こども庁の設立が話題になっています。
子供の成長と幸せを願うために、こども庁の提案が出てきのだと思います。
「子供を産んでもらいたいという間接的な少子化対策ですよ」と友達は言います。
例えそれが本当の目的であっても、こども庁の設立に賛成です。
政府が本気で子供の幸せを考えて、若い人が安心して子供を産めるようになれば、結果OKです。
子供の問題は社会が持っている問題の反映です。
貧困、栄養不足、いじめ、虐待、性暴力、自殺、鬱、薬やアルコール中毒、犯罪……。
社会の歪みによって、子供たちが犠牲になっているのです。
子供の目線で問題に取り組むと、社会の奥深くに潜んでいる問題が見えてきます。
子供の心身の健康は未来の繁栄の源です。
子供一人ひとりが自分の可能性を発揮できれば、社会は飛躍します。
それが実現できるために、こども庁の役割は重大です。
■ナイジェリアで見た取り組み
ユニセフの仕事でナイジェリアを訪問した時に、子供たちを保護するための官民一体の取り組みを勉強することができました。
NGOの代表によると、当時の現状は「子供がレイプされたり、暴力を受けたりしても訴えるところがなく、警察に行っても対応がおろそかで泣き寝入りするのが普通」というものでした。
それを見て、ナイジェリアのユニセフは子供たちが「ワンストップ」で助けが求められて、解決に向かう仕組みを提案しました。
社会のあらゆる分野で働く人が集まって、子供のセフティーネットを作ろうとしたのです。
政府の協力と民間援助団体の努力によって、ネットワークができあがりました。ネットワークには警察、医療関係者、教師、弁護士、児童相談所、保育士、民間援助団体、メディアなどが加わりました。
子供の事件の通報があった時に、全ての担当者に連絡が行き、素早く動くことができるようになったのです。
例えば、子供がレイプされたと通報があった時に、警察の担当者はその地域の警察に連絡し、すぐ現場に駆けつける。
さらに、病院は子供を待たせずに受け入れ、ケアをし、証拠を集める。
カウンセラーが子供と話し、児童相談所と民間援助団体が話し合って、子供を保護する方法を決める。
弁護士が子供と相談して、法的な仕組みを説明する。
学校の先生が駆けつけて、子供の次のステップを親と相談する。
「このネットワークができてから、今までは見逃されていた子供に対する性暴力が立件できるようになり、犯罪者を罰するようになりました。そして子供のトラウマを最低限に抑えることができるようになりました」と現地のNGO代表は言います。
私はこのネットワークの全国大会に出席しましたが、地域の代表者はみんなとても熱心でした。
「今までは、力になりたくても方法がなかったんです。ネットワークができて、自分の経験と人間関係によって、子供を助けることができるようになり、よかったです」と女性の警察官が言いました。
「病院に行っても、担当者がいるので、子供はすぐに診てもらって、助かります」と民間援助団体の代表。
「警察官は子供の扱いに慣れていて、助かりました」と病院の看護士は言います。
同じ方向を向いている仲間がいて、仕事がやりやすくなったとみんなが話しました。
上司に指名されて担当になった人もいれば、自ら手をあげて担当になった人もいます。
みんな自分の通常の仕事と兼務です。
全国大会の中でみんなは熱心に議論し、有意義な解決方法がいくつも出ました。
「今まで見えなかった問題点や新しいやり方がたくさん分かりました。現状の仕組みの中に責任者を置くことで、社会全体の力が集中でき、縦割りの問題が解決でき、物事が早く進むのです」と政府の担当者は皆さんに感謝の言葉を述べました。
■社会の力を借りる
子供の問題は複雑で、決して簡単に解決はできません。
幼稚園と保育園を一体にすることや、一時の援助金だけでは解決できないのです。
役人と政治家だけでも難しいのです。
「親を強くすれば、子供は助かる」という親の立場を考えての子供問題対策ではなく、子供目線で問題の解決方法を考えて欲しいのです。
こども庁が本当に設立されるなら、社会全体の力を借りて欲しいと思います。
ナイジェリアの形からさらに進化して、もっと様々な力を集められると思います。
例えば、大企業、中小企業にも担当者を置くと、貧困の問題、親の雇用の問題、子供の栄養不足の問題なども対策が見つかると思います。
