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EU離脱でますます大事になるイギリス第2の都市 それはどこ?

World Now
イギリスのマンチェスターとバーミンガム
英国第2の都市はどちら? マンチェスター(左)とバーミンガム(右)=和気真也撮影

昨年12月。古巣のGLOBE編集部のデスクから、「2」を特集するので英国第2の都市を取材できないか、と相談を受けた。おもしろそうだ。反応するとデスクが言った。「じゃあマンチェスターの取材をよろしく」

え、マンチェスター? いやいや、英国第2はバーミンガムですよ。 え、バーミンガムだよね。あれ?

英バーミンガムの中心商店街

ネットを調べた。論争が起きていた。

2020年に世論調査会社「ユーガブ」が約2000人に「英国第2の都市はどこか」を尋ねたところ、マンチェスター33%、バーミンガム32%ときっこうしていた。

だが、バーミンガム派は余裕の構えだ。覆せない根拠がある。人口だ。バーミンガム市の人口は約115万人。対するマンチェスター市は約55万人だ。ただ、ここでマンチェスター派は黙らない。「グレーター・マンチェスター」という、近郊の街を含めた英国独自の広域行政区域でいうと280万人である、と主張する。

マンチェスター・ユナイテッドの本拠地オールド・トラフォード

2位争いを繰り広げるのはどんな街なのか。1月上旬。ロンドンから北西に電車で約1時間半のところにあるバーミンガムを訪ねた。

ロンドンの金融やサービス業が出先機関を構える商業の都市で、近隣に自動車産業が集積する工業都市でもある。第2次世界大戦までは鉄鋼業が盛んだった。石炭と鉄鉱石の豊富な産地に囲まれていたためだ。歩みをさかのぼれば、ジェームズ・ワットが蒸気機関づくりに成功した歴史を持ち、産業革命をリードした舞台の一つでもあった。

街の中心に大きな図書館があるというので行ってみた。観光案内もする司書のジョセフ・シュレジンジャーさん(59)は、「産業革命が始まった歴史とともに、英国第2の都市であることは、ブラミーズ(バーミンガム市民の愛称)の誇りです」と話す。「街には英国一の規模の商店街や、音響の良い音楽ホール、すばらしい運河の風景もありますからね」

図書館を出て、シュレジンジャーさんお勧めの運河沿いを歩いた。かつて物流で産業革命を支えた運河は再開発され、おしゃれな飲食店や商店が立ち並び、今は観光を支えている。赤レンガの建物とコンクリートのビルが混ざり合い、レトロと都会の雰囲気がある。

英バーミンガムの商店街。一角に教会がある

次にバーミンガムから北へ130キロ離れたマンチェスターへ向かった。炭鉱と運河と産業革命の歴史は、この街にも共通する。こちらは英国最大の港町だったリバプールが近く、米国から仕入れた綿花が運河で運ばれ、紡績業が発展した。

路面電車が行き交う街は、コンパクトに都市開発されている。買い物客でにぎわう中心商店街は路上ミュージシャンが音楽を添え、活気に満ちていた。

マンチェスター近郊には、英BBC放送の拠点スタジオもあり「メディアシティーUK」と呼ばれている

ネットでマンチェスターのニュースや情報を配信し、大手メディアに比肩するほど伸びているサイト「The Manc(マンク)」の社長、アンナ・グレッドソンさんを訪ねた。マンチェスター市民はみんな第2の都市と信じているのですか?

「英国で何番目の都市かと聞かれたら、多くのマンキュニアン(マンチェスター市民の愛称)は1番と答えるでしょうね」と話す。ビジネスでも音楽など芸術でも、「独創性を追求する気っ風がこの街にはあるから」だという。

マンチェスターが街としての自信を深める出来事の一つが、英BBC放送が2011年以降、重要な番組制作機能の一部をロンドンからマンチェスターのスタジオに移したことにある。後押ししたのは政府だ。ロンドン一極集中を緩和し、地方投資を促す象徴とされた。

「その流れは、ブレグジット(英国のEU離脱)以降、より大事になっている」と話すのは、バーミンガム大教授のデビッド・ベイリーさんだ。バーミンガムやマンチェスターなど製造業比率が高い地域の経済は、EUとの結びつきで潤っていたのだが、ブレグジットで困難が増した。一方で、ブレグジットの一因は、政治経済がロンドンに集中することへの地方の不満だとの見方もある。ベイリーさんは「規模と経済の多様性ではバーミンガムが勝るが、国際的な魅力の発信力と、中央政府に要求を突きつけるために周辺自治体と結束する力はマンチェスターの方が上。両都市は互いに見習うべき点がある、良きライバル関係にある」と分析する。

マンチェスター近郊の再開発地域

英政府はいま、地方への投資を最重要課題に挙げる。目玉の一つである超高速鉄道「HS2」計画は、ロンドンとバーミンガム、そしてマンチェスターをつなぐ構想がある。第2の都市を生かすことが、今後の英国を生かすことにつながると政権も理解しているのだ。

ところで、私はサッカースタジアムの前にいる。名前はオールド・トラフォード。マンUの本拠地だ。日本の天皇杯に似たカップ杯で、アストン・ビラを迎えた3回戦。「第2の都市チーム争い」なんて本人たちに聞こえたら失礼。両チームがファンと共に見据えるのは当然トップの座だ。開始7分。澄んだ夜空を割るような大きな歓声がわき起こった。先制点を守りきり、この日1-0で勝利したのはマンUだった。