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首脳会談でありえない冷遇、それでも北朝鮮がロシア支持をやめないのはなぜか

北朝鮮インテリジェンス
金正恩朝鮮労働党委員長とロシアのプーチン大統領
ロシアのウラジオストクで2019年4月25日、歓迎の宴で乾杯する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長とロシアのプーチン大統領(右)。朝鮮中央通信が配信した=朝鮮通信

北朝鮮は元々、旧ソ連が作った国だった。金日成主席を指導者にし、朝鮮戦争(1950~53年)で荒廃した国土復興に力を貸した。脱北者らの証言によれば、平壌のアパートの暖房施設は1960年代、金日成氏が「主体建築」を打ち出すまで、オンドルではなくてロシアの暖炉であるペチカを使っていた。金日成主席は当時、側近たちに「わが国はネジ1本に至るまで、全部ソ連製だ」と嘆いたという。

その後、フルシチョフによるスターリン批判もあり、60年代には平壌中心部に飾られていたスターリンの肖像画が外された。北朝鮮は主体思想に基づく自主独立路線を打ち出し、70年代にはレーニンの肖像画も平壌から消えた。

政治路線での対立はあったが、ソ連は核やミサイル開発などの軍事協力、「友好価格」によるエネルギーの輸出などを行い、北朝鮮を助けた。北朝鮮高官を対象に、北朝鮮の医療水準では難しい治療をソ連が代わりに無償で提供する秘密協定も結んだ。

91年のソ連崩壊により、経済支援はほとんど途絶えた。現在も続いているのは、年間1万トン前後の小麦粉の人道支援程度という状況だ。ソ連が北朝鮮に対する防衛義務を負うソ朝友好協力相互援助条約も1996年に失効した。2000年に締結されたロ朝友好善隣協力条約からは防衛義務の項目は削除された。

91年のソ連崩壊後、職を失ったロシアやウクライナなどの科学者50人が、北朝鮮に好条件でスカウトされて北朝鮮に渡った。

ただ、それはあくまで非公式な個人レベルの動きであり、ロシア政府としては、1990年代に起きた朝鮮半島核危機以降、北朝鮮に対する軍事支援を断り続けてきた。当時、ロシア政府関係者は「我々はとんでもない国を作ってしまった」と後悔とも愚痴ともつかない言葉を吐いていた。

平壌の万寿台(マンスデ)の丘に立つ金日成主席、金正日総書記の銅像と、結婚式に臨むカップル=2014年10月、松井望美撮影

韓国政府関係者によれば、金正日総書記が2011年8月、東シベリアのウランウデを訪れ、メドベージェフ大統領と会談した。金正日氏は当時、ロシアに戦闘機の供与を要請していた。ロシア側はウランウデ市にあるヘリコプター工場の視察をセットした。戦闘機の支援をする考えはなく、民生用ヘリを提供する用意ならある、というメッセージだった。

別の関係者によれば、2015年4月、金正恩氏の特使として訪ロした玄永哲人民武力部長(国防相)は、ロシアの防空ミサイルシステム「S300」の購入と原子力潜水艦の設計支援を要請したが、ロシアは協力を拒んだ。

そして、金正恩氏とプーチン氏は19年4月、極東・ウラジオストクで首脳会談を行った。雰囲気は良くなかった。当時、同年2月にハノイで行われた米朝首脳会談が決裂し、正恩氏は苦境に立たされていた。

ロ朝関係筋によれば、プーチン氏は会談冒頭で「米国は我々に、最終的かつ完全、検証された非核化(FFVD)が変わりない立場だという米側の立場を正恩氏に必ず伝えて欲しい、と伝えてきた。北朝鮮もその立場には配慮すべきだ」と、いきなり発言した。

正恩氏は反発し、「米国は何の見返りもなく、我々を完全に武装解除しようとしている。我々は、絶対にだまされない。プーチン大統領は我々のこのような考えをトランプ大統領に伝えて欲しい」と切り返したという。正恩氏はプーチン氏に制裁緩和への協力を求めた。北朝鮮労働者を受け入れ、水産物や鉱物をもっとロシアが輸入してほしいとも訴えた。

