1. HOME
  2. World Now
  3. 北朝鮮で障害者はどう処遇されているのか、プロパガンダ利用の疑いも 国連が質問送付

北朝鮮で障害者はどう処遇されているのか、プロパガンダ利用の疑いも 国連が質問送付

北朝鮮インテリジェンス 更新日: 公開日:
北朝鮮の平壌で7月27日夕に行われた朝鮮戦争の「勝利(停戦)」69周年行事で、金正恩氏らと共に出席した車いすに乗ったお年寄り
北朝鮮の平壌で7月27日夕に行われた朝鮮戦争の「勝利(停戦)」69周年行事で、金正恩氏らと共に出席した車いすに乗ったお年寄り(手前)。朝鮮中央通信が伝えた=朝鮮通信

障害者は人目につかないように?

朝鮮中央通信によれば、平壌で12月2日、国際障害者デー(12月3日)に合わせた記念集会が行われた。北朝鮮の障害者保護活動の成果を紹介するビデオなどが上映されたという。

だが、国際社会は北朝鮮の障害者問題への取り組みを疑いの目で見ている。国連の障害者権利委員会は9月、障害者権利条約の履行を巡り、北朝鮮に30項目の質問書を送った。北朝鮮の障害者保護関連法のなかに差別的な用語が含まれているのかどうか、障害者のための施設整備がどうなっているのか、などを尋ねた。

北朝鮮も同条約加盟国だが、研究者や脱北者たちは「国際的な非難を避けるための方便に過ぎない」と批判する。

北朝鮮の人権問題に取り組むNGO「北韓人権情報センター(NKDB)」が行っている脱北者の聞き取り調査では、「障害者を見たことがある」と答えた人は1割にも満たない。成旼柱(ソン・ミンジュ)調査分析員は「北朝鮮が、障害者を人目につかないように扱っている可能性が高い」と語る。

それを裏付ける脱北者の証言もある。「平壌で国際行事があるときに、障害者が市内から追放されたという話を聞いた」「父親が政府高官なのに、国際行事の期間中、障害を持った子どもを自宅から出さいよう指示されたという話を聞いた」「地方に出張中、平均身長に満たない人ばかり集まった集落を目撃した」

北朝鮮の公職者で障害者はほとんどいない。在日朝鮮人の障害者団体が十数年前、北朝鮮を訪れて障害者と交流したいと申し入れた。北朝鮮側は「バリアフリーも十分ではないし、受け入れる体制が整っていない」という理由で、交流は実現しなかったという。

傷痍軍人は優遇、宣伝目的か

北朝鮮にも「障害者保護法」がある。2003年に制定され、2013年に改定された。55条から成る同法を読み進めると、いくつかの違和感が残る。第9条から14条までを「第2章:障害者の回復治療」とするなど、障害者を健常者に戻すことに力が入り、障害者をそのまま受け入れる姿勢があまり感じられない。

第7条は「祖国と人民に献身した名誉(傷痍)軍人と社会主義建設に功労を立てた障害者を社会的に優待する」と規定。障害者を平等に扱っていない。

今年7月27日夕、朝鮮戦争の「勝利(停戦)」69周年行事が行われた。朝鮮戦争を経験した大勢の高齢者が参加したが、そのなかに金正恩夫妻と同じテーブルに招かれた「老兵」は、車いすを使っていた。北朝鮮を逃れた脱北者の一人は「障害者のなかで、ほぼ唯一の例外が傷痍軍人だ。体を壊すほど、国のために尽くしたと宣伝できるからだ」と語る。

かつて朝鮮戦争に従軍記者として参加して、1952年に韓国で捕らえられ、30年以上も獄中生活を送った李仁模(リ・インモ)氏は1993年3月、車いす姿で板門店から北朝鮮に戻った。李氏は2007年に89歳で亡くなるまで、車いすに乗って北朝鮮の公開の場に現れ、「獄中で体を壊しながら、共産主義を最後まで捨てなかった非転向長期囚の英雄」として歓迎された。

脱北者によれば、北朝鮮では労働新聞や宣伝映画でしばしば、「若い女性が率先して、傷痍軍人と結婚した」「傷痍軍人の身の回りの世話をする隣人たち」といった話が美談として紹介される。脱北者は「国威発揚と愛国精神を育てるためだ」と話す。

成旼柱調査分析員によれば、NKDBには「国が、傷痍軍人と若い障害者の結婚を強要した」という脱北者の証言がファイルとして保管されている。成氏は「障害者の人格を認めず、宣伝に使っている」と語る。

また、金正恩体制になった後の2012年、ロンドンで開かれたパラリンピックに初めて参加した。成氏によれば、朝鮮障害者保護連盟の資料をみると、北朝鮮では障害者が体育や芸術分野で働くケースが多い。成氏は「障害者に職業選択の自由を与えず、宣伝手段として使わっているようだ」と話し、こう指摘した。

「北朝鮮にとっての障害者対策は、宣伝工作の一環か、国際社会の非難を避けるための方便。障害者関連の行事を開いても、その結果を詳しく説明しない」

日本医師会の関係者や元国会議員らは2019年10月、北朝鮮・平壌の障害者治療施設などを視察した。成旼柱調査分析員によれば、北朝鮮の障害者教育・医療施設は平壌とその近郊に集中している。全国にいるはずの障害者への対応がどうなっているのか、はっきりしないという。

北朝鮮は今年、巡航ミサイルも含めた場合、12月12日までに少なくとも67発ものミサイルを発射した。韓国国防研究院の試算などによれば、単純計算で8億~13億ドル(約1300億~1835億円)を消費したことになる。食糧を100万トンから180万トン程度購入できる金額に相当する。北朝鮮が一体、障害者対策にどれだけの金額を使っているのかも定かではない。

脱北者の一人はこう語った。「地上の楽園でわかるとおり、社会主義は完全無比だという発想が北朝鮮にはある。北朝鮮に住む人間も完全無比でなければならないのだ」