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北朝鮮が偵察衛星を搭載した弾道ミサイル発射 専門家「解像度はグーグルアース以下」

北朝鮮インテリジェンス 更新日: 公開日:
5月16日、非常設衛星発射準備委員会の活動状況を視察する金正恩・朝鮮労働党総書記(左から3人目)と娘(同4人目)
5月16日、非常設衛星発射準備委員会の活動状況を視察する金正恩・朝鮮労働党総書記(左から3人目)と娘(同4人目)。朝鮮中央通信が配信した=朝鮮通信

衛星、製作できるが解像度は低い

北朝鮮の朝鮮中央通信によると、31日午前6時27分に打ち上げた軍事偵察衛星「マンリギョン1」号はエンジンの始動がうまくいかず、推進力を失って黄海に墜落したという。

「可及的速やかに第2次発射を断行する」ともしており、北朝鮮が近く、再びロケットを発射する可能性がある。

ドイツの航空宇宙工学の専門家、マルクス・シーラー氏は「著名な大学では、学生が衛星を製作している。北朝鮮の技術力や保有する電子機器を使えば、軍事偵察衛星の製作は可能だろう」と語る。

ただ、朝鮮中央通信によれば、朝鮮労働党中央軍事委員会の李炳哲副委員長は5月29日、「衛星と新たな実験を予定している多様な偵察手段は、米国と追従武力の危険な軍事行動をリアルタイムで追跡、監視、判別して事前抑止および対処し、国家武力の軍事的準備態勢の強化で必須不可欠なものである」と強調した。

マルクス・シーラー氏
マルクス・シーラー氏=本人提供

だが、北朝鮮が打ち上げた偵察衛星は、李氏が主張する軍事目的を十分達成できるとは言い難いものだ。米ミドルベリー国際大学モントレー校ジェームズ・マーティン不拡散研究センターのデビッド・シュマーラー上級研究員によれば、米プラネット・ラボ社が提供する衛星画像の解像度は50センチ。来年までに新型衛星の打ち上げが成功すれば解像度は30センチまで性能が向上する。

これに対し、北朝鮮の軍事衛星の解像度は3~10メートル程度にとどまると、シュマーラー氏は予想する。在韓米軍基地にある航空機の数くらいは把握できるが、人の動きなどは確認できないだろう。「北朝鮮がプラネット・ラボやマクサーの技術に追いつくには長い時間がかかるだろう」。シュマーラー氏はそう指摘する。解像度など、性能はグーグルアースに及ばないとも指摘した。

デビッド・シュマーラー氏
デビッド・シュマーラー氏=2023年5月、ワシントン、牧野愛博撮影

偵察衛星は通常、高度2千キロまでの低軌道に打ち上げられる。低軌道では空気が残っていて、その抵抗によって衛星が減速、地表に落下する危険が常にある。

さらに通信の問題も残る。衛星が朝鮮半島周辺の上空に来ないと北朝鮮と情報のやり取りができない。シーラー氏は「衛星は、その軌道に応じて数日または数週間に1回しか朝鮮半島上空を飛行しない」と語る。

複数個の衛星を打ち上げない限り、李炳哲氏が語った「米国と追従武力の危険な軍事行動をリアルタイムで追跡、監視、判別」することは難しいのが実情だ。無人機を使った偵察活動などで補うつもりかもしれないが、北朝鮮の軍事偵察衛星は現状、金正恩体制の政治的な威信づくり以外にはほとんど意味をなさないだろう。

新しい発射台の整備始める

一方、北朝鮮は5月初めから平安北道・東倉里にある「西海衛星発射場」で新たな工事に着手した。2012年に衛星運搬ロケットを発射した際に使った発射台とは別の建造物で、海に近い場所でコンクリートの舗装と、新たな発射台の設置工事をそれぞれ進めている。

新しい発射台は従来のものよりやや小型で、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星砲18」などの規模の発射体を打ち上げる際に使うとみられている。

金正恩氏は2021年1月、軍事偵察衛星の打ち上げを予告していた。西海衛星発射場でも既存の発射台の拡張工事も行われていた。なぜ、突然新しい工事を始めたのか。これは金正恩氏が4月18日に行った、国家宇宙開発局の視察と関係があるかもしれない。

朝鮮中央通信によれば、正恩氏は視察の際、「気象観測衛星、地球観測衛星、通信衛星の保有を先占目標に定め」るよう指示した。新しい発射台は、こうした民生用の衛星打ち上げに使うつもりなのかもしれない。

北朝鮮は地球温暖化の影響もあり、近年たびたび大規模な風水害に見舞われている。朝鮮中央通信は5月24日、今年のエルニーニョ現象が引き起こす災害に対処する北朝鮮の活動を伝えた。北朝鮮が衛星開発にこだわるのは、実は災害対策などを急ぎたい本音があるからなのかもしれない。