大学の担当者は子供の進学の問題、親の再教育の問題も相談できると思います。
保護者会は学校でのいじめの発覚に役立つことがあります。
自殺防止の民間援助団体、家庭内暴力に取り組む援助団体、子供食堂を経営する援助団体、学力支援する援助団体……。彼らがこのネットワークに参加していれば、そのつながりで、子供に何が一番必要なのかがわかります。
例えば子供の虐待の問題。
通報があった時に、すぐにすべての団体に通報が伝わります。
カウンセラー、児童相談所の担当者、教師が警察と同時に現場に向かう。
親を説得して、子供を保護し、最適な手当てができます。
この過程の中で、何が足りなくて、何が必要なのかが分かってくると思います。
子供の保護施設にベッドがないなら、援助団体は解決方法を持っているかもしれない。
親の権利、子供の権利、法的の相談は弁護士が手伝ってくれます。
「人手が足りない」「予算が足りない」「保護施設にベッドがない」という理由で虐待死させてはいけません。社会が一体となって子供を守ることが必要です。それぞれの知恵と資源を出し合って、最善策を生み出すのです。
例えば子供の貧困の問題。
学校の先生が察知したら、ネットワークを通して、フードバンクが対応することができます。
洋服や学校に通うために必要品を企業から提供することをお願いすることもできます。
子供食堂で子供の栄養不足を察知したら、ネットワークに連絡して、医療担当者が子供を病院で診察させることができます。
貧困層にはシングルマザーが多いのが現実です。
母親をどうやって助けるのか。
役所は保育費の免除、企業は親の雇用の手助け、学校や大学は再教育の方法を提供できます。
役所と地域ができることをそれぞれ見つけて、母親が子供と生活できる最低限の状況を作るのに努力するのです。
例えば学校のいじめの問題。
保護者会が自分の子供に教育し、いじめられたら必ず言う、いじめを見たら、必ず報告するようにします。
そして、いじめが起きた場合、ネットワークに知らせて、教師は事態の重大性を知り、いじめを行なっている子供の親に弁護士が責任の重大さを説明します。いじめている子供にはカウンセラーがその歪んだ遊びを正す働きかけをして、いじめられた子供を保護し、最善策をみんなで協議するのです。
いじめ問題を軽視して、「ただの悪ふざけ」と決めつけて、いじめられた子供が自殺に追い込むことは絶対にあってはいけないのです。
事態を軽視しないで、真面目に専門家が一体となって取り組むことが、いじめをゼロにする大切なプロセスです。
例えば不登校の問題。
教師がその問題をネットワークに連絡したら、カウンセラーが出向いて、不登校の原因を聞き出します。
大学からお兄ちゃんやお姉ちゃんが家庭教師に出向いて、勉強を教えたり、
民間援助団体は学習施設を紹介したりできます。
父母会は親を支えるなど、様々な対応が想像できます。
実際に子供たちの幸せを願う人たちが社会にはたくさんいます。
でも、どうやって手伝うことができるのかがわかりません。
負担が大きすぎると、参加しにくくなってしまいます。
「自分の家庭も仕事もあるので」と戸惑う人も多いでしょう。
でも、もし自分ができる範囲で子供を助けることができるなら、喜んでネットワークに参加すると思います。
子供の問題をいつも気にかけるという思考が社会に育っていけば、限りない力が集結できると思います。
それが子供たちの一番大きな支えになると思うのです。
今まではみんなの力をまとめる官庁がありませんでした。
こども庁が設立されるなら、官民一体のネットワークをぜひ作って欲しいと思います。
最初は簡単ではないと思います。
反対意見や、参加団体と企業が足りないなど、問題はたくさん起きると思います。
でも、ナイジェリアの例を見ると、このシステムの利点は大いにあります。
大きなチャレンジだと思いますが、社会全体に子供の担当者を置いていただきたいのです。
子供のためなら、どんなに頭を下げて協力をお願いしても、かまいません。
子供のSOSを受け止める「ワンストップネットワーク」の構築に成功すれば、こども庁の存在感は国の隅から隅までで感じられるようになるでしょう。そして、あらゆるところで、子供たちの笑顔が増えていくと信じています。