海外でのBentoの広がりは2010年ごろからフランスで始まった。フランスでは日本のアニメや漫画が人気で、登場人物たちが学校でみんなで楽しく弁当を食べる様子を見て、「これは何?」となった。
元々、フランスのお昼時間は長く、家に帰って食べる人が多かった。ガメルという食べ物を入れる容器があり、工場で働く人などの中には、サンドイッチやサラダを詰めて持っていく人もいたが、それほど普及しなかった。
そうした中、日本のアニメを見た若者が自分も弁当を作ってみようと始めた。実際にやってみると楽しく、安上がりで、自由に作れる。SNSにアップすると話題にもなる。こうしたことがフランスでBento人気の火付け役となった。
ネット時代にキャラ弁の影響は大きかった。誰でもそうだが、良いものを作ると他の人にも見てもらいたいと考え、SNSにアップしてアピールする。それを多くの人が見て「すごい!」となる。すると、さらに頑張ってキャラ弁を作る。
自作のキャラ弁をネットにアップしていた米国人の父親は、キャラ弁を通して子どもとのコミュニケーションが密になったと話していた。子どもは何が好きなのだろう、今は何がはやっているのだろう、おいしく食べられただろうか――などと気になる。子どもも「みんなにうらやましがられたよ」と親子の会話が弾むようになったという。
おいしそうな弁当を作ることは一つの表現文化になる。自らのセンスや素養、美意識といったものを表現できる。そうすると弁当作りは義務ではなく、楽しみになり、広がっていくのではないか。
さらにパリのリヨン駅では2016年、2018年、2021年に日本の駅弁のテスト販売をして好評を得た。電車が走る地域の郷土食にあふれた弁当を、電車に乗りながら楽しむというコンセプトは、フランス人にとっては新鮮だったようだ。
また、弁当はただ空腹を満たせばいいだけではなく、彩りや栄養、詰め方も考えているものだとアピールできたことは大きかった。
同じころ、ニューヨークのオフィス街に、日本人が作る日本食の持ち帰り弁当店ができはじめて人気になった。できたての多種類のおかずの中から、自分で選んだものを詰めてもらうのが米国では受けたようだ。
米国のこれまでの弁当は、茶色い紙袋の「ブラウンバッグ」にリンゴやクラッカー、クッキーを入れるだけ。ハンバーガーチェーン店も単品文化だ。そんなところに日替わりでおかずが変わって、いろいろな味を楽しめ、しかも安いというBentoが登場し、非常に受けたのだと思う。
東南アジアでは、米が主食なので日本の持ち帰り弁当店も進出しやすいようだ。日本の弁当の形態を崩さずに、現地の調味料を採り入れるなどして展開している。ただ、屋台で簡単に食事をする人も多く、Bentoが屋台文化に取って代わるほどにはなっていない。
弁当は携行食なのでデリバリーが可能だということが海外で注目されるきっかけになったと思う。持ち運びができ、食べる場所が限られないからオフィス街で評判になる。療養食や高齢者向けの宅配弁当にもなり、被災地で配ることもできる。日本と同じ形ではないかもしれないが、国の事情に応じて進化していくと思う。