先日、朝日新聞で、日本には一年にわたって祝日があるものの、6月と12月だけ祝日がないことを記事で取り上げました。
山形県朝日町は過去に2回、国に対して「6月5日」を「空気の日」として祝日にするよう要望する意見書を国に提出しています。同町では1990年に空気をまつる「空気神社」が建立されました。空気に感謝する気持ちから、町では6月5日の「世界環境デー」に合わせ、町の条例でこの日を「空気の日」として制定しているとのことです。
今回は「国民が一斉に休む日」つまり「祝日」について海外と比べながら考えてみます。
海外と比べて祝日が多いニッポン
毎年6月になると、筆者は「よりによって梅雨の時期に祝日がないなんて…」と嘆いています。「7月には『海の日』、そして8月には『山の日』があるのだから、6月には自然の恵みに感謝する『雨の日』があっても良いのに…」なんて勝手に想像を巡らせていました。
でも実は、日本に来る外国人は「日本に祝日が多いこと」にビックリします。「日本人は働きづめで、あまり休まない」というイメージがあるため、祝日も少ないのだと思っている外国人が多いようです。
日本には祝日法が定めている祝日が年間16日もあります。そして日本には「祝日が日曜日に当たると、翌日が振り替え休日」といううれしい制度があるのです。
筆者が出身のドイツには振り替え休日の制度がありません。年によっては、複数の祝日が日曜日にあたってしまい「なんだか損をした気分」を味わうことになるのです。
ドイツの祝日はほとんどが「宗教絡み」 そうでないのは…
ドイツの祝日はほとんどが宗教に絡んだ祝日です。
Karfreitag(聖金曜日)、Christi Himmelfahrt(キリスト昇天祭)、Pfingstmontag(聖霊降臨祭の月曜日)などが16州あるドイツのすべての州で祝日である一方で、「この州では、祝日だけれど、別の州では祝日ではない」日もあります。祝日を決めるのが国ではなく州の管轄となっているためです。
たとえば11月1日のAllerheiligen(諸生徒日)は比較的カトリック教徒の多い南東部バイエルン州では祝日ですが、そうでないベルリン州では祝日ではありません。だからドイツで他の州に国内出張をする人が、その州では祝日であることを忘れて、会議を提案してしまったということが起きるわけです。
またMariä Himmelfahrt(マリア昇天祭)のように、「バイエルン州の中で、カトリック教徒の多いOberbayernとNiederbayernの地域だけが祝日で、プロテスタントの人の数が多い同州の他の地域では祝日ではない」といったちょっぴり複雑なケースもあります。
3月8日の「世界女性デー」について、ベルリン及び北部メクレンブルク・フォアポンメルン州では祝日ですが、それ以外のドイツの州では祝日ではありません。
「宗教的な要素が絡んでおらず、ドイツ全土が祝日となる日」は年始の1月1日、5月1日のメーデー(Tag der Arbeit、労働の日)、10月3日のTag der Deutschen Einheit(ドイツ統一の日)だけです。
さらに聖霊降臨祭に伴うPfingstmontag(聖霊降臨祭の月曜日)は「イースター(復活祭)からきっかり50日後」と決まっていますが、その復活祭を祝う「復活祭の日曜日」は「春の最初の満月の、次の日曜日」となるため、毎年日にちが異なります。
祝日に限らず、学校制度などにもドイツでは州によってかなりの差があります。「学校の長期の休みの時期」も州によって違うのです。これはかつては全国的な交通渋滞を防ぐためでもありました。たとえばバイエルン州の学校の夏休みが7月31日から9月11日であるのに対し、北西部ニーダーザクセン州の夏休みは7月6日から8月16日、西部ノルトラインウェストファーレン州の夏休みは6月22日から8月4日です。
筆者は「ドイツではどうなのですか?」と聞かれると、自分が出身の南部バイエルン州の話をすることが多いですが、そうすると、他の州の出身者であるドイツ人から「違う!」と反論されることがあります。
祝日の話も含めて、なかなか「ドイツではこう」と言い切れないのが日本との大きな違いかもしれません。もちろん日本にも地方によって慣習の違いなどはありますが、祝日は日本全土どこでも同じであるため、特に混乱することはありません。
「みんな一斉に休むこと」は必要? 日本人の低い有休取得率
日本に住み始めたばかりの外国人がさらに驚くのは、日本のお正月について。というのも、カレンダー上の祝日は1月1日のみですが、かといって「1月2日が平日だからと仕事の打ち合わせを入れる」日本人はまずいません。
「カレンダーでは祝日ではないけれど、慣習的に1月の最初の週はお休みしている企業が多い」というのは説明しないとなかなか分かってもらえません。
「梅雨である6月に祝日があったらいいな」とは思うものの、よく考えてみれば、休みがほしいのなら、祝日をあてにするのではなく、自分で休んでしまえばよいわけです。会社員であればそれは有給休暇を使うということになります。
でも日本は「有給休暇の取得率が低いけれど、G7加盟国の中で最も祝日が多い」という不思議な国です。前述の正月休みもそうですが、「皆が休んでいる時に自分も休む」というスタイルが日本では根強いのです。エクスペディアが実施した調査によると、2021年のドイツの有休取得率が93%であるのに対し、日本の有休取得率は、以前より高くなったものの60%です。
ドイツでは年間最低でも24日間の有給休暇が義務付けられていますが、企業によっては社員に約30日の有休を与えていることも珍しくありません。ただ「有給休暇の日数」よりも「気軽に有休を申請する雰囲気があるかどうか」が大事かもしれません。
日本では「働き方」について話題になることが多いですが、その多くが「効率」や「育児との両立」を考慮したものです。でも純粋に「休むこと」が話題に上がることはあまりない気がします。
心の中では「休みたい!」と思っている人が多いはずなのに、まだまだ家庭の事情や身体の問題以外の理由だと「休みにくい」空気が社会にあります。「みんな一斉でないと休めない」雰囲気があるため、「祝日」のことが定期的に話題になるのだと思います。
冒頭の通り、山形県朝日町は6月にも祝日を設けるよう国に働きかけていますが、今のところ、6月に祝日が制定される動きはありません。一年にわたりたくさんの祝日があることをありがたく思いつつも、「休む時は全員同時に休まなければいけない」という考えからいったん離れ、「自分の好きなタイミングで休む」ことがもっと浸透すれば生きやすい社会になるのではないかと思います。