――日本が世界有数の自販機大国になったのはなぜでしょうか。
治安が良く、街角に置いても壊されたり盗まれたりすることがありません。それに加えて、飲料メーカーなどの積極的な普及拡大戦略があったからだと思います。
――しかし、日本での飲料自販機の台数は頭打ちのようです。
近年、屋外でコンビニエンスストアとの競争が厳しくなるなか、米国で主流になっている公共施設や会社など屋内への設置が増えています。それによって、社員2人が社員証でタッチすると無料で飲み物が出てくる「社長のおごり自販機」(サントリー食品インターナショナル)といったアイデアも出てきました。自販機前で、飲み物を片手に社員同士のコミュニケーションを促そうというものです。
これもそうですが、単に商品を売るだけではない社会課題解決型の自販機が増えていると見ています。
ーーほかにはどんなものがありますか?
社会貢献としては「1本につき10円」などといった寄付付き自販機があります。大阪府枚方市はコロナ基金寄付付き自販機を設置していますし、観光地などではふるさと納税で返礼品のクーポンをその場で受け取れる自販機が広がっています。食品ロス対策で賞味期限が近づいた商品を通常より安く提供する自販機や、災害時に中身の飲料やスマホの電源を無償で提供する自販機もあります。
地元の農産物を福祉作業所の障害者が加工して販売する農福連携自販機も登場しています。東日本大震災の被災地をはじめ、地方では都会への販路拡大が課題になっていますが、アンテナショップのように自販機を使っても面白いでしょう。
販売ではありませんが、コロナ禍で図書館が閉館した韓国では、非対面・非接触で本が借りられる「スマート図書館」が人気を博しました。これなどはアドバイス機能、文化的役割も果たしているといえます。
――海外には自動車の自販機などもあるようですが、キャッシュレス決済の拡大で高額なものが扱えるようになったこともあって販売商品は多様化してきていますね。
商品の拡充という点で最も注目されているのは、コロナ禍のなかで開発された冷凍自販機「ど冷えもん」(サンデン・リテールシステム)です。2年で6000台売れたとのことです。
コンビニの電子レンジで、買ったばかりの冷凍食品を温める客を見た技術者が思いついたそうです。客の激減や人手不足で経営が厳しくなっていた飲食業者がすぐに導入し、ラーメンやギョーザ、牛丼など多彩な冷凍食品が供給されるようになりました。
非対面・非接触という自販機の特性が再発見され、新型コロナ感染という生活上のリスクを回避したい消費者のニーズと合致した結果といえます。一方で導入業者も収益回復によって経営上のリスク回避を図っています。まさにリスクマネジメントの役割も果たしているのです。
――自販機はこの先、どうなっていくとお考えですか。
今後も人手不足が続く限り、無人化・省人化は大きなテーマであり続けるでしょう。自販機はその優等生でした。
しかし、実は自販機も商品補充や管理を担う人たちの苦労に支えられています。大きな駅では毎日夕方に芸術と思われるほどのスピードで飲料を補充していく人たちの姿が見られます。働き方改革が大きな流れになるなかで、こうした人材がこの先も確保できるのでしょうか。
自販機の世界も、労働力集約型の介護現場などと同じ問題を抱えているわけです。とはいえ、人相手の介護現場に比べれば、自販機管理は機械相手。まだまだ機械化により効率化できる余地があるとみています。例えば、商品補充ロボットの開発・導入などが考えられます。
複数の自販機を備えた無人レストランの試み、そして社会課題解決機能の拡充などを考えると、自販機はもはや単なる販売ロボットではなくレストランロボットや社会貢献ロボットとして検討されるべきかもしれません。自販機概念の拡張ないし再定義が必要になっているように思います。
いずれにしても自販機の汎用性、活用の幅の広さなど、今後も目が離せません。自販機が人と共生し、活躍する場面は、今後も拡大の一途をたどると見ています。