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不耕起栽培(耕さない農業)に成功したアメリカの農家「6原則は世界どこでも同じ」

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ゲイブ・ブラウンさんは農場で多くの家畜を放し飼いにしている。ニワトリは約1千羽で、卵を産む時に自分で移動式の小屋に入る
ゲイブ・ブラウンさんは農場で多くの家畜を放し飼いにしている。ニワトリは約1千羽で、卵を産む時に自分で移動式の小屋に入る=7月26日、米国ノースダコタ州のブラウン農場

――環境にやさしい農業を実践するうえで、六つの原則を守ることが重要だと説いています。どのような考えからそう思うようになったのですか。

私が重要だと考えるのは、農業のやり方が自然環境に沿ったものかどうかです。原則は自然をまねしているだけなのです。

第1の原則は「土をかき乱さない」です。放っておけば土の中で微生物をはじめとした生物が良い環境をつくってくれます。耕すと土壌の構造が崩れます。

なぜ、いい土をつくる生物の住み家をかき乱す必要があるのですか。化学肥料や除草剤、農薬、殺菌剤なども、土壌の生態系に悪影響を及ぼします。

第2は「土を覆う」。自然界に土がむき出しになっている場所はありますか。むき出しの状態は普通ではありません。

畑を植物で覆うことで、土は風や水による流失から守られます。被覆する植物は土壌生物の栄養になり、水分の蒸発や雑草の発芽も抑えられるので。

ゲイブ・ブラウンさんの農場では、冬の飼料用に干し草ロールをつくる作業が進められていた
ゲイブ・ブラウンさんの農場では、冬の飼料用に干し草ロールをつくる作業が進められていた=2022年7月、米国ノースダコタ州

第3の原則「多様性を高める」。自然の中で単一の品種が生えているところがあるでしょうか。

うちの農場では、数十種類の穀物や野菜、草花が育っています。そして花粉を運ぶ虫や鳥、ミミズを始め土壌生物も極めて多様です。それらは、お互いに良い作用をもたらします。

第4は「生きた根を保つ」。このあたりでは、霜の降りない日が年間120日しかありません。

でも、冬の間も何かしらの作物を育てています。生きた根は土壌生物にエサとなる炭素を供給し、土壌生物は土を豊かにします。

第5は「動物を組み込む」。うちの農場では約750頭の牛と約250頭の豚、約150頭の羊、約1千羽のニワトリを飼っています。自然は動物なしには成り立ちません。

そして第6は「背景」。気候や環境、経済状態などは人によって違います。私たちは、自分の事情や条件に合わせて仕事をしなければなりません。

耕していない自分の農場の土を示すゲイブ・ブラウン
耕していない自分の農場の土を示すゲイブ・ブラウン=7月26日、米国ノースダコタ州のブラウン農場

――日本の農業は、こちらと規模も気候もまったく違います。日本国内でもかなり違いがあります。それでも原則はあてはまりますか。

私は世界中を旅してきましたが、土地に根ざした農業であれば、どこでも六つの原則は同じだと考えています。

栽培する作物や家畜の種類、被覆の仕方などは異なるかもしれませんが、原則によってどこでも生態系を豊かにできるのです。大きなトラクターなどの農機具を使おうが、小さな面積を手でやろうが原則は同じです。それが私の言いたいことです。

――耕さない農業を始めたころは、大変な苦労をされたそうですね。

畑を耕さないようにしたのは1994年からで、本格的にやった1994年の収穫はとてもよかった。それで不要になった耕運機を売りました。

しかし翌年、収穫を始める前日にひょうが降って作物を全部やられました。1996年もひょうにやられ、1997年は干ばつに見舞われました。1998年にはまたひょうが降ったのです。その4年間に何が起こったのか。考えてみてください。

トラクターを売っていたので、土を耕さず、かき乱しは最小限でした。第1の原則です。

収穫できなかった作物をそのままにしました。土を覆う、つまり第2の原則。いろいろな作物を育てるようにして、生きた根を持つ被覆作物を長く栽培し、いろいろな家畜を飼って動物も組み込みました。

災難でしたが、私が提唱する原則がすべて当てはまりました。その4年間があったからこそ、原則ができたのです。

――よく諦めなかったですね。

諦めませんでした。失敗するつもりはなかったのです。

ただ、物事を違った角度から見る必要があるのはわかっていました。だから自然に頼ったのです。原則は自然の中にあるからです。

自然と闘うのではなく、共に働こうと思ったのです。この方法を採り入れることによって、農業に使うお金が減りました。

そして目に見えて土壌がよくなりました。多くの水分を保持することができ、ミミズが増え、土壌生物を農場に戻したのです。いいことずくめです。

ゲイブ・ブラウンさんの農場(牧場)の入り口に立つ看板。「リジェネラティブ(環境再生型)農業」をうたっている。
ゲイブ・ブラウンさんの農場(牧場)の入り口に立つ看板。「リジェネラティブ(環境再生型)農業」をうたっている。

――耕さない農業には2種類あると言います。ブラウンさんの農場のように化学肥料や農薬を使わない不耕起有機農法と、化学肥料や除草剤など化学物質を使う不耕起慣行農法です。この違いをどう思いますか。

不耕起有機栽培は、米国内でもあまり多くは行われていません。耕す有機農法と耕さない慣行農法は、どちらも土や土壌生物にとってよくありません。目標は化学物質を使わずに、長期間、土を耕さないで農業をすることです。

この農場で耕起か、除草剤のどちらかを選ばなくてはならないとしたら、同意しない人もいると思いますが、私は除草剤を選ぶでしょう。要するに、土壌中の微生物が元気かどうかが重要なのです。

――農業は温室効果ガスの大きな排出源になっています。ブラウンさんがやっているような環境再生型農業は、有効な気候変動対策になると思いますか。

ほとんどの農場では、かつて土壌に貯留されていた炭素の約75%が大気中に放出されました。私が農場でやったことを見てください。何世代にもわたって大気中にまかれた炭素を、環境再生型農業によって土に戻したのです。

農業は気候変動問題の一部ではありますが、解決策として大きな役割を果たすことができると確信しています。世界中の農民や牧場主がこの原則を使ったなら、ものすごい可能性があると思います。