金正恩氏の妻と同窓
元米プロバスケットボール選手、デニス・ロッドマン氏によれば、2013年9月に面会した正恩氏と妻の李雪主氏は、女児を連れており、「ジュエ」と呼んでいた。その子が現在、北朝鮮メディアが公開している正恩氏の娘だとみられている。
北朝鮮は、最高指導者とその親族について、市民が勝手に語ることを許さない。李炫昇氏が20歳で朝鮮労働党への入党を果たしたエリートだとしても、ロイヤル・ファミリーの実態をすべて知る立場にはない。
ただ、彼にはロイヤル・ファミリーといくつかの接点があった。父、李正浩氏は、かつて最高指導者が直々に承認するポストに就いていた。李炫昇氏が在学していた平壌・金星学院(小学4年制、高等中学6年制、大学4年制のエリート学校)には李雪主氏も通っていた。李雪主氏は4年ほど後輩にあたるという。
李炫昇氏は小学校部門を卒業すると平壌外国語学院に進学したため、李雪主氏と直接言葉を交わしたことはない。ただ、同窓生には李雪主氏を知る人間が何人もいるという。李炫昇氏はこう明かした。
「李雪主は性格も良くて、皆に好かれていたそうです。高等中学時代はボーイフレンドもいたと聞きました」
李雪主氏は2012年7月、北朝鮮の公式メディアに登場した。間もなく、金正恩氏の妻であることも公表された。当時、李雪主氏を知る学友たちには箝口令が出され、「決して口外しない」という誓約書まで取られたという。
その李雪主氏に2013年ごろ、醜聞が持ち上がった。脱北した北朝鮮の元高官は当時、銀河水(ウナス)管弦楽団と旺載山(ワンジェサン)芸術団の団員9人が、自らが出演するポルノを制作した事件が発生したと証言した。当時の人民保安部(一般警察)が9人の会話を盗聴し、「李雪主も昔は、自分たちと同じように遊んでいた」という会話を傍受したという。
秘書役の女性との関係
正恩氏は李雪主氏に関係する醜聞が外部に漏れることを懸念し、9人を裁判にかけずに公開処刑した。9人の家族らは政治犯収容所に送られ、両楽団は解散したという。
李炫昇氏によれば、この事件には、現在、労働党宣伝扇動部の副部長を務める玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏も関係していたという。李炫昇氏は醜聞の内容が正しいかどうかには言及しなかったが、銀河水楽団関係者らが李雪主氏の悪口を言ったことが処刑と楽団の解散に発展したと説明する。李炫昇氏は情報源を明かさなかったため、真偽は定かではない。
李炫昇氏は「玄松月は元々、金正恩の個人秘書を務めていました。玄は歌手だったので銀河水にも知り合いが大勢いました。玄や銀河水の楽団員たちは金正恩の遊び仲間でした。特に金正恩と玄松月は男女の関係だったと聞いています」と語る。
ところが、やはり歌手で、関係者がよく知る李雪主氏が金正恩氏と結婚した。みな、玄松月氏を慰める一方で、やっかみも手伝って李雪主氏の陰口を言い合ったという。
ただ、関係者が処刑されるなか、玄氏は処罰を免れた。李炫昇氏は「妊娠していたからだと聞きました。金正恩との間にできた男の子だったと聞いています」と語る。
別の情報筋によれば、玄氏は正恩氏のスイス留学時に秘書役として同行していた。正恩氏が海外生活に慣れず、精神的に不安定になっていたときに支えたことで親密な関係になったという。
正恩氏に男児はいるのか?
今、金正恩氏と李雪主氏との間には子どもが3人いるという説が流れている。一番上が男の子で、2番目が、最近よく登場する「キム・ジュエ」と呼ばれる女の子、3番目が女の子という説だ。
ただ、一番上の子が存在するのかどうか、はっきりしない。元米バスケットボール選手のデニス・ロッドマン氏が2013年9月に訪朝した際、「ジュエ」と名乗る正恩氏の娘を抱いた。ただ、当時、正恩氏と李雪主氏は娘の話ばかりをして、男の子の話は一切出ていなかった。
米韓関係筋によれば、金正恩氏の実兄の金正哲(キム・ジョンチョル)氏が2011年2月にシンガポールを訪れた際、大量の玩具を買い付けた。玩具は男児用も女児用もあった。別の関係筋によれば、党39号室の担当者も海外で、男女それぞれの玩具を購入した事実もあるという。ただ、男児の映像や写真の存在を確認した情報は流れていない。
こうした情報を突き合わせてみると、「長男の存在説」には様々な矛盾が生まれる。玄松月氏は2012年3月、世界婦人デーに合わせた公演で、正恩氏の前で歌を歌ったが、外見から当時妊娠していたとみられていた。李炫昇氏が語る「2013年の醜聞事件の際、長男を身ごもっていた」という説は、「長男の2010年誕生説」や、「金正哲氏の2011年、男児用玩具購入情報」と矛盾する。
もし、玄氏が正恩氏と男女の関係にあったとすれば、敢えて身重の彼女を、正恩氏が出席する公開の場に登場させるだろうか、という疑問にも行き着く。今のところ、「キム・ジュエ」氏が正恩氏の長女だという説が最も説得力がある。
では、なぜ、推定10歳程度の「キム・ジュエ」氏が頻繁に公式の席に登場するのだろうか。李炫昇氏は「ジュエは王宮で育てられ、学校にも通っていないし、社会活動もしていません。友だちがいないのです。正恩も自分が安心して話をできる相手がいないから、娘を連れて行くのです」と話す。その上で、こうも指摘する。「正恩はいつも、自分がドローンなどで攻撃されるのではないかとおびえています。ジュエは人間の盾の役割もあるのです」
あるいは、母親の李雪主氏が我が子の行く末を案じて、早めに公の席に登場させることで「ジュエ氏が正当な正恩氏の後継者だ」とアピールしているのかもしれない。かつて、金正日総書記の妻、高英姫(コ・ヨンヒ)氏が自分の子である金正哲、正恩、与正の3兄妹の将来のため、兄妹の異母兄にあたる金正男氏の追い落としを図ったケースと似ている。高氏は2001年5月、日本に密入国しようとした金正男氏を海外の情報機関にリークしたとされる。
北朝鮮の公式メディアは当初、「キム・ジュエ」氏について「愛するお子さま」「尊貴なお子さま」という形容詞をつけていたが、最近は写真こそ公開するものの、こうした説明をつけなくなった。
北朝鮮の市民も、女児が大人の世界に混じって活動することに違和感を覚えているに違いない。
「子どもは可愛いし、行く末が心配だが、市民の反発を買ったら元も子もない」。これが金正恩・李雪主夫妻の偽らざる心情かもしれない。