ロシアのウクライナ侵攻を受け電気・ガス料金が上がり、インフレは庶民の生活を圧迫している。さらに、国民投票で決めた欧州連合(EU)離脱で東欧からの労働者が減り、人手不足がインフレを加速させた。
英国のケースは、大衆の人気を得ようとして政策を誤ると自らの首を絞めることを示している。物価=通貨の価値を意味するだけに、物価とは政策そのものなのである。
大企業向けの円安誘導政策が「安いニッポン」につながった
米国がコロナ対策として財政出動と金融緩和を進めたことが、今回のインフレの土壌となった。
インフレ抑制のため米国の中央銀行は大幅な利上げを繰り返し、金利が上昇した米国にお金が集まってドル高となる。他国では反対に通貨安となり、輸入品の物価上昇につながる。米国の政策が世界各国のインフレを引き起こす構図だ。
日本はバブル崩壊後の30年間、低成長とデフレに苦しんだ。それを克服しようと、日本がとったのが円安誘導政策だった。
輸出で稼ぐ大企業が多いことから、円安になればドルベースでの売上高が増えなくても円ベースの売上高がふくらむからだ。
たとえば、1ドル=100円から150円へと円安が進めば、ドル建ての売り上げが同じ1万ドルでも円換算では100万円から150万円にかさ上げされる。
一橋大学の野口悠紀雄名誉教授はこう指摘する。「アベノミクスに至るまで、自民党政権は大企業向けの円安誘導政策を推し進めた。労働者の賃金は抑えられ、『安いニッポン』につながった。日本が不幸なのは、民主党政権も円安政策を進めたため、有権者の選択肢がないことだ」
1月の1ドル=115円台から、10月には151円台へと、日米の金利差を背景とした円安が進んだことから、日本銀行が続ける金融緩和に批判が集まった。日銀は12月の金融政策決定会合で大規模な金融緩和策の一部修正に追い込まれた。
物価上昇は、有権者が選んだアベノミクスの「成果」
だが、そうした物価上昇は、「異次元緩和」が追い求めていた結果にほかならない。10年前からのアベノミクスを支持したのは、私たち有権者だ。アベノミクスの「成果」がまさにいま実現しようとしているということだろう。
日本には円高阻止のための為替介入や輸出で稼いできた巨額のドル資産がある。政府が1000兆円を超える借金を抱えながらもほぼ国内でまかなえ、外国からドル建てで借金をしなくてすんでいる。
だから、アルゼンチンなどのように通貨の信用が落ちてキャピタルフライト(資本の国外流出)を引き起こし、ハイパーインフレに至る、という悲劇は起こらないかもしれない。
だが、円安と資源価格の高騰で頼みの経常収支(モノやサービス、投資など国全体のお金の出入り)は悪化し、10月は赤字に転落した。
円安を嫌って外貨預金がじわりと増えている。自ら円の価値を下げる政策を続ければ、キャピタルフライトにつながるおそれもある。日本だけが特殊な国でい続けられると、だれが確約できるだろう。
物価の安定施策が、原発政策や新型コロナ対策にも影響する
円安が進むなか、岸田政権は石油や天然ガスに頼らない原発回帰を急ピッチで進め、訪日外国人客を増やすためコロナ規制を緩和した。
一見、関係がないようで、どちらも経常収支を改善する政策という意味では共通している。つまり、通貨の価値を安定させるために、原発政策やコロナ対策といった他の政策の選択の幅を狭めることになりかねないのだ。
インフレの直撃を受ける消費者として、預金や年金を間接的に運用する市場参加者として、納税者として、そして何より有権者として、政策に目を凝らさなければならない。