1. HOME
  2. LifeStyle
  3. 「祝日過多社会」なのに休めないニッポン 「ぐうたらの天才」のび太に学べることは

「祝日過多社会」なのに休めないニッポン 「ぐうたらの天才」のび太に学べることは

LifeStyle
「祝日過多社会」について話すニッセイ基礎研究所主任研究員の土堤内昭雄さん=2018年10月、市川美亜子撮影
「祝日過多社会」について話すニッセイ基礎研究所主任研究員の土堤内昭雄さん=2018年10月、市川美亜子撮影

「ぐうたらの日」は、1975年に小学館の学習雑誌「小学五年生」6月号に掲載された。6月に国民の祝日が一日もないことを嘆いたのび太君に、ドラえもんが出してくれたひみつ道具が、日本中のカレンダーを好きに変えられるひみつ道具「日本標準カレンダー」。日本中に影響が及ぶことにためらうのび太君に、ドラえもんは「休みがふえて、おこる人がいるかい。みんながよろこぶなら、いいことだろ」。それもそうだ、と、のび太君は62日を誰も働いてはいけない「ぐうたら感謝の日」と定める。効果は絶大。パパは会社に行かず家でゴロゴロ。テレビは録画を流し続け、ママも「働いちゃいけない日だから」とご飯をつくらない。頼みのラーメン屋も休業で、空腹に耐えられなくなり…… 

「ドラえもん学」を提唱し、「人生で必要なことは、すべて『ドラえもん』が教えてくれた」(文庫ぎんが堂刊)などの著書がある富山大学名誉教授の横山泰行さんは言う。「のび太君がドラえもんのひみつ道具でよかれと思ってやったことに対して、厳しいしっぺ返しをくらう。ドラえもん作品の典型と言っても過言ではありません」

休み_ドラえもん_6
ドラえもん研究家の横山泰行・富山大名誉教授(本人提供)

一方で横山さんは、掲載から40年余が経過しても、のび太君の「不愉快な悩み」は依然解消されていないと指摘する。

? そう言われて、カレンダーを改めて確認してみると、たしかに6月は国民の祝日がない。もしかして、日本は祝日は少ない国なのか?

■祝日の数は世界有数

いやいや、現実はまったく逆なのだ。6月だけは「ゼロ」とはいえ、日本の祝日数は現時点で16日。2014年に米コンサルティング会社マーサーが世界64カ国を対象に行った調査によると、日本の祝日数は当時15で、インドやコロンビアの18、タイやレバノンなどの16についで「3位」だった。アメリカは10、ドイツは9など「10前後」が多い。2016年からは、ここに「山の日」が加わって16になり、来春に限っては、皇位継承にともなう祝日があるため「10連休」も出現するという。日本は世界的にも祝日が多い方なのだ。

しかし、だ。日本の有給休暇の消化率は世界的にも最低水準なのは有名な話で、「たくさん休めている」という実感にはとぼしい。こんな日本の状況を、ニッセイ基礎研究所主任研究員の土堤内(どてうち)昭雄さんは「祝日過多社会」と名付ける。

「山の日」(2016年から実施)が制定されることが決まった2014年、土堤内さんはふと考えた。祝日法によれば「国民こぞって祝い、感謝し、または記念する日」というのが祝日の定義だ。だが、山の日は「こぞって祝う日」という定義に、どの程度当てはまるだろうか。どこかで祝日は「国民を一斉に休ませる日」にすり替わってしまっているのではないか。

休み_ドラえもん_8
「祝日過多社会」について話すニッセイ基礎研究所主任研究員の土堤内昭雄さん=2018年10月、市川美亜子撮影

仕事を時間で管理しやすい製造業中心の社会だったころと違って、サービス業中心の現代社会では、たとえ祝日であっても24時間365日、誰かが働いている。お上がいっせいに働かせ、休ませる制度は時代にあわなくなってきている。さらに言えば、国民が一斉に休むことで交通渋滞やホテル費用の高騰などの社会的ロスも生じている――。土堤内さんはそう考える。

オンライン旅行会社エクスペディアの2017年の調査によると、日本の有給休暇の消化率は50%と30カ国中最下位。米国(80%)やフランス(100%)の足元にも及ばない現状の中で、祝日を増やすことが、かえって有休の取りにくさや長時間労働につながっているのではないか。土堤内さんは、こう警鐘を鳴らす。「休暇は本来、働く側がそれぞれ自分の都合にあわせて取るものなのに、自分でマネジメントできなくなってしまう」

AI時代の到来を前に

米国に住んでいたころ、土堤内さんは平日の博物館や動物園で、学齢期の子ども連れを見かけることがあった。「学校がある日ではないか」と聞くと、「家庭教育の大切な機会なら学校を休ませる」という答えが返ってきた。「家族と話し合って休みを決め、職場と調整するのは面倒。自動的に与えてくれた方が楽です。だからこそ、休み方を変えていくには、働く側が成熟することも大切な要素と感じました」

土堤内さんは、芸人で絵本作家の西野亮廣さんが著書『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』(主婦と生活社)の中で書いていた次のメッセージに、はっとさせられた。「『好きなことで食っていけるほど人生は甘くない!』という時代から(中略)、これからは『好きなことでしか生きていけない』という時代が間違いなくやってくる」――

人工知能(AI)が普及すれば、よほど生産性・創造性の高い仕事しか生き残れなくなる。そんな時代に、AIに置き換えられない仕事をするためには、休みを使って好きなことを極めたり、生きがいをつくったりすることこそ大切になる。そんな時に、国から与えられた休暇に一斉に休む社会でいいのか。「長い目で見れば、AIに取って代わられない社会のかぎは休み方にあるともいえるのではないでしょうか」

■「ぐうたらの天才」のび太君

インターネット、スマートフォン、AI……。ここ30年ほどで、ドラえもんのひみつ道具に匹敵するようなテクノロジーが続々と生み出され、日々アップデートされている。私たちの生活はますます便利になったけれど、そのために仕事とプライベートの境界線は溶け合い、人間らしく「休む」ことは難しい世界になったのかもしれない。40年余前に「ぐうたら感謝の日」を制定したのび太君も、こんな未来が来るとは夢にも思わなかったのではないだろうか。

のび太君は、ドラえもん作品の中で、マイペースで宿題も気にせず、093秒で昼寝に入れる「ぐうたらの天才」のように描かれている。だが、「ドラえもん学」提唱者の横山さんは、のび太君はジャイアンやスネ夫と比べて活動的な場面が少なく、ぐうたらで絶えず昼寝を欲するような体質に見えるが、面白いひみつ道具に出会うと驚くほど熱中することがあると指摘する。

「のび太君は自分のぐうたらをしっかりと認識しており、絶えず何とかしなければならないと考えている。夢や希望の実現が普通の子供たちより遅いけれど、彼なりに着実に自分のものにしているのです」

どんなに忙しくても燃え尽きず、他人を気にせずマイペースで休息をとりながら、ときには自分に「ぐうたら」になることを許す。現代人には今こそ、そんな「ぐうたら感謝の日」が必要なのかもしれない。