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北朝鮮の核開発、いまどこまで進んでいる? 金正恩氏が目指す「使える核兵器」

北朝鮮インテリジェンス
非武装地帯の近くで、北朝鮮を批判する風船を掲げる脱北者の男性=2016年撮影、ロイター

■原子炉の運転再開

SIPRIの推計では、北朝鮮の13年1月時点の核弾頭保有数は6~8個だった。

北朝鮮の研究者や関係政府の証言を総合すると、北朝鮮は寧辺にある原子炉で年間6キロの兵器用プルトニウムを生産できる。プルトニウム型核弾頭1個から1・5個に相当する量だ。1980年代に稼働した原子炉は老朽化し、事故を起こす危険も高まっている。国際原子力機関(IAEA)は、2018年末から停止していた原子炉が今年7月ごろから運転を再開したとみている。

また、北朝鮮は寧辺にウランの低濃縮施設も持っている。拡張を続ける施設の規模から、遠心分離機が4千基程度あるとみられる。カンソンなど他の施設で更に濃縮作業を行い、年間100キロの高濃縮ウランを生産できる。ウラン型核弾頭4~5個分に相当する。米韓などは、北朝鮮が他にもウラン濃縮施設を保有しているとみている。関係国の間では、北朝鮮が年間10個のペースで核弾頭を生産しているという見方はほぼ、定着している。

金正恩氏は2013年3月、核開発と経済改革を同時に行う「並進路線」を提唱した。ただ、具体的な政策を示したことはなかった。北朝鮮は2006年に初の核実験に成功した際、「これからは、軍事予算を経済に回せる」と宣伝していた。並進路線は、市民の反発をそらしながら、引き続き、核開発を続けるための方便だったようだ。

北朝鮮は計6回の核実験を実施した。17年11月には射程1万2千キロ以上の大陸間弾道弾(ICBM)火星15を発射、その後18年4月の党中央委員会総会で「核兵器と運搬手段のミサイルが完成した」として、核実験とICBMの発射実験の中止を決め、並進路線の完成を宣言した。

2017年1月29日に発射された北朝鮮のICBM「火星15」=朝鮮通信

■「使える核兵器」へ

ただ、北朝鮮にとってICBMは「使えない兵器」でもある。

トランプ米大統領(当時)は17年9月の国連総会演説で、北朝鮮が米国を攻撃した場合、「北朝鮮は完全に破壊される」と断言した。同時に北朝鮮は通常兵器の老朽化が著しい。空軍の主力戦闘機のミグ21は、ベトナム戦争時代に活躍した兵器。韓国軍の最新鋭ステルス戦闘機F35には全く歯が立たない。陸軍の主力戦車も、1970年代に生産が終了したとされるT62だ。

北朝鮮はICBMの開発も続ける一方、19年からは「使える核兵器」の開発を本格化させた。ロシア製のイスカンデルに似たKN23、米軍の地対地ミサイルATACMSに似たKN24などの短距離弾道ミサイルの試験発射を続けた。いずれも変則軌道を取るため、従来の弾道ミサイル防衛では防ぎにくい兵器だ。固体燃料を使っているため、迎撃や反撃に使える時間も短くなる。

ただし、これらのミサイルに搭載するには、核弾頭の小型化が不可欠だ。KN23やKN24は核を搭載できるのか。搭載できる弾頭重量は500キロ前後とみられている。広島に投下された原爆は4トン、北朝鮮の核兵器は従来1トンくらいと言われていたが、北朝鮮は2013年2月に行った第3回実験から小型化、軽量化をずっと唱えている。

韓国国防研究院で北朝鮮軍事を研究した金振武・韓国淑明女子大国際関係大学院教授は「中国は300キロ以内に小型化したという情報もある。北朝鮮も小型化に完成した可能性は十分ある」と語る。金氏は「核兵器にはまだ高度化の余地があるが、金正恩は核保有国としての地位を十分に示した。北朝鮮の主張の9割くらいは信じた方が良い」とも指摘する。北朝鮮が短距離ミサイルに核を搭載し、戦術核として韓国の軍事基地などを限定攻撃する可能性は徐々に高まっている。

北朝鮮は中国との貿易やサイバー攻撃などを通じ、高度な技術の獲得に成功してきた。スカッド弾道ミサイルの場合、命中精度を示す半数必中界(CEP)は、半径3キロ程度から同400メートルぐらいにまで向上したとされる。金氏は、「今は、パソコンやスマホなどの民生技術を軍事転用できる時代。(北朝鮮が9月28日に初めて発射した)極超音速滑空弾もいずれ成功するとみた方が良い」と語る。

北朝鮮は今年1月の朝鮮労働党大会で党規約を改正し、党の統一戦略から「民族解放民主主義革命」という文言を削除した。南北関係に長く携わった韓国政府の元高官は「北朝鮮ももはや、韓国で革命を起こせるとは思っていない。赤化統一をするなら、武力侵攻しかないと考えている」と語る。

正恩氏自身は18年4月の南北首脳会談の際、「1年以内に核を廃棄することも可能だ」と語ったが、側近たちは核廃棄を許さなかった。2016年から17年にかけては、厳しい国連制裁を招く結果になっても核実験や弾道ミサイル発射を繰り返した。

南北首脳会談の舞台となった板門店で、軍事境界線を一緒に越える韓国の文在寅大統領(右)と金正恩朝鮮労働党委員長=2018年4月、板門店、韓国共同写真記者団撮影

18年までドイツ大使として北朝鮮に2度赴任したトマス・シェーファー元大使は、軍や党組織指導部、秘密警察の国家保衛省などで構成される強硬派が権力闘争の末、16年までに主導権を握ったと語る。国際社会との対話を拒み、核や弾道ミサイルによる武装強化を目指している集団だという。

金振武氏は「北朝鮮は非常に不安定な国だ。外部からの強い圧力や、内部の混乱などで、核の使用や流出の危険がある」と語る。北朝鮮の核の管理・発射システムの詳細は明らかになっていない。金氏は「戦略軍司令部はミサイルの管理をするだけだろう。おそらく核のボタンは、金正恩の直属部隊が握っているのではないか」と語る。

■アメリカ、韓国の対応は

米韓両国は、北朝鮮の核兵器の数が増え、実際に使用される可能性が高まっている現実を深刻に受け止めている。米韓は2日にソウルで開いた定例安保協議(SCM)で、従来の共同作戦計画を見直す方針で一致した。

米韓関係筋などによれば、米韓連合軍は2015年、新たな作戦計画「5015」を策定した。北朝鮮による弾道ミサイル発射の兆候をつかんだ後、30分以内に北朝鮮内にあるミサイル発射拠点や司令部、レーダー基地など約700カ所の戦略目標を攻撃する。一気に戦局を決するために北朝鮮が核も含めた全面攻撃に出てくる可能性があると予測しているからだ。

2017年9月、北朝鮮の核実験に対抗し、日本海に向けて弾道ミサイル「玄武2A」を試射する韓国軍=韓国国防省提供

ただ、この計画には、戦略目標の具体的な特定や、攻撃に至る手順などで不十分な点があるという。関係筋の一人は「Command and Control(指揮統制)やC4ISR(指揮、統制、通信、コンピューター、情報、監視、偵察の統合的な運用)を具体化する」と語る。

金正恩氏の10年の施政のうち、軍事部門は成果を挙げた数少ない分野とされる。同時に、北朝鮮による脅威の増大を招くことにもなった。