも、出始めると、赤ちゃんが飲み干せないほど、たくさん出ました。

だから最初は出なくても、諦めないで欲しいと思います。

「大変だから」「おっぱいの形を悪くしたくない」などの理由で粉ミルクを選択するのは避けて欲しいです。

それでも、病気とか色々な理由で粉ミルクを選ぶお母さんもいます。そのときには、赤ちゃんにより多く、たっぷりの愛情と関心を持って接して欲しいと思います。

■私も新米ママだった

誕生したばかりの長男と(アグネスさん提供)

新米ママパパから見れば、一番心を痛めるのは赤ちゃんの泣き声です。

泣き止まないと、イライラしてしまう親もいます。

多くの虐待の原因は赤ちゃんが泣き止まないことから起きるといわれます。

赤ちゃんは泣く生き物です。言葉が話せて、自分で動けるまで、泣く事が唯一の助けを求める方法です。

そう考えれば、赤ちゃんって、とっても大変だなーとわかります。

赤ちゃんが泣く理由は限られています。

お腹がすいた、おむつを替えて欲しい、痛い、痒い、暑い、寒い、眠い、周りがうるさい…などです。

赤ちゃんの泣く理由を察知して、要求を満たしてあげれば、赤ちゃんは必ず泣き止みます。

注意深く赤ちゃんを見ていると、泣き声の違いがわかってきます。そうすれば、何をやってもらいたいのかそのうちにわかります。

私の場合は赤ちゃんが泣く前に、赤ちゃんの要求を察知して、やってあげるように努めました。

そうすると、赤ちゃんは泣く必要がなく、ハッピーでいられるのです。

長男は最初よく泣きましたが、次男、三男はハッピーな赤ちゃんでした。

新生児はたくさん寝ますが、寝る時間が短くて、2―3時間で起きては、おっぱいを飲みたがります。親にとっては、大きな負担です。
でも、4カ月になると、多くの赤ちゃんは夜、6-8時間寝ますので、親も寝られるようになります。つまり眠れない子育ては、ほんのちょっとの間の辛抱です。

赤ちゃんが4、5カ月になると、座る事ができ、よく笑う、自分の名前が聞こえると、に振り向きます。いつもそばにいる人に愛情表現をするなど、とっても可愛くなります。

その可愛さは日に日に増します。

6カ月から離乳食を食べ始めると、家族の食卓が賑やかになります。

訳のわからない言葉でお喋りしたり、表情豊かになって、面白い事をたくさんやってくれます。

7―8カ月になるとハイハイし始めます。

全てに好奇心を持って探検するように、動きまわります。

他人にますます興味を持って接します。

この時期には思いやり、優しさを教えるチャンスです。

人を叩いたりする時は、「やってはいけない」と教えてください。

食べ物やおもちゃを人に分けてあげたりする時は「いいね、いいね」と褒めてあげてください。

12カ月になると、歩き出す赤ちゃんがたくさんいます。簡単な単語が言える赤ちゃんもいます。一緒に本を読んだり、遊んだりすることもできます。

乳児から卒業して、幼児になるのです。

思い出せば、長男が生まれた時、私も新米ママで慌てました。

母乳が全く出なかったので、毎日泣きました。

夜泣きに悩まされた時もありました。子供が病気になった時、怪我した時…心配の連続でした。

でも、長男が初めて笑った日、座った日、立った日、歩いた日、など、鮮明に今でも覚えています。

その時の喜びは全ての苦労が消えるほど大きかったです。

次男が生まれた時は、少し落ち着いて子育てができるようになり、

三男が生まれた時は家族全員で子育てを楽しみました。

経験と知識が私を安心させてくれました。

だから、出来るだけ知識を手に入れば、慌てずにすむのです。

新生児の体の成長、知能の成長、感情や社会性の成長については、この本で核心となる部分です。

新生児は飛躍的に成長していきます。体の大きさも、頭の大きさも。でも特に注意したいのは、頭の中の仕組みです。

新生児の脳細胞の数は大人とほぼ同じくらいです。急速に成長するのは脳細胞と脳細胞を繋ぐシナプスです。このシナプスは人や物事との交流から生まれてきます。つまり、刺激されないと生まれてこないのです。

新生児から見れば、世界は全て新鮮で初めて触れるものばかりです。新生児の五感に刺激を与え、何か要求されたときに、素早く対応してあげる事で、赤ちゃんの脳の中に複雑な通信網が築き上げていきます。

司令塔になる脳の成長は赤ちゃんの知能だけでなく、体も、感情の成長にも影響します。

人と接する機会が乏しく、要求にこたえてもらえない赤ちゃんの脳の成長は遅れ、大きくなったときに学習能力、対人関係に問題が起きるだけでなく、病気にもなりやすくなります。だから、時間をかけて、新生児と出来るだけ多く交流する事をお勧めします。

話してあげたり、歌を歌ってあげたり、本を読んだり、外へ出かけたり、成長段階によって、どのように脳を鍛えられるか、いろいろな方法を本の中で紹介しました。

赤ちゃんの最初の一年はあっという間に過ぎてしまいます。

赤ちゃんにとって、一番大事な52週間、365日です。

人生を幸せに送れるかどうかを左右する時期と言っても、言い過ぎではないのです。

親の長い人生の中で、365日は短い時間です。

ちょっと大変でも、自分の子供のために、無限大の愛情と関心を持って、育ててあげてください。

掛けた愛情は必ず報われます。赤ちゃんに愛を示すと、掛け算で帰ってきます。新生児は「愛」で育つ、「愛」で走り出すのです。