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環境意識やコロナ禍…時代を映し変化を遂げた自販機 自動化の夢はいまも続く 

World Now 更新日: 公開日:
飲料の自販機が並ぶ=1974年5月、東京都内、朝日新聞社
飲料の自販機が並ぶ=1974年5月、東京都内、朝日新聞社

世界的な自販機大国は、何と言っても日本だ。街を歩けばそこら中に自販機がある。

人気の無い田んぼの中や山のてっぺんでも、飲み物を冷やして待っている。

その原動力は、商売への飽くなき追求心だった。接客に人を雇わなくていい。24時間売れるし、買える。

一方で、24時間稼働していること自体が電力を使いすぎだとの批判もたびたび受けてきた。

忘れられないのが2011年、原発事故で電力不足が危ぶまれたときだ。

当時の石原慎太郎・東京都知事から「自販機なんかなくても生きていける」とやり玉にあげられた。底流にはかねての地球環境への関心の高まりもあった。昼夜を問わず動き続ける自販機に、疑問を感じていた人もいただろう。

こうした世の中の変化と歩調を合わせ、業界も自販機の省エネ化を進めてきた。

機器メーカーなどでつくる日本自動販売システム機械工業会によると、いまの自販機は庫内全てを冷却するのではなく、内蔵された小さなコンピューターが、もうすぐ売れるだろう飲み物に絞って冷やす。冷却装置から出た熱は、ホットの飲み物を温めるのに再活用する。

缶・ボトルの自販機1台あたりの電力使用量の平均は1991年度、年間3300キロワット時だったが、これを2021年度には8割近く減らし、723キロワット時にした。

家庭が使う2カ月分の電力に相当し、業界はさらなる節電を推し進めているという。

近年は、新型コロナの感染リスクを避けられるとして、新たな脚光も浴びている。

これまで圧倒的に多かった飲料だけでなく、手軽に買える商品の種類も増えてきた。

冷凍食品の自販機は開発メーカーの予想を超える大ヒットになり、美容部員のかわりにAI(人工知能)が接客する化粧品の自販機も登場した。さらに、災害時に手動で取り出せたり、非常用電源として使えたりする機能も追加されてきた。

変わり種では、サントリー食品インターナショナルが2021年秋に出した「社長のおごり自販機」がある。

社員のコミュニケーションを促す「社長のおごり自販機」=サントリー食品インターナショナル提供

社員2人が一緒に社員証をかざすことで、普段は有料の缶コーヒーやコーラを「ただ」でもらえる。社員同士が声をかけ合うことで、コロナ禍で減った交流を促す取り組みだという。

国語辞典を開くと、自販機とは「代金を投入口から入れると、自動的に物品が出てくる装置」(三省堂)とある。

だが、日本の外を見渡せば、そんな定義には収まりきれない新たな自販機も広がっている。

そこに人はいない。それでも自販機を介してメッセージが広がり、見えない人とのつながりが生まれていく。

ネット通販の時代になっても人気が衰えないガチャガチャ=東京・渋谷駅

ネット通販が広まってもガチャガチャがなくならないように、機械と人とのやりとりが遊びを生み出すおもしろさが、そこにはあるのだろう。

最後に強調したいのが、無人の自販機の裏側にも、それを支える働き手たちがいることだ。暑くても寒くても、晴れても雨が降っても、きょうもどこかで誰かが走り回っている。(山下裕志)