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シェルターでの国民保護、日本はどうする?専門家「平時にこそ、タブーなしの議論を」

World Now 更新日: 公開日:
日本大学危機管理学部の福田充教授=2023年5月、東京都世田谷区、荒ちひろ撮影

――日本の「シェルター」はどのような状況でしょうか?

「シェルター」とは、避難して身を守る場所を指す言葉で、津波や噴火対策の高台や退避所なども含む多様な概念です。戦後の日本では、戦争時に避難するものについて、ほとんど議論が進んできませんでした。

初めて実戦でミサイルが使われたのは第2次世界大戦の欧州です。英国の空軍力に対抗するため、ドイツが大陸からミサイルを撃ち込んだ。ロンドンは火の海になり、1万人以上の市民が犠牲になりました。一方で、地下鉄駅に避難した数十万人が助かったことから、地下への避難が有効であると、世界的に認識された。東西冷戦下でミサイルや核兵器の開発が進み、その脅威に対してシェルターが整備されてきたのです。

――日本では、武力攻撃を想定した避難について国民保護法が定めていますね。

日本で2004年に国民保護法ができたのは、2001年の米同時多発テロの影響です。念頭にあったのはテロ対策だったため、ミサイルを想定した避難訓練は北朝鮮のミサイル発射が相次いだ2017年まで一度もありませんでした。

弾道ミサイルを想定した住民避難訓練で、公民館に避難する住民ら。掃除中の想定で、ゴミ袋を手にしている=2017年3月17日、秋田県男鹿市北浦、朝日新聞社撮影
弾道ミサイルを想定した住民避難訓練で、公民館に避難する住民ら。掃除中の想定で、ゴミ袋を手にしている=2017年3月17日、秋田県男鹿市北浦、朝日新聞社撮影

――実際に諸外国を取材してみて、日本の国民保護の議論はまだまだ途上にあるように感じます。

武力行使を起こさないのが大事なのは当然で、外交努力は絶対にすべきです。その上で、万一の場合にどうするか。危機管理には、リスク源を「認知」して、情報を「共有」「議論」し、危機を「評価」、その評価に基づいて「管理」するという5段階のプロセスがあります。

どんな危機がありうるのか、どれくらいの危機なのか、理解した上で対策のシナリオをつくるのです。だから、国民保護が求められるような事態の想定は必要で、タブーなしに議論しなければなりません。

――具体的にはどのような危機が考えられるのでしょうか?

例えば、もし北朝鮮が攻撃してくるとしたら、着上陸侵攻や空襲をする能力は極めて弱いため、ミサイルの可能性が最も高い。在日米軍や自衛隊の基地が狙われるのは蓋然(がいぜん)性が高いシナリオです。しかし、政府はどの地域のリスクが高いとは言わない。リスク評価をせずに、一律に国民保護の計画で全国の自治体にミサイル対策をしなさい、避難訓練をしなさいと言っています。

北朝鮮のミサイルは東京まで最短7分で着弾すると言われていますが、発射からJアラート(全国瞬時警報システム)発出までの最短時間は現在4~5分です。単純計算で避難時間は2分余りしかない。より北朝鮮に近い大阪や福岡だったらその時間はさらに短くなり、現在のJアラートでは間に合わない可能性もあります。5分では避難が間に合わない地域があるから、発出までの時間を3分に縮める。その技術開発にはこれだけの費用がかかるが、やるか、やらないか。そういった議論が必要なのです。

弾道ミサイルを想定した避難訓練で、Jアラートの「国民保護サイレン」が鳴った後、ヘルメットをかぶり、教室の真ん中に集まった生徒たち=2022年9月23日、香川・小豆島の町立土庄中学校、朝日新聞社撮影
弾道ミサイルを想定した避難訓練で、Jアラートの「国民保護サイレン」が鳴った後、ヘルメットをかぶり、教室の真ん中に集まった生徒たち=2022年9月23日、香川・小豆島の町立土庄中学校、朝日新聞社撮影

――なぜ日本では議論が進んでこなかったのでしょうか? また、今後の課題は?

日本では戦後、有事の際に国民をどう守るかという議論、有事を想定すること自体がタブー視されてきました。もっと目の前の危機、例えば地震を想定した建物の耐震化や、津波対策など、災害対策に資源を回してきた。これには反対する人がいなかったからです。

ただ、防潮堤やダムの問題などのように、これ以上環境を破壊するのかという批判も出てきた。では次のリスクに備えるため、ミサイルから身を守るシェルターが必要だと着眼している人がいること、ウクライナの市民が地下シェルターに避難して助かっている現状を、日本にもシェルターが必要だと推し進める「チャンス」と捉える向きがあることも、事実ではないかと思います。

シェルターとは国民を守るためのもので、専守防衛の理念にかなうと、私は考えます。ただ、全国一律に整備するのではなく、地域ごとにリスクを分析し、本当に必要なところに重点的に資源を配分すべきです。何に備え、何を守るために、どこまでコストをかけるのか。平時にこそ、こうした議論が重要なのです。

日本大学危機管理学部の福田充教授=2023年5月、東京都世田谷区、荒ちひろ撮影
日本大学危機管理学部の福田充教授=2023年5月、東京都世田谷区、荒ちひろ撮影