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Jアラート鳴ったら「地下へ避難」・・・できる?日本のシェルター事情、気になる費用は

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NPO法人日本核シェルター協会がつくったモデルシェルターの地上出入口(左上)と内部
NPO法人日本核シェルター協会がつくったモデルシェルターの地上出入口(左上)と内部=2023年5月15日、つくば市、荒ちひろ撮影

北朝鮮による弾道ミサイル発射などで全国瞬時警報システム(Jアラート)が発出されるようになりましたが、日本の防空シェルターはどうなっているのでしょうか。Jアラートは「頑丈な建物や地下への避難」を呼びかけていますが……。

2004年に施行された国民保護法は、ミサイル攻撃などの有事に備えた避難施設の指定を都道府県や政令指定市に義務づけている。特に爆風などからの直接の被害を避ける一時的な場所を「緊急一時避難施設」とし、「コンクリート造り等の堅ろうな建築物や地下街、地下駅舎等の地下施設」の指定を求めている。今年6月に閣議決定された「骨太の方針」にも、南西諸島を念頭にシェルター整備を進めることが盛り込まれた。

北朝鮮からミサイルが発射されたとみられるとして、建物の中や地下への避難が呼びかけられた=2023年5月31日、朝日新聞社撮影
北朝鮮からミサイルが発射されたとみられるとして、建物の中や地下への避難が呼びかけられた=2023年5月31日、朝日新聞社撮影

内閣官房によると、2022年4月時点で市役所や小学校など全国に5万北2490カ所あり、1年前から496カ所増えた。このうち地下施設は313カ所増の1591カ所。大規模なものでは、仙台駅の地下通路、神戸市のさんちか(三宮地下街)や福岡市の天神地下街などが指定されている。

2021年3月までゼロだった地下駅舎の指定は、昨年2月時点で142カ所に、さらにウクライナで多くの市民が地下鉄駅に避難する様子が伝えられたこともあり、10月には516カ所に増えた。

ただ、どのような建物が「堅ろう」にあたるかの具体的な基準はなく、深さや構造などの条件もない。旧ソ連時代に核シェルターを兼ねてつくられたとされるウクライナの地下鉄駅は深さ100メートルを超えるものもあるが、日本では最も深い都営大江戸線六本木駅(東京都港区)が地下42.3メートルだ。

シェルターとして使われているキーウの地下鉄の駅。ホームが深い場所にあり、長いエスカレーターで改札と結ばれている=2022年5月6日、ウクライナ、諫山卓弥撮影
シェルターとして使われているキーウの地下鉄の駅。ホームが深い場所にあり、長いエスカレーターで改札と結ばれている=2022年5月6日、ウクライナ、諫山卓弥撮影

東京都は今年4月時点で約130の地下駅舎を指定。都の担当者によると、複数の路線が乗り入れる大きな駅は関係者が多くなり調整に時間がかかることから、都営地下鉄と東京メトロの単一路線の駅から指定を進めてきた。複数の路線が乗り入れる駅や私鉄も順次、指定しているというが、六本木駅は今のところ含まれていない。

シェルターや核シェルターについては昨年11月、衆議院総務委員会で政府が「明確な定義はない」と答弁した。東京都は今年度初めて2000万円の予算をつけ、ミサイルのリスクや被害軽減に求められる性能などシェルターの技術的調査を行う。

災害対策基本法が定める緊急避難場所は、洪水、崖崩れ、高潮、地震、津波、大規模火災、内水氾濫(はんらん)、噴火を想定し、それぞれ立地や構造、耐震の条件などが決められている。

地下鉄の構内で会見を行うウクライナのゼレンスキー大統領=2022年4月23日、キーウ、竹花徹朗撮影
地下鉄の構内で会見を行うウクライナのゼレンスキー大統領=2022年4月23日、キーウ、竹花徹朗撮影

「人口に対する日本の核シェルター普及率は0.02%」。スイスやイスラエルでは100%、米国でも50%超。だから日本も整備が必要だ――。核シェルターをめぐっては、国会で昨年以降、こんな主張が与野党の議員から相次いだ。

この数字の出典とされるNPO法人「日本核シェルター協会」に聞くと、2002年にスイスのメーカーが調べた核シェルターに必要な換気装置の出荷データと、国ごとに定められた有事の換気量から割り出したデータらしい。例えばスイスは有事の際の換気量を「1時間あたり1人3立方メートル」と定めている。ただ、日本は通常の居室の場合は同20立方メートルだが、有事の基準はない。調査した2002年当時の資料が残っておらず、今となってはどうやって割り出した「0.02%」なのかわからないため、現在は協会のウェブサイトや資料から外している数字だという。

