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「無償教育」掲げているのに…北朝鮮の子どもたちが学校に通えなくなる理由、親の苦労

北朝鮮インテリジェンス 更新日: 公開日:
朝鮮中央通信公式サイトより
朝鮮中央通信公式サイトより

「教育」をテーマに行った世論調査の資料は計20余ページ。世論調査に協力した北朝鮮市民50人は男性19人、女性31人。職業は教師1人、一般労働者と農漁業従事者が各5人、党職員4人、貿易・外貨関係3人、医療関係者4人、治安・軍関係者2人、自営業・主婦6人、密輸業者19人、政府職員1人。居住地は平壌7人、江原道・慈江道各3人など、人口分布に比例して偏りがないようにした。すべての回答者には子どもが1人ずついる。10歳未満が9人、10代が35人、20代が6人だ。

回答した50人の北朝鮮市民も人の親だ。90%が「子どもは学校に通うべきだ」と答えた。「行かせる必要はない」と答えた人はいなかった。

28.1%が「義務教育は、子どもの世界と視野を広げてくれる」と考えていた。ただ、回答者の33.3%が、「学校に通わなくなった生徒・学生がいる」と答えた。その理由は何なのか。日本の「不登校」と同じ問題なのか。

 労働力として動員される子どもたち

中国吉林省図們市から望む、中朝国境の川「豆満江」と北朝鮮南陽市
中国吉林省図們市から望む、中朝国境の川「豆満江」と北朝鮮南陽市=2018年10月、ロイター

世論調査で「生徒・学生が学校に来ない理由」を複数回答で尋ねたところ、41人が「勤労動員と税外税」を挙げた。次いで30人が「学校生活の水準の低さ」を、19人が「地域や社会的な身分による制約」をそれぞれ挙げた。

「勤労動員」や「税外税」とは何だろうか。

中朝国境地帯に近い北朝鮮領内では、雑草を取ったり、水くみを手伝ったりしている大勢の児童の姿が、中国側から確認されている。

中朝国境沿いの畑で雑草を取る作業を行う北朝鮮の子どもたち=姜東完・韓国東亜大教授提供
中朝国境沿いの畑で雑草を取る作業を行う北朝鮮の子どもたち=姜東完・韓国東亜大教授提供

生徒・学生は貴重な労働力として期待されている。「過去3年間、子どもたちはどのような勤労動員を経験したのか」という質問(複数回答)に対しては、「建設現場や農場の手伝い」が40人、「家畜などの管理」が31人、「薪などの収集」が21人などとなっていた。

北朝鮮は冬季、零下20度まで気温が下がる日もある。石油や灯油はほとんどないため、暖を取るためには練炭を使うか、樹木を直接燃やすしかない。金正日総書記の時代、貴重なたんぱく源としてウサギの飼育を全国の学校に命じた。最近は金正恩総書記が「子どもたちへの乳製品の供給」を命じたため、ヤギの飼育が改めて奨励されているという。ただ、国は命じるだけで、ウサギやヤギの餌や飼育管理は、すべて子どもたちや父母の負担になっている。

学校の運営は父母の支援頼み

「税外税」とは、法律に明記されていないが、父母が子どもの通う学校や教師のために負う経済的な負担を指す。北朝鮮は無償教育を唱えているため、学校経営は本来、国がすべて責任を持つはずだ。ただ、「誰が学校経営の責任を負っているのか」という設問に対し、58.9%が「学校」と答え、19.2%が「父母」と答えた。学校が経営責任を負っても、教師に経済力があるわけではなく、結局は父母に負担がのしかかってくる。

かつて小学校教師だった脱北者から「国が払う給与では食べていけないため、父母がコメや野菜を届けてくれていた」という話を聞いたこともある。 

朝鮮中央通信公式サイトより
朝鮮中央通信公式サイトより

父母は、学校の校舎の改築、楽器や運動器具などの購入、教師への財政的支援などのため、学校に寄付をすることになる。世論調査では、財政支援について「1年に2度、各10万ウォンを支払う」(江原道在住者)、「1年に1回、30万ウォンを支払う」(平壌在住者)などという回答が相次いだ。現金以外にも、「教師のために1年に2度、コメ15キロとアルコール10リットルを提供している」という回答や、「学校の修繕などのために、年に1度、砂利や鉄筋などを提供する」という回答もあった。北朝鮮ではコメ1キロが5000ウォン程度で、決して軽くない負担と言える。

一方、北朝鮮が2020年1月から感染拡大防止措置を取った新型コロナウイルスの影響は学校生活にも及んだ。

北朝鮮は薬品や医療設備が貧弱なうえ、ワクチン接種も大幅に遅れた。このため、各市町村間の往来を厳格に制限し、市場や企業所の運営時間を短縮するなどの措置を取った。世論調査でも、新型コロナ感染が問題視された期間の学校の開校率について、「80%以上」「50%以上」が各40%を占め、一定の影響があったことがわかった。

二部制とる学校、理由は給食

朝鮮労働党は今年6月に開いた中央委員会拡大総会で「この2年間、乳製品を供給する体系と秩序が整然と樹立されて託児所、幼稚園の年齢期の全ての子どもが一日も欠かさず正常に乳製品を食べられるようになった」と豪語した。

脱北した元党幹部は「乳牛の数も足りず、コールドチェーンもない国で、どうやってそんなウソがつけるのか」と嘆く。元幹部によれば、北朝鮮の大多数の義務教育施設は、午前と午後の2部制を取っている。元幹部はこう語った。「給食を提供できないからだ。乳製品にこだわる前に、まず解決すべき問題があるだろう」