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北朝鮮労働者の海外就労は特権 でも実態は「奴隷労働」 脱北者ら500人が証言

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
バンの後部扉が開いていて、荷物を持った男性ら田が5人ほど集まっている。
平壌からロシア・ウラジオストク空港に着いた北朝鮮の労働者とみられる男性たち=2019年、鈴木拓也撮影

北朝鮮は、30年以上にわたり、政権のための資金調達に労働者を海外へ就労に送り出してきた。

こうした労働者は、ロシアの木材伐採場、中国の工場やレストラン、東ヨーロッパの農場や造船所で苦労を重ねてきた。中東の建設現場で汗を流し、アフリカの病院では医師として働いた。

子どもや親たちを人質として母国に残し、韓国に逃亡するかもしれないからとパスポートを取り上げられた。

韓国の推計によると、北朝鮮の指導者・金正恩(キムジョンウン)政権下で海外へ就労に派遣された労働者の数は数万人に増加し、年間数十億ドルを稼ぎだしてきた。国連安全保障理事会の決議で、各国は2019年末までに労働者を追放することが求められた。

ところが、元労働者や韓国の統一省が4月初めに発表した北朝鮮の人権に関する最新の報告書によると、中国とロシアにはまだ数千人の労働者が残っている。新型コロナウイルス大流行の間に国境が閉ざされたことで、多くが足止めされてしまい、北朝鮮政府のために働き続けるしか選択肢がなかったのだ。

米国との対抗上、北朝鮮を有益な仲間にしようとしてきた中国とロシアは、国連決議を実施するうえでの抜け穴になっており、北朝鮮が国際制裁やパンデミックに対処するためにどうしても必要な現金を稼ぐのを助けている。

米ホワイトハウスはまた、食料その他の商品と引き換えに北朝鮮がロシアにウクライナでの戦争で使う武器を輸出する取引について協議したとして、2023年3月下旬、モスクワを非難した。

「北朝鮮は制裁を回避するためにさまざまな手段を見つけ出し、ロシアと中国に、学生ビザや観光ビザなどで労働者を送り出し続けている」と報告書は指摘する。

北朝鮮のウェブサイト「Uriminzokkiri(ウリミンジョッキリ=わが民族同士)」は、この新しい報告書を「誹謗(ひぼう)中傷であり捏造(ねつぞう)だ」と呼んでいる。

この報告書は2017年から2022年の間に韓国に亡命した北朝鮮市民500人以上への調査に基づくもので、海外就労者を含む北朝鮮人の人権状況に関する最新評価の一つを提供している。

報告書は、調査に参加した人の身元を明らかにしていない。しかし、昨年韓国に亡命する前にロシアで働いていた2人の北朝鮮人が、ニューヨーク・タイムズのインタビューで核心部分について証言した。

脱北者たちは、北朝鮮当局が彼らの郷里の親戚を見つけ出して報復することを恐れ、匿名を条件に語った。

色丹島の建設現場で働く北朝鮮の労働者=2016年、ウラジーミル・ラブリネンコ撮影

その脱北者の一人は50歳で、2017年から2022年までモスクワで建設作業員として働いていた。彼と同僚たちは建設現場の輸出用コンテナの中や建設中のアパートの1階で暮らしていた。

彼らが言うには、地元の警察が検査に来る前に警告を受けていたので、隠れることができた。

海外就労者たちは、北朝鮮政府のためにそれぞれ年7千ドルから1万ドルを稼ぐことが求められていた。また、さまざまな「忠誠」を示すための寄付をする必要もあった。金正恩の父や祖父の遺体が安置されている平壌の霊廟「錦繍山(クムスサン)太陽宮殿」の改修費用などもこれに該当する。

ロシアの極東沖の島サハリンで建設作業に従事していた41歳の脱北者の話では、帰国する時まで監督者が労働者の稼ぎを保管していて、たばこを買うための月300ルーブル(約38ドル)しかもらえなかった。

何年も汗水流しても、こうした労働者の多くはカネをためられなかった。なかには、2万ドルから3万ドルを持ち帰る労働者もいた。飢餓に苦しむ北朝鮮にあっては、想像を絶するほどの大金だ。

北朝鮮の市民は、外国を自由に旅行できない。平均的な労働者の月収はわずか25セント相当で、かろうじて1キロのコメを買える程度である。韓国の統一省の報告書は、コロナ大流行中に国境を越えて中国に渡ろうとして告発された人びとが銃撃されるなど、北朝鮮国内での広範囲におよぶ人権侵害にも言及している。

海外就労は誰もがうらやむ特権であり、その選考過程で、しばしば役人に賄賂が支払われる。労働者は、帰国させられるより、国外滞在を延長するために監督者に賄賂を渡すのだ。

核兵器の増強にあらゆる資源をつぎ込むために、ますます外貨を必要としている金正恩政権にとって、こうした労働者たちは重要な資金源だ。

海外に送り出す前に、政府は各労働者の政治的な忠誠心を慎重に審査する。韓国に亡命した親戚がいる人物は不適格だ。機密情報に接することができる潜水艦やミサイル部隊に所属していた者も同様に適性を欠くとされる。

政治の番人たちが海外就労者を監視し、背信行為の兆候がないか彼らの手紙を調べている。労働者が買い物をするために宿舎から外に出るような場合、お互いに監視できるように3人ないし4人のグループで移動しなければならない。

韓国大統領の尹錫悦(ユンソンニョル)は3月下旬、北朝鮮の人権侵害について「すべての詳細」を明らかにすると言明した。尹錫悦政権は、北朝鮮に核兵器を放棄させるための外交力の発揮に苦労しているのだ。

黙々と貝の殻をむく北朝鮮からの女性労働者たち=2012年、中国・遼寧省の水産加工工場、石田耕一郎撮影

人権擁護団体は、北朝鮮の海外就労者が直面している状況を「国家が後ろ盾になった奴隷制」になぞらえた。それでも、2人の脱北者によると、北朝鮮にはパンデミックによる制約が完全に解除されたあかつきに海外に送り出されるのを待つ膨大な数の「予備軍」が残っている。

労働者たちが、飢えに苦しむ同胞を尻目に(海外就労を)望む大きな理由の一つは、胃袋を十分に満たせる食料にある。インターネットに接続できる環境もあり、監督者の目を盗んで韓国ドラマを見ている。

50歳の脱北者によると、彼は全体主義政権下の北朝鮮で人生を送った後で、海外で働いていたときに内緒で買ったスマートフォンのおかげで、北朝鮮の人びとが「深い井戸に閉じ込められたカエル」のような生活をしていることに気づいたという。

現在ソウルに暮らしている彼は、最近がんの手術を受けて回復しつつある。韓国で建設労働の仕事を見つけ、家族をひそかに連れてくるためのカネを稼ぎたいと言っている。

彼のスマホのスクリーンセーバーには、まだ北朝鮮に住んでいる10代の娘の笑顔の写真が表示されていた。(抄訳)

(Choe Sang-Hun)©2023 The New York Times

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