――ロシアがウクライナに対し、核による脅迫を続けています。
今、ロシアが軍備管理パートナーになることに興味がない現実を受け入れなければなりません。
プーチン大統領は、「軍備管理がロシアの弱体化に利用されてきた」「国際システムの不安定化は、米国を緊張させ、抑止につながる」と信じています。北朝鮮と同じように、プーチン大統領が現場から「退場」したとき、この状況を逆転させる外交戦略が必要です。同時に、戦略的な展望の安定を確実にするために、こちらだけでできる措置を講じる必要もあります。
――中国は2035年までに1500発の核弾頭を保有すると言われています。「最小限の核抑止力」しか持たないというこれまでの戦略を転換したのでしょうか。
中国は「政策を変えていない」「効果的な核抑止力を維持するために必要なことをしているだけだ」と主張しています。中国の主張は信頼できる説明とは言えません。
習近平国家主席がどのような核戦力が必要なのかを決めているようです。彼は「核兵器が中国の大国としての地位の源だ」「中国が世界の中心に支配的な地位で存在する構想と一致する、核を大量に備えた軍隊を望んでいる」とも語っています。
米国の戦略軍の能力を高め、核の傘もより強固にする必要があります。
――かつて米国とロシアが進めた戦略兵器削減条約(START)に中国も加えた、新しい多国間軍備管理システムは可能ですか。
非常に難しいでしょう。中国の抵抗、ロシアのごまかしがあります。米国も妥協したくありません。
1920年代と30年代の軍備管理協定の教訓があります。ワシントン条約で、大型海軍艦艇の総トン数の割り当てが決まりました。最初の10年はうまくいきました。アジアの安全保障秩序を巡る政治の合意があったからです。
次の10年は合意に至らず、日本やドイツが条約を欺き始めました。今日のロシアと中国は、30年代の日本とドイツに似ています。彼らは世界秩序を否定しています。
――日本が保有を決めた通常兵器による反撃能力は核抑止に役立ちますか。
役立ちます。韓国も北朝鮮政権が核兵器を使用した場合、報復するための非常に強力な通常戦力を持っています。これは米国の核抑止力を強化します。
日本の反撃能力は、金正恩総書記が(東京とソウルという)二つの首都の抑止を考えなければならないことを意味します。日本にとって有用です。
――日韓には、北大西洋条約機構(NATO)の核企画部会のような組織を求める声があります。
企画という言葉には非常に広い意味があります。どの航空機で(共有するB61核爆弾を)運び、どの標的を攻撃するといった軍事作戦計画の作成を意味しません。(米欧州軍司令官が司令官を兼任する)欧州連合軍最高司令部が行っています。
核武装した敵との危機や戦争の可能性に備えて、私たちができることはもっとあります。核攻撃の作戦計画を作ることではなく、通常兵器の部分です。
日米韓3カ国が時々会って相互理解してほしいと思います。私たちが北朝鮮との戦争に入れば、北朝鮮は私たち全員に一つの戦争を遂行するでしょう。3カ国で議論することがたくさんあるのです。
――あなたは「核保有国の指導者には道義的な責任がある」と主張していますね。
私たちの政治指導者には二つの道徳的義務があります。一つは、軍縮に向けた措置、もう一つは国民の保護です。両方必要ですが、どちらか一方しかできない時もあります。今は、保護する責任が高まっています。日本は、(ロシア、中国、北朝鮮という)三つの核武装した「敵」と対峙する唯一の米国の同盟国です。
私たちは、軍縮の方向で安全に次のステップを踏める条件を作り出すために取り組んでいます。しかし、安全を低下させる措置を講じることは望みません。民主主義による一方的な軍縮は、私たちをより安全にすることはありません。
私たちは十分にやったと思います。ロシアと中国と北朝鮮が行動する時が来ています。各国が国際的な緊張を緩和し、核兵器を削減する準備ができることを願っていますが、この3カ国は明らかに異なる考え方を持っています。
――人工知能(AI)にどこまで核を任せられますか。
私たちは2018年から20年まで文献調査をしました。新興の破壊的なテクノロジーは、すべて否定するわけではありませんが、非常に悪く、非常に危険で、非常に不安定でした。
核戦争戦略をAIに引き渡すのは非常に悪い考え方です。他の国はそうするかもしれません。(他の国の指導者が)私たちが先制攻撃で彼らの指揮統制システムを破壊すると信じるかもしれないからです。
デッド・ハンド・スイッチ(核自動報復システム)と呼ばれるものです。(攻撃されて敵の指導者を含む指揮系統が破壊されても、AIが自動的に報復するという意味で)死んだ手がミサイルをオンにするのです。それがAIについての否定的な評価です。
一方、本当の核危機の際、大統領が(混乱のなかでも、様々な情報から本当に必要な)最高の情報を(効率よく)選択するための最大限の時間を確保するため、AIは役立ちます。大統領の決定をスピードアップさせることもできます。
インタビューを終えて
私は広島G7サミットが開かれる前、ロバーツ氏に展望を聞いた。ロバーツ氏は当時、「G7サミットは、問題の本質と一致する声明を生み出すと思います。長期的な軍縮目標に向けて具体的な一歩を踏み出すでしょう。2009年にオバマ大統領が行ったプラハ演説の基本的なビジョンを踏襲すると思います」と語っていた。
同時に「でも、世界が2009年から政治的に変化したという現実を語ることも求められています。軍縮に関する将来の進展について、国民に正しい期待を持ってもらう必要があります。私はG7声明に、理想主義的な先見の明だけでなく、多くのリアリズムも期待しています」とも指摘した。
果たして、「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」は、「全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現」をうたった。わずか1カ国だけでも、核廃棄を偽ったり、廃棄後に再開発を試みたりすれば、核廃絶の夢は断たれる。ロバーツ氏が語った通り、「理想主義とリアリズムの同居した文書」になった広島ビジョンについて、私たちは一方的に評価したり、批判したりするだけでなく、一緒に悩み、議論することが求められている。