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人は見た目じゃない。でもなぜ人は薄毛を恐れるのか?「人類解放の日」を待ちながら

LifeStyle 更新日: 公開日:
国民的人気アニメ「サザエさん」の特別企画「サザエさん展 THE REAL」に登場した波平さん(右)とマスオさんのフィギュア。一本一本の髪の毛などがリアルに表現されている
国民的人気アニメ「サザエさん」の特別企画「サザエさん展 THE REAL」に登場した波平さん(右)とマスオさんのフィギュア。一本一本の髪の毛などがリアルに表現されている=2020年12月28日、松坂屋静岡店、和田翔太撮影

「カエサル、お前もか!」ではないが、2000年以上前の人物に親近感を覚えた。

いや、正確には「あれほどの人物も悩んでいたなら、自分が悩んでいてもおかしくない」という安心感だったか。

「人は見た目ではない。中身だ」も「ショーン・コネリーは薄毛だけど格好良い」にも異論はないが、「でも、ないよりあった方が……」「でも、ショーン・コネリーは別格だし。それに、薄毛だから格好良い、とは言わないし」と、留保は残ってしまう。

古代ローマの政治家カエサルの肖像画 Rubens, Peter Paul: Cäsar, 1619, GK I 972.
古代ローマの政治家カエサルの肖像画 Rubens, Peter Paul: Cäsar, 1619, GK I 972.©Prussian Palaces and Gardens Foundation Berlin-Brandenburg / Photographer Roland Handrick

薄毛に悩むのは、一つには老化の象徴と捉えられるからだろう。

若くして薄くなれば、なおさら悩みは深い。

シワも同じだが、私たちは毛髪に、さらに特別な意味を見ている。赤ちゃんの髪で筆を作ったり、遺髪を形見として大切にしたり。だから髪を失うことに、何かしら「恐れ」のようなものも抱くのではないか。

外見重視の風潮もある。欧米で気にする人が少なく、韓国や日本で多い、と言われるのは薄毛率の高低だけでなく、「人と同じでいたい」「若さ=美」「競争社会」といった価値観や時代背景が見え隠れする。

「恐れ」に「不安」が重なり、悩みをさらに大きくしている。

ちなみに私の父方の家系の男はみんな薄毛だ。

「いずれ『仲間入り』するだろうな」という覚悟は若い頃からあったし、実際そうなった。「薄くなった?」と言われ、「そう?」ととぼけた時もあった。

30代半ば、「面倒だなあ」と思い、丸刈りにした。周囲の受け止めをあえて聞いたことはないが、おおむね好評だし、取材先には覚えてもらいやすい(と勝手に思っている)。

月桂冠や怪しげな薬しかなかったカエサルの時代と違い、私たちの前には、効果が確認された薬、かつら、植毛など様々な手段がある。

こめかみの上の辺りに植毛をした女性。仕上がりに満足していた
こめかみの上の辺りに植毛をした女性。仕上がりに満足していた=2022年10月4日、韓国、中川竜児撮影

かつらの製造過程を間近で見て、手間のかけ方と精緻さに目を見張った。

想像以上に植毛が普及する韓国で「植毛も整形も自己投資。恥ずかしいことではない」と言われたときは、「これが答えか」と思わされた。かつらや植毛で前向きになったと聞くと、「なるほど」と納得し、薄毛についてオープンに語る人々にはすがすがしさも感じた。

私が30代だったら、この特集にかつらや植毛体験を加えたかも知れない。編集部にもそんな声があった。だが本気でないなら、すべきではないと考えた。

私は今のところ、何かを変えるつもりはない。

単純に、年を重ねたという理由もある。

改めて考え、ショーン・コネリーは薄毛だったけど格好良い、でも、薄毛だから格好良いでもなく、ショーン・コネリーだから格好良かったのだろう、とも思い至った。

当面、丸刈りを続ける。薄毛の悩みから人類が解放される「その日」が来たら、また考えよう。