ただ、プーチン氏は核問題について「ロシアは米朝対話を支持している。6者協議を開き、核問題を解決すべきだ」と答えた程度だった。経済関係についても、ロシアは水産物や鉱物に特に困っていないと説明した。唯一、北朝鮮の労働者受け入れについて「肯定的に検討してみる」と語っただけだったという。軍事協力の話題にも触れなかった。

ロシアは当時、金正恩氏の歓迎式典を迎賓施設ではない、ウラジオストク駅前の広場で行った。プーチン氏は正恩氏が帰途に就く前に、ウラジオストクを離れた。日本外務省関係者は「儀典上、あり得ない行為だ。歓迎式典の映像を見たら、正恩氏の後ろの方を通行人が横切る姿が見えた。ロシアも随分、北朝鮮につらく当たるものだ」と驚いていた。

ロシア・ウラジオストク駅に到着し、歓迎を受ける北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長
ロシア・ウラジオストク駅に到着し、歓迎を受ける北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(中央右)=2019年4月24日、竹花徹朗撮影

ただ、欧州でロシアと北大西洋条約機構(NATO)との対立が、アジアでは中国と日米豪などとの摩擦が増え始め、ロシアの北朝鮮に対する態度も徐々に変わり始めている。中国とロシアは19年、国連の対北朝鮮制裁を緩和する決議案を提案。昨年11月にも、石油製品の輸入制限の撤廃などを求めた制裁緩和決議案を再提案した。

日本政府関係者は、ロシアに対する非難決議に反対した北朝鮮の行動について「ロシアが一番困っている時に恩を売っているのではないか。ICBM(大陸間弾道ミサイル)発射などの際に、ロシアが北朝鮮制裁決議で拒否権を行使することを期待しているのかもしれない」と語る。

ただ、脱北した北朝鮮元外交官は「対外関係よりも国内をにらんだ行動ではないか」と語る。

元外交官によれば、1990年代まで、国際会議などでの投票の際、北朝鮮の基本戦略は「勝ち馬に乗る」だった。北朝鮮は当時、韓国と国連加盟を争っており、一票でも多くの支持が欲しかった。元外交官は「勝敗の行方が不透明な場合は棄権しろ、という指示が本国から来たこともあった」と語る。

北朝鮮が今回、「負け戦」がはっきりしていたロシアに対する非難決議で反対に回った理由について、元外交官は「北朝鮮の目には、ロシアとウクライナではなく、ロシアと西側の対立に見えている」と語る。「当局はこれまで、核実験や弾道ミサイル発射の際の口実として、市民に米国による侵略を防ぐためだと強弁してきた。ここでロシアを支持しなければ、示しがつかない。ウクライナを非難するというより、米国と対決する路線を維持したいのだろう」と語った。

北朝鮮は5日、再び弾道ミサイルを発射した。国連安全保障理事会は7日、北朝鮮のミサイル発射を巡る今年5回目になる会合を開いたが、ロシアや中国が反対したため、米国などが目指した非難声明を出すことができなかった。北朝鮮外務省は6日、「我々の自衛的権利を侵奪しようとするいかなる行為も絶対に許されない」などとする同省日本研究所員の論評をホームページに掲載した。

国家宇宙開発局を視察する金正恩氏
国家宇宙開発局を視察する金正恩氏(中央)=北朝鮮ウエブサイト「わが民族同士」から

朝鮮中央通信は10日、金正恩氏が国家宇宙開発局を視察したと伝えた。正恩氏は軍事偵察衛星の目的について「南朝鮮(韓国)地域と日本地域、太平洋上での米帝国主義侵略軍とその追従勢力の反朝鮮軍事行動情報をリアルタイムで朝鮮の武力に提供する」と主張。「5カ年計画期間内に多くの軍事偵察衛星を太陽同期極軌道に多角配備」するとした。

北朝鮮今後、ウクライナ危機を契機に、自らの核・ミサイル開発や軍事冒険路線の正当性を訴える論評を次々に繰り出すことになりそうだ。