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生活は輸入品頼み、インフレで高まるシンガポールの投資熱 預金金利4%で銀行に行列も

World Now 更新日: 公開日:
ライトアップされるマーライオン像=2022年9月15日、シンガポール、西村宏治撮影

2022年11月初旬。シンガポール西部にある大手銀行、オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC)の支店前には、20人ほどの行列ができていた。

この2日前、OCBCは預金金利の引き上げを発表していた。

口座を給与の振り込みに使うなどの条件を満たすと、最初の10万シンガポールドル(SGD、約1000万円)までは、実質的に年利4.65%をうたった。このために口座を開いたり、資金を移したりする人が集まった。

「いまはどこの銀行にも行列ができていて、10月には別の銀行で3時間待ちました。生活費がどんどん上がっているので、少しでも稼ぎを増やさないといけないからね」。列の中にいた60代の女性が言った。

競って預金金利を引き上げる銀行

シンガポールではいま、多くの銀行が競って金利を引き上げている。この2年ほど1%以下が当たり前だった定期預金の金利も、年3%台になった。

日本銀行とは違って、中央銀行にあたるシンガポール金融管理局(MAS)は、金利の動きに直接介入しない。

MASは、海外のインフレが及んできそうな場合、為替介入で通貨高を維持してそれを防ごうとする。だから金融政策の目標も、金利ではなく為替レートだ。

このため市場金利は米国の金利に連動することが多く、いまは米国の金利高の影響を受けている。

おかげで、各地の店舗では開店前に長い行列ができている。

シンガポールの銀行支店前には行列ができていた=2022年11月2日、西村宏治撮影

「お金にもっと働いてもらおう」

「物価が上がるなかで現金を投資せずにおいておくと、その価値がどんどん下がってしまう。このためにより多くの人が投資に関心を示しています」。シンガポールの最大手銀行DBSグループのアナリスト、アンディ・シムさんはそう説明する。

生活必需品の多くを輸入に頼るシンガポールでは、海外のインフレはすぐに国内に影響してくる。MASはSGD高を維持してインフレを抑えようとしているが、防ぎ切れてはいない。

今年8、9月の消費者物価指数は、前年から7.5%のプラス。世界的な金融危機が起きた2008年以来の上昇率だ。

中でも電気代は26.5%増。食品はプラス6.9%で、食肉はプラス13.9%と値上がりしている。

そこで生活を守るために市民が取っている対応のひとつが、投資だという。

インフレの影響を減らすため、あなたの対応をひとつ選ぶなら─。

シムさんたちは今年5月、消費者のインフレへの考え方を知ろうとアンケートを実施した。選択肢は五つ。

  1.  貯蓄を増やし、支出を減らしたり必要なものに限ったりする
  2.  より安い代替品を探す
  3.  見返りを求めて投資する
  4.  より給与のいい仕事や、ほかの収入源を探す
  5.  何もしない

結果は(1)が42%、(2)が32%と生活防衛的な答えが大半を占めた。それでも(3)は15%、(4)も9%いた。

「インフレが長引けば、支出のパターンや投資についての考え方も変わってくる可能性が高い。これからは金融リテラシー(情報を理解して活用する能力)がより重要でしょう」とシムさんは言う。

インフレが進めば、ためておいたお金の価値は目減りしていく。

理屈は単純だ。生活費が月に15万円の時に150万円の貯金があれば、その貯金は10カ月分の生活費にあたる。

だが仮に生活費が10%上がって16万5000円となれば、150万円の貯金は、9カ月分余りの価値しかなくなる。

そこで金融機関はこぞって「投資で資産を守ろう」「あなたのお金に、もっと働いてもらおう」と呼びかけている。

シンガポールの金融街=2022年12月1日、西村宏治撮影

実際に、投資額も増えている。DBSが約120万人の顧客のお金の使い道を調べた5月の調査では、投資額が前年に比べて24.5%増えていた。

特に目立つのが若い世代の投資増だ。

26~41歳では、前年から52.7%増だった。同グループのシニアエコノミスト、アービン・シャーさんは「新しい技術に敏感な人が多い世代。投資アプリや、ロボットアドバイザーといった技術を使うことが投資増につながったのでは」とみる。

高齢層に向けた取り組みも広がっている。DBS銀行の金融計画リテラシー部門のトップ、ローナ・タンさんは「銀行の窓口を訪れてもらうことで、デジタルツールになじんでもらうこともできる」。窓口ではアプリの使い方などを説明するといった取り組みを強めているという。

お得な情報はSNSでシェア、投資詐欺も

シンガポールで最近、特に増えているのは元本割れの心配の少ない債券への投資だ。

「国債の利回りがいいぞ」。10月の終わり、シンガポール東部に住む会社員の男性(41)は友人からそんなSNSでそんなメッセージを受け取った。

12月のシンガポール貯蓄国債(SSB)の金利は1年目の3.26%から少しずつ上がり、10年目で3.58%だという。この男性もインターネットですぐに申し込んだ。「なにもせずにいたら損をするだけなので」。友人の間では、SNSでこうした「お得」な情報をよくシェアしているという。

一方で、そんな投資熱を狙うかのように増えているのがオンライン詐欺だ。

警察当局によると、2年1~6月に報告された詐欺事件の件数は、1万1万4349件。前年同期の7746件から2倍近くに増えた。

中でも多いのは「SNSでいいねを押して!」といった簡単な仕事を頼む詐欺だ。高い報酬を約束する代わりに、保証金を要求してだましとるという。

にせの投資を勧誘して資金をだましとる詐欺も、1683件で前年同期から7割近く増えている。被害金額は1億SGD(約100億円)超。1件あたり最大で1200万SGD(約12億円)の被害が報告されたという。

まずは初期の「投資」の成果として高い見返りを払い、被害者がさらに高い額をつぎ込んだところで、連絡が取れなくなるパターンが多い。

詐欺は極端な例だが、合法な投資であってもリスクはつきものだ。

政府は、お金を支払う相手が合法な金融業者かどうかをチェックするよう求めたうえで、こう呼びかけている。

「投資する時は、何にお金をつぎ込んでいるかを常に理解しておこう。高い見返りには、高いリスクがつきものです」