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日本の自販機に詰まった「やさしさ」 自称マニア・石田健三郎さんが注目する付加価値

World Now 更新日: 公開日:
「自販機マニア」を自称する会社員の石田健三郎さん=2023年1月27日、東京都武蔵野市、山下裕志撮影

昼間は会社員でありながら、めずらしい自動販売機を見つけては足を運び、写真をSNSに投稿する。

撮りためた写真は1万枚超の自称、自販機マニア・石田健三郎さん(35)。

自販機にそこまで魅せられるのはなぜなのでしょうか。

「自販機」にハマったきっかけは大学時代、ポーランドから来日中だった友人に居酒屋で投げかけられた疑問でした。

「なぜ日本はこんなに自販機が多いのか」と。

その疑問から始まり、自販機の歴史をさかのぼり、海外とも比較した考察を日本文化史のゼミの卒業論文にまとめました。

自動化へのあこがれ

日本は治安が良くて盗難リスクが低く、人口も密集しているので、自販機でものを売りやすいというのがまず一つの要因としてあります。でも、それだけではないのではないか。

日本人は昔からロボットや自動化が大好きです。

明治時代に文明開化が起き、英米に追いつけ追い越せと進む中で、自動化へのあこがれが生まれたことも背景にあるようです。

それは、たとえばロボットを主役にした漫画の『鉄腕アトム』や『ドラえもん』にも表れているようにも見えます。

会社やコンビニにある自動ドアの普及率は世界トップクラスと言われています。あらゆるものの自動化を希求する気持ちが根底にあるのではないでしょうか。

サラダなどを販売するパネル付きの自販機=東京・渋谷駅、宮地ゆう撮影

日本では、飲料メーカーが無償で自販機を貸し出したことで、空いている土地の有効活用策として自販機ビジネスが始めやすかったことも、普及を後押ししました。

地権者は土地を貸し、電気代さえ払えばいい。商品は業者が入れ替え、売り上げ分から一定の手数料を受け取れるという仕組みです。

日本の自販機には枚挙にいとまがないくらい、「やさしさ」が詰まっています。

ペットボトルの飲み物を買えば、右利きの人が手にとってそのまま飲みやすいように、キャップ側が左を向いて出てくる。買うと「お疲れさま」といった音声を流し、体を冷やさないようにと、常温での販売にも対応しています。

ネット時代にも大きい利点

商品も多彩に広がってきました。結婚指輪にトリュフ、温泉のお湯にフレンチのコース料理……と、コンビニには置いていないものも多様に売られています。

店員の接客を受けたくない人がゆっくり選べるのも利点です。

インターネット通販は届くまでに時間がかかりますが、24時間、商品を選んですぐに受け取れる利点は大きいのです。

最近注目しているのは、ふるさと納税の自販機です。

寄付先の自治体に置かれていて、その土地が気に入れば手軽に寄付して返礼品を受け取れます。

インターネットで返礼品目当てに寄付先を選びがちだったこれまでとは違い、自治体を応援したいという気持ちで寄付できるので、ふるさと納税への向き合い方を変えようとしているのではないでしょうか。

日本は自販機先進国として知られてきましたが、最近、IT化が進む米国などの自販機の進化は、めざましいものがあります。

シリコンバレー発のベンチャー企業、ヨーカイエクスプレスは、ラーメンを調理する自販機を自動運転の車に載せ、スマホのアプリで注文すると好きな場所でできたてを受け取れる技術を開発しています。

「ヨーカイエクスプレス」が開発しているラーメンを調理して運ぶ自動運転の車=Yo-Kai Express提供

ヨーカイエクスプレスはもともと、日本の昭和レトロなうどんの自動販売機をきっかけにラーメンを自動でつくる自販機を始めました。

ベースは日本のアイデアですが、そこに最新の技術が加わっています。今までは日本の自販機が圧倒的に先をいっていましたが、ITに強い海外勢が台頭してきています。

生まれた頃から飲料の自販機が当たり前だった世代にとって、もはや自動化へのあこがれは薄い。ともすれば、ただ高い値段の飲み物を売る機械にすぎなくなっています。

自販機にエンターテインメント性や商品のめずらしさなどの付加価値がないと生き残っていけない時代に入っていると思います。

さまざまな意見を自販機業界が吸収すれば、まったく新しい自販機が生まれるでしょう。私もそんな自販機を見ることができたらうれしいです。(聞き手・山下裕志)

*石田さんのツイッターアカウントは、「@jido__hanbaiki