2022年のミス・ユニバースの日本大会が先月25日に東京で開かれ、坂本麻里ベレンさんが日本代表に選ばれました。優勝した坂本さんは今後、世界大会に出場する予定です。
女性の美貌を品評するコンテストは19世紀半ば、米国でスタートしたといわれています。当初は猫、犬、鳥、花、人間の赤ん坊の「美しさ」を競うものであったのが、「女性」を品評するものに変わっていきました。
近年、日本では「女性に対するルッキズム(外見による差別)を助長しかねない」などといった理由から上智大学や東京女子大学などが「大学のミスコン」を廃止すると発表しています。
欧米のミスコンでは近年、「見た目の美しさよりも多様性を評価する」動きが強まっており、たとえばドイツのMiss Germanyでは、2021年から候補者を容姿ではなく、「当事者がどのように社会を変えていきたいか」といった本人のストーリーテリングで判断するようになりました。
「女性のエンパワーメント」(女性の権利拡大)や「ダイバーシティー」(多様性)が叫ばれている今、これは当たり前の流れとも言えます。ただ「中身」について最終的にどのように「良しあしの判断をするのか」などの課題もあります。今回はドイツのMiss Germanyにスポットを当てながら、ミスコンというものについて考えてみたいと思います。
判断基準は「社会を変える活動をしているか」
2022年のMiss Germanyの優勝者はモデル、女優、そして福祉起業家でもあるDomitila Barrosさんでした。ブラジルのスラム街ファヴェーラで育ったBarrosさんは、両親が立ち上げたストリートチルドレンをサポートするプロジェクトCAMM-Centro de Atendimento A Meninos e Meninasで活動してきました。
ストリートチルドレンの一部は暴力などのトラウマを抱えていることもあります。そういった子供たちにとって「座って勉強に集中する」ことはなかなか難しいことから、Barrosさんは「ダンス」や「演技」も盛り込んだプログラムで子供たちに読み書きを教えてきました。
21歳でブラジルからドイツのベルリンに引っ越した後は、ベルリン自由大学の奨学金を得てドイツで政治学と社会科学を学んでいます。
Barrosさんは一貫して社会的公平性、環境保護、人権問題を訴えてきました。彼女のブランドsheisfromthejungleはサステナビリティを重視しており、アクセサリーのほかにマイクロ・プラスチックや、農園開拓が熱帯林破壊の要因になっているパーム油を含まないシャンプーなども販売しています。
Barrosさんは昨年8月から始まったコンテスト出場者募集の「新しいMiss Germanyになりませんか?今日よりも良い明日へ。どの人間も同じチャンスのある社会へ」という呼びかけにピッタリの人です。
さまざまな候補者たち
2022年のMiss Germanyについては、ドイツのタブロイド紙だけではなく、高級紙も候補者の女性たちを取り上げていました。その背景には、従来のように「容姿」ではなく「社会貢献度」がメインの判断基準だということが挙げられます。
たとえば自らをeinarmige Prinzessin(和訳「片腕のプリンセス」)と称し、同じ名前のYoutubeチャンネルを開設しているGina Rühlさん。内陸部ヴッパータール出身の彼女は、2019年にバイクの事故で片腕を失いました。Youtubeチャンネルでは「片方の腕でどのように生活しているか」を積極的に発信しています。
パンにバターを塗ったり、マニキュアのハケを口でくわえて爪にマニキュアを塗ったり、自分で腕に義手を取り付けている様子をアップしています。基本的に前向きな内容ですが、「ないはずの腕に痛みを感じる」現象についてもオープンに語っています。
メディア関係者と会うとき、Rühlさん自身がブルーのアウディを運転して迎えに行くことが多いそうです。「人生で予期せぬことが起きても、前を向ける」ということを見せてくれる彼女は多くの人を勇気づけています。
そのほかに話題になったのは中部ヴァルスローデ出身のトランスジェンダーで黒人のGadouさん。そして自らの幼少期の性被害をオープンに語ったハンブルク出身のLena Jensenさんです。
Jensenさんは、2~6歳の4年間、両親の知り合いに定期的に性的虐待を受けていた被性的虐待サバイバーです。専門家のもとで長くカウンセリングを受けてきた彼女がみんなに伝えたいメッセージは「Du kannst es trotz allem schaffen(それでも人生、うまくいくよ)」です。
精神的に辛い時期もあったものの、大学で勉学に励み、金融コンサルタントとなり、婚約もしている彼女は、シュピーゲル誌(2022年第8号)のインタビューで、「性的虐待に遭った人の誰もがオープンに語るべきだとは思いませんが、私自身は公の場で自分の性的虐待の経験について話すことに負担は感じていません。被害に遭ってから、誰かに『あなたを信じている。(被害に遭ったけれど)それでもあなたはきっと良い人生を送れる』と言ってほしかった。だから私はそれを発信しているのです」と語りました。
今まで社会でなかなかかオープンに語ることが難しかった体験を彼女がオープンに語ったことで、多くの人が精神的に救われました。
ドイツのミスコン取り仕切る一族にも変化の波
実は、Miss Germanyは半世紀以上にもわたり、ドイツは北西部オルデンブルクのKlemmer一家が仕切っています。「女性を容姿で判断すること」が普通だった時代にMiss Germanyを取り仕切っていた祖父のHorstさんと、ファミリー企業のトップに現在立っている孫のMaxさんとのシュピーゲル誌での対談が興味深いです。
対談の中で、祖父が「昔のミスコンの女性は皆キレイだった」と繰り返す一方で、孫のMaxさんは「おじいちゃん、今のミスコンで見た目は重要ではないよ。今は中身が……」と繰り返しており、両者が「家族」として仲は良いものの、「女性に対する考え方」が180度違うことが浮き彫りになっています。
たとえば昔のMiss Germanyでは水着の審査が定番でしたが、孫のMaxさんに代替わりしてからは、これを取りやめています。祖父が「女性に水着を着せていたのは確かだけれど、カメラマンがきわどいアングルで写真を撮っていたのは我々のせいではない」と言うのに対し、孫のMaxさんは「でも、そういう材料を与えたのは確かでしょ」とピシャリと返します。
祖父は「かつてのMiss Germanyの優勝者は自動車をプレゼントとしてもらっていたのだから、搾取ではない」という考えなのに対し、孫は「男性の視線でしか女性を評価しないこと自体が搾取だ」と考えており、現在、審査員の半数以上を女性にしています。
日本でも、来年2023年に開催されるミス・ユニバース世界大会「第72回 ミス・ユニバース(The 72th Miss Universe)」より、「婚姻または婚姻歴あり、妊娠中、出産経験ありの女性も応募可能」というふうに応募の条件が変更となります。
そうはいっても筆者は「そもそも女性を評価するコンテストって、必要なの?」と疑問に思っています。
たとえば前述のMiss Germanyのように、「容姿」で判断するのではなく、「人生においてピンチになった時にヒントをくれるようなストーリー」であるかどうかの判断基準であっても、人間の「中身」を評価するということは、なかなか難しいものだと思うのです。このようなコンテストがなくても、誰も困らないのではないでしょうか。