脱北女性、中国公安から厳しく「監視」
連合会は、脱北して韓国に住む女性ら約2千人が参加して2015年に発足した。中国で暮らす脱北女性の人権問題を重視した活動を続けている。2020年5月から6月にかけ、中国で暮らす脱北女性221人を調査した。
金代表によれば、この調査に応じた女性の約9割が「中国の公安当局から、中国で安心して暮らすために、当局に個人情報を登録するよう指示された」と証言した。
2022年、中国内の各地域に住む7人の女性にオンラインを含む面接調査を行ったところ、「一時在留カード」の存在が明らかになった。
カードには脱北女性の住所と連絡先、家族構成などが記載されている。連合会が確認した限り、女性たちは登録された場合、1カ月に2、3度、公安当局に出頭し、携帯を調べられるという。公安当局は、彼女たちの通話記録をチェックし、「この通話相手は誰か」「どんな会話をしたのか」と確認する。
特に、韓国との通話記録があると追及が厳しくなるという。女性たちは追及を避けるため、通話記録やショートメッセージをすべて消去してから公安当局に出頭する。
中国の公安当局が脱北女性と韓国との通話を警戒している理由について、金代表は「韓国に逃れた脱北者が、北朝鮮で起きている人権問題のほぼ唯一の証言者だからでしょう。中国は国際問題になり、北朝鮮の人権問題が中国の人権問題になることを恐れているのです」と語る。
在留カードを持っていれば、地域のバスやタクシーは利用できるが、列車や航空機は利用できず、病院も利用できない。逆に、当局が携帯電話の位置情報を把握している可能性があるという。
金代表らが中国公安当局者から聞いた話では、在留カードの発行は、中国の中央政府が指示した政策ではなく、脱北女性を多く抱えた地域が主体になっているという。
金代表は「中国の農村地域のなかには、5世帯に1世帯、脱北女性がいるそうです。人身売買のブローカーは、中国全土に脱北女性が約20万人いると説明しています」と語る。
そして、カードの発給は、脱北女性が北朝鮮に強制送還されることで、多くの家庭が破壊されることを恐れた地区からの陳情を受けて決まったという。
このため、脱北女性の登録とカードの発給料も、地区によって1件あたり5千元(約9万6千円)から8千元(約15万4千円)までばらつきがある。地域を超えた移動や、健康保険など国が主体の制度が関係する病院利用ができないのも、中央政府が関与していないからだという。
中国公安当局は脱北女性に対して「登録しないと、夫が監獄に行くことになる」と脅したが、登録しても強制送還の危険はつきまとう。金代表はこう指摘する。
「(北朝鮮の国境に近い中国都市の)図們(トムン)市に100人くらいの脱北者が収容され、強制送還を待っているそうです。北朝鮮が新型コロナウイルスによって国境を封鎖し、中国からの強制送還者の受け入れを拒否しています。図們市の収容施設は飽和状態で、図們市公安当局が各地域に、逮捕した脱北者を送ってこないよう指示しているそうです」
新型コロナの感染拡大で、北朝鮮に強制送還される可能性が下がったように見えるが、実態は逆だという。「コロナで移動の自由がなくなり、大勢の脱北者が韓国行きに失敗しています。脱北女性が中国公安当局に登録しても、ワクチンを接種できるとは限りません」(金代表)
調査した脱北女性らも、ワクチン接種を3回受けた人から、まったく受けていない人まで様々だという。農村部は閉鎖空間なので、農村内ではマスクをしない人が大勢いる一方、出稼ぎによる重要な現金収入の場になっている都市部に行けないため、生活は困窮しているという。
まるで犯罪者扱い
中国公安当局への登録を拒み、隠れて生きている脱北女性も少なくない。金代表が2022年5月に中国の都市部に住む脱北女性と電話で会話した。女性は「韓国に行きたいが、今は誰にも会いたくないと」言って泣いていた。背後で、赤ん坊の泣き声が聞こえた。中国人の夫は日中、仕事に出かけていたという。
金代表は2020年の調査当時、中国当局が脱北女性を戸籍登録するのかもしれないという淡い期待を持ったが、事実は異なっていたという。金代表によれば、中国公安は脱北女性らに「戸籍登録は夢にも思うな」「死ぬまで戸籍登録できない」と言っているという。
また、一時在留カードは、脱北女性が多く住む地域が独自に実施している行政措置のため、中国の中央政府の判断次第で、いつでも北朝鮮に引き渡される危険性がつきまとう。
金代表は「中国にいる脱北女性は犯罪者として扱われています。人権保護の対象ではありません。中国は脱北女性の引き渡しは、犯罪人引き渡し条約に基づく外交的措置だと説明しますが、ウソです。国際社会は北朝鮮だけでなく、中国に対しても脱北女性に対する人権侵害の事実を追及するべきです」と述べた。