韓国・聯合ニュースによれば、RMは広報大使の委嘱式で「国の重要な事業であるだけに大きな使命感を持って遺骸発掘鑑識団が進める意味のある活動を国内外に広く知らせるよう努める」と述べた。
同ニュースは、韓国国防省がRMを広報大使に選んだ背景について、BTSが人種差別や暴力、偏見など様々な社会問題に声を上げ、国連総会での演説やホワイトハウス訪問などを通じて影響力が認められていることなどを挙げた。
BTSは2025年にメンバー全員での活動再開を目指して順次、兵役に就いており、RMも近く入隊するとみられる。
遺骨発掘はほとんどが韓国領内から 非協力的な北朝鮮
韓国の遺骸発掘鑑識事業は2000年に始まり、2022年までに韓国軍1万1313柱、国連軍32柱、北朝鮮軍773柱、中国(義勇)軍1003柱の兵士の遺骨を発掘した。
大多数は韓国領内の戦場などの発掘で、北朝鮮領内では東部の咸鏡道(ハムギョンド)で12柱などごくわずかにとどまっている。朝鮮戦争では20万人前後の韓国軍兵士のほか、3万6000人以上の米軍兵士が戦死した。
アメリカ国防総省の捕虜・行方不明者調査局(DPAA)によれば、約7500人の米軍兵士の遺骨が依然、行方不明になっている。北朝鮮領内での遺骨発掘事業が進まないことが主な原因だ。
これまで全く取り組みがなかったわけではない。米朝は1996年から2005年まで共同発掘作業を実施した。2018年6月に米朝首脳会談が行われることが決まると、北朝鮮は関連して米軍兵士の遺骨を返還した。同年9月に開かれた南北首脳会談では、2019年4月から10月まで非武装地帯で遺骨の共同発掘事業を行うことで合意した。
ただ、2019年2月にベトナム・ハノイで開かれた第2回米朝首脳会談が決裂すると、北朝鮮は遺骨発掘にも取り組まなくなった。米政府系放送局、自由アジア放送(RFA)によれば、DPAAのケリー・マッキーグ戦争捕虜・行方不明者確認局長は6月22日、朝鮮戦争で行方不明になった米軍兵士7500人のうち、5300人が北朝鮮領内だったと明らかにしたという。
マッキーグ氏は「2019年3月以降、北朝鮮から連絡がない」と語った。北朝鮮は韓国にも協力しなくなり、韓国は2019年4月から単独で遺骨発掘事業を実施した。
遺骨返還を外交交渉に利用する北朝鮮
なぜ、北朝鮮は遺骨発掘に協力しないのか。
北朝鮮を逃れた元朝鮮労働党幹部は「朝鮮も遺骨に敬意を払わないわけではない。しかし、あまりに多くの人々が死んだうえ、国家経営に余裕がないため、発掘した遺骨をDNA鑑定したり、手を尽くして遺族を捜したりする事業は行っていない」と語る。
こうした事情に加え、米韓などが遺骨発掘に一生懸命取り組むため、遺骨発掘に協力することが有力な外交手段の一つに変わっていったという。
1996年から2005年にかけて行われた米朝の遺骨共同発掘事業も、1994年に北朝鮮の核開発活動の凍結などを決めた米朝枠組み合意による緊張緩和を受けて行われた。
米国は当時、1回の作業あたり20万~40万ドル(約2900万~5800万円)程度を支払うなど、北朝鮮は金銭的にも恩恵を受けてきた。この事業も2002年10月のケリー米国務次官補の訪朝に伴う、北朝鮮によるウラン型核開発の発覚と米朝枠組み合意の崩壊とともに途絶えた。
日朝でも関係悪化で遺骨引き渡しや墓参事業が頓挫
同じ現象は、日朝の間でも起きた。
北朝鮮の日本人戦没者は、第2次世界大戦の際、北朝鮮地域で戦死した日本軍兵士や、戦後の引き揚げ途中に北朝鮮領内で死亡した日本人は計3万人前後とみられている。
戦後、遺骨収集問題は進展がなかったが、2012年4月、宋日昊(ソンイルホ)・朝日国交正常化交渉担当大使が訪朝団に対し、遺族による墓参の無条件受け入れを表明。北朝鮮が拉致被害者の再調査などを受け入れた2014年5月の「ストックホルム合意」には、日本人遺骨や墓地の調査も含まれた。その後、墓参団受け入れもあったが、北朝鮮が2016年2月に合意の破棄を宣言し、遺骨問題も進展がみられなくなった。
別の脱北者によれば、北朝鮮東北部・清津(チョンジン)の工事現場などで大量の人骨が発見された。調査したところ、日本人遺骨の可能性が高いことがわかった。また、それが日朝が関係改善を模索し始めた時期にあったため、解決が難しい日本人拉致問題に至る前の信頼関係を強化する手段の一つとして、遺骨問題を巡る協議を日本に打診することになったという。
この脱北者も「朝鮮には、遺骨の問題を純粋な人道問題として扱うだけの余裕がない。結局、得られる対価が見込まれる場合に限って、遺骨問題に焦点が当たる」と語る。北朝鮮では、工事現場などで発見された遺骨が北朝鮮人のものだと推計されても、特別な手がかりがない限り、誰の遺骨なのかを探し当てるための体制や予算が組まれていない。
北朝鮮では密輸されたDVDやメモリーカードなどを通じ、韓国のドラマや音楽を楽しむ人々が増えているという。BTSやRMにあこがれている人も必ずいるはずだ。ところが、北朝鮮当局は、韓国のドラマや音楽を広めた人間を死刑にするとした反動思想文化排撃法を制定するなどして、取り締まりに躍起になっている。RMが遺骸発掘鑑識団の広報大使になったことで、さらにムキになって韓国の遺骨発掘作業の現場を伝えないようにする可能性が高い。
北朝鮮に眠る遺骨の発掘・収集は、金正恩体制が倒れない限り、明るい未来がなかなか見えてこない。