「攻撃意図はなかった」
韓国軍合同参謀本部によれば、北朝鮮は13日午前7時23分、平壌近隣から日本海に向け、中距離級以上の弾道ミサイル1発を高角度(ロフテッド軌道)で発射した。ミサイルは約1千キロ飛行し、北海道に近い日本の排他的経済水域(EEZ)の外側に落ちたという。
韓国軍関係者は「新しいタイプの試験」としており、固体燃料を使ったミサイルだった可能性があると示唆していた。同本部はミサイルの高度は発表せず、種類も「中距離以上」とするだけで特定しなかった。日本政府はミサイルが「レーダーから消失した」と説明しており、途中で爆発した可能性も指摘されていた。
ただ、13日の時点で、日米韓の関係者は「北朝鮮に日本を攻撃する意図はなかっただろう」という見方で一致していた。発射前後で、北朝鮮軍が前線に部隊を集中配備したり、戦闘機や潜水艦などを緊急発進させたりする兆候が出ていなかったためだ。
日米韓はミサイル発射を探知すると、角度や速度から軌道を計算する。ミサイルが最後まで飛行していれば、北海道に着弾すると判断したようだ。軍事関係筋の1人は13日の時点で「北朝鮮には、日本が軍事的脅威を感じるよう、わざと日本に着弾すると思わせる軌道を取ったのかもしれない」と語っていた。ただこの関係者も「北朝鮮が実際、日本を攻撃する意図はなかったと思う」と語る。
ミサイル消失の謎
では、なぜ「日本に落ちる」と思われたミサイルがレーダーから消失する事態に至ったのだろうか。別の軍事関係筋によれば、北朝鮮軍のミサイルは発射後、他国が操作して軌道を変えることができないよう、事前入力以外は軌道を設定できない仕組みになっている。北朝鮮も含め、ミサイル発射後に軌道を変更した可能性はないとみられる。同時に、北朝鮮軍は実戦配備されたものを除き、試験発射用のミサイルには、実験失敗の場合に備えた自爆装置が搭載されている。
韓国軍合同参謀本部は13日時点で「中距離弾道ミサイルのようでもあり、ICBMのようでもある」と説明していたのは、中距離ミサイルの範囲である射程5500キロを超えて飛行する可能性があると分析したからだろう。北朝鮮が過去、ICBMを高角度で発射した際、高度は約6千キロに達していた。今回の飛行距離は約1千キロとされており、13日の時点では、ごく初期の段階で爆発か落下した可能性があるとみられていた。
ただ、朝鮮中央通信は14日朝、前日のミサイル発射について、金正恩総書記が指導し、固体燃料を使った新型ICBM火星砲18の発射実験を行ったと説明した。
同通信によれば、機体の第1段は通常角度、第2・3段は高角度で飛行させ、最高速度も制限したという。同通信は「周辺国の安全や(北朝鮮)領内飛行中に行われる段分離の安全性を考慮した結果」と説明した。こうした複雑な発射方式を取ったことが、日本政府が当初、「北海道に落下の可能性がある」と判断した背景にあったようだ。
朝鮮中央通信は「第1段は咸鏡南道金野郡虎島半島沖10キロの海上、第2段は咸鏡北道漁郎郡東方335キロの海上にそれぞれ落下した」と伝えた。金正恩氏が同席した事実も伝えており、実験は途中で機体を爆破させることもなく、計画通りに成功したという位置づけのようだ。
いずれにしても、変則軌道を取れるKN23やKN24などを除き、北朝鮮がこうした複雑な飛行形態を取るミサイル実験を行ったのは初めてのことだ。前述の軍関係筋の証言の通り、「日本が攻撃されるかもしれない」という危機的な状況を演出する狙いがあったのかもしれない。
ちょうど10年前の2013年4月12日、北朝鮮空軍477部隊に所属するミグ23戦闘機11機が米軍横須賀基地を攻撃目標に定め、日本海の途中まで南下する事件があった。このときも、航空自衛隊のレーダーが、正体不明の機影を捉え、一時大騒ぎになったが、ミグが途中で反転し、北朝鮮に戻ったため、交戦する事態は避けられた。
また、朝鮮中央通信は触れていないが、北朝鮮は模擬核弾頭を使った高高度爆発実験を行う意図もあったのかもしれない。
核爆弾を地上約40~400キロの高高度で爆発させる場合、発生した電磁波(EMP)によってコンピューターなどの電子機器を麻痺させることができる。朝鮮中央通信も2017年9月に行った6回目の核実験の際、EMP攻撃が可能な核弾頭の保有を示唆している。
北朝鮮は最近、核兵器を様々な形態で使用する試験を繰り返している。3月には戦術核兵器の空中爆発試験も行った。朝鮮中央通信によれば、北朝鮮は3月21日から24日まで模擬核弾頭を搭載した戦略巡航ミサイルを高度600メートルで空中爆発させる試験を行った。広島原爆も高度約600メートルで爆発している。軍事関係筋は「熱線や爆風などを使った破壊・殺傷能力を最大限に高めることができるからだ」と語る。
ICBMの固体燃料化「時間の問題」
一方、固体燃料式のミサイルだった場合、今回が初めての発射になる。軍事関係筋の一人は「北朝鮮はすでにKN23、KN24のように短距離であれば、固体燃料式弾道ミサイルを保有している。ICBMも固体燃料化するのは時間の問題だ」と語る。
北朝鮮は昨年だけで60発以上のミサイルを発射した。朝鮮中央テレビは今年1月、弾道ミサイルの製造工場とみられる場所を視察する金正恩総書記父子の写真を公開した。北朝鮮は10年前の段階で、すでに1千発以上の弾道ミサイルを保有しているとされてきた。
自衛隊関係者は「ICBMはともかく、短中距離ミサイルは実戦配備が終わり、十分な生産ラインを保有している可能性がある」と語る。戦時はともかく、平時に脅迫用として撃つためには十分なミサイルを保有しているという意味だ。「ミサイルを撃たせておけば、そのうち品切れになる」という一部の指摘はあたらないようだ。
北朝鮮は2021年、国防5カ年計画をまとめた。現在はその3年目にあたる。計画で示した軍事偵察衛星、戦略原子力潜水艦、核弾頭の多弾頭化など、まだ実現していないものも多い。自衛隊関係者の一人は「計画がすべて実現するまで、現在のようなミサイルや核の開発は続くだろう」と語る。
北朝鮮の国内事情は逼迫している。国民に団結を強要するためにも、こうした緊張を高める措置を取る必要がある。米朝協議も進まず、南北関係も緊張しているから、正恩氏は余計、軍事挑発の誘惑にかられるだろう。北朝鮮は13日の実験の際、「周辺国の安全を考えた」とうそぶくが、事前の通告もなく、ミサイルを発射すれば、どんな偶発的な事故が起きるかわからない。危険千万な行為と言える。
軍事関係筋の一人は「今、中国も台湾問題で忙しいから、北朝鮮をコントロールしきれない。このままいけば、7回目の核実験も時間の問題だろう」と語った。