NPO法人日本核シェルター協会がつくったモデルシェルターの地上出入口。ドアを開けると、地下への階段が続いている。右手に少し離れてあるのは緊急用の脱出口=2023年5月15日、つくば市、荒ちひろ撮影
NPO法人日本核シェルター協会がつくったモデルシェルターの地上出入口。ドアを開けると、地下への階段が続いている。右手に少し離れてあるのは緊急用の脱出口=2023年5月15日、つくば市、荒ちひろ撮影

日本核シェルター協会は、主に個人宅などへの核シェルターの設置を行ってきた工務店や設計事務所など10社ほどで2003年に発足した。

この20年、主に数社の会員間で技術的な情報共有などを行ってきたが、昨年のロシアのウクライナ侵攻を受け、問い合わせや入会希望が急増。今年7月現在で会員は30社を超え、さらに大手ゼネコンやデベロッパー十数社も関心を示しているという。

5月には、つくば市内に核シェルターのモデルルームを建設した。

NNPO法人日本核シェルター協会がつくったモデルシェルターの紹介動画=同協会YouTubeチャンネルより

スイスの規格を参考にしたもので、大人4人、乳児1人を含む子ども3人の3世代7人と小型犬1匹が2週間避難する想定で、水や食料、衛生用品なども備蓄する。

5月中旬、同僚記者と見学させてもらった。

NPO法人日本核シェルター協会がつくったモデルシェルターの内部。地上出入り口から階段を下りると、分厚い防爆扉があり、さらに耐圧扉がある2枚扉の構造になっている=2023年5月15日、つくば市、荒ちひろ撮影
NPO法人日本核シェルター協会がつくったモデルシェルターの内部。地上出入り口から階段を下りると、分厚い防爆扉があり、さらに耐圧扉がある2枚扉の構造になっている=2023年5月15日、つくば市、荒ちひろ撮影

地上出入り口のドアを開けるとすぐにコンクリート造りの階段が地下へ続く。20段ほどを下りると、分厚い防爆扉があった。鉄筋コンクリートの枠にコンクリートを流しこんだもので、厚さ20センチ、重さ約1トン。ドアの外側を300度で2時間熱し続けても、内側の表面は15度しか上がらないという。

NPO法人日本核シェルター協会がつくったモデルシェルターの内部
NPO法人日本核シェルター協会がつくったモデルシェルターの内部=2023年5月15日、つくば市、荒ちひろ撮影

そんな重たい扉を開くと、物置を兼ねた広さ12平方メートルほどの気密室兼除染室があり、さらに扉がもう一枚ある。この扉の奥がメインのシェルター個室だった。こころなしかひんやりとしている。完成したばかりでコンクリートから湿気がでるため、除湿器が稼働していた。

中は約22.5平方メートル、高さは2.8メートルあり、思ったより広々とした印象だ。スイス製の換気装置を備え、蓄電池も用意してあった。スイスの規格にならい、緊急用の脱出口もある。

NPO法人日本核シェルター協会がつくったモデルシェルターの内部。左の小さな扉は緊急用の脱出口。中央のパイプと樽のような装置は換気装置=2023年5月15日、つくば市、荒ちひろ撮影
NPO法人日本核シェルター協会がつくったモデルシェルターの内部。左の小さな扉は緊急用の脱出口。中央のパイプと樽のような装置は換気装置=2023年5月15日、つくば市、荒ちひろ撮影

この換気装置では、放射性降下物やサリンなどの化学物質、細菌やウイルスなどを除去できるといい、停電時には手動で動かすこともできる。ただ、一酸化炭素を除去することはできないため、地上で大きな火災が発生した場合は、一時的に外からの給気を止める必要があるという。

かかった費用は、地盤改良なども含め総額4000万円ほど。地方自治体や省庁関係者、議員らからの見学の希望も相次いでいるという。

NPO法人日本核シェルター協会がつくったモデルシェルターの内部。左は地上からの出入り口。壁際には3段ベッドが置いてある=2023年5月15日、つくば市、荒ちひろ撮影
NPO法人日本核シェルター協会がつくったモデルシェルターの内部。左は地上からの出入り口。壁際には3段ベッドが置いてある=2023年5月15日、つくば市、荒ちひろ撮影