1. HOME
  2. World Now
  3. 「日本のモノがアフリカで売れない」33歳VCトップがTICAD8で訴えたいこと

「日本のモノがアフリカで売れない」33歳VCトップがTICAD8で訴えたいこと

揺れる世界 日本の針路
TICAD8が開かれるチュニジアの首都チュニス
TICAD8が開かれるチュニジアの首都チュニス=2020年12月、高野裕介撮影

武藤さんは、日本を拠点とし、アフリカで事業展開するベンチャーキャピタル企業「Double Feather Partners Inc.(DFP)」の代表取締役。新卒で入ったモルガン・スタンレーでは、日本企業の海外企業の買収に伴う資金調達などのクロスボーダー案件などにかかわった。

「膨大な時間と能力を一企業の成長ではなく、貧困や医療などの最も複雑な課題の解決のために使いたい」と考え、国際機関の中東勤務を経て、2017年に仲間とDFPを起業した。「世界の成長と日本の成長をつなぎたい」とも考えたという。

DFPが主に支援するのはアフリカのスタートアップ。成長著しいスタートアップに投資を行うと同時に、日本企業に有望なスタートアップを紹介したり、スタートアップとの連携の提案やアフリカ事業戦略に必要な様々な分析を提供したりしている。

エジプトにある、武藤さんの投資先企業
エジプトにある、武藤さんの投資先企業(武藤さん提供)

武藤さんによれば、アフリカでは21年、創業4年以内に時価総額が10億ドル(約1400億円)を超えた「ユニコーン」と呼ばれるスタートアップが7社も出現した。武藤さんがかつて拠点とし、IT新興国として知られるルワンダは、ベンチャー企業への海外からの投資額が、国民1人あたりで世界最高になっている。

武藤さんは「企業の事業価値の算出手法は様々ですが、基本的には将来的に生み出すと想定されるキャッシュフローの現在価値によって決まります」と語る。「伸びている市場でチャレンジしている企業と、縮小している市場でチャレンジしている企業とでは、潜在的な将来のキャッシュフロー創出能力に大きな差が出ます。そのうえで、右肩上がりに成長すると判断された企業に投資が集まるのです」と語る。

武藤さんが、アフリカのスタートアップの代表例の一つとして挙げたのが、11年に創業し、ルワンダを中心に活動するZiplineだ。同社はドローンで、地上輸送が困難な地方に血液や医薬品を空輸している。

武藤さんは「米・シリコンバレーでの起業を目指しましたが、飛行規制が厳しくて断念しました。ルワンダのカガメ大統領は逆に規制を緩和し、企業誘致に成功しました」と語る。武藤さんによれば、Zipline社の試みに賛同した技術者が世界から集まり、それが投資を呼ぶ好循環を生み、ユニコーンになったという。

経済産業省の資料によれば、2050年には世界人口の4分の1がアフリカ人になる。アフリカのスタートアップへの投資額は21年に5億ドルを超えた。5年前の20倍以上の金額だ。携帯電話の普及に伴い、デジタルが新たなインフラになり、決済や物流サービスを提供するスタートアップが増加した。

一方、武藤氏はTICAD8で訴えようと心に決めていることがある。「日本の投資家はアフリカは問題が多いと考えています。でも、実は日本も問題だらけなのです」

日本は少子高齢化と人口減少が進む。「世界は右肩下がりの日本市場に対する投資を徐々に控えてくるでしょう。日本企業はより積極的に海外に出る必要があります。特にこれから成長するインドやアフリカなどに飛び込むべきです」

武藤康平さん
武藤康平さん(本人提供)

シリコンバレーを中心とするグローバルのベンチャー投資家は、アフリカへの投資を増やしている。日本市場におけるスタートアップへの投資額が5千億円を超えたのは2019年。アフリカは昨年この水準を超え、今年は日本市場を超えるとも言われている。

Zipline社が解決しようとしている問題は、高齢化と過疎化が進み、十分な医療や教育が受けられなくなっている日本の地方と重なる。

武藤さんによれば、日本企業が保有するキャッシュは現時点で世界最高だという。「S&P企業の14%がネットキャッシュである一方、TOPIX企業は53%がネットキャッシュであり、圧倒的な資金を持っています。ただ、日本の手元に潤沢な資金がある時代はあと、10年前後でしょう。アフリカの購買力が上がってから投資する、という姿勢では乗り遅れてしまいます。10年後、20年後を見すえ、今あるリソースをいかに成長市場への投資に回すかが重要な経営判断になります」

また、武藤さんによれば、日本には昔ながらの「物づくりの国」としての誇りが大変強い企業が多いという。武藤さんは「アフリカの中間所得層が高価な日本製品を買える経済力をつけるまで、あと7~10年はかかります。でも、そのころには、日本は中国や韓国との競争に勝てなくなっているかもしれません」と話す。「明確な戦略がなければ、今売っても売れないし、10年後に売っても売れない可能性が十分にあります」

ルワンダ、キガリ中心部の街並み。高層ビルやホテルが立ち並ぶ=2019年2月、石原孝撮影

武藤さんは、日本の上場企業の幹部たちから、しばしば、「自分たちはモノを売って会社を育ててきた」という自負の言葉を耳にすることがあるという。武藤さんは「今、直接モノが売れないのであれば、まずはサービスやプラットフォーマーなどに投資して市場形成をサポートし、現地の情報源を確保したうえで、自社製品の開発やマーケティングに反映し、長期的に一緒に成長するという変化球も時には必要です」と訴える。「仮に自社製品が売れなくても、投資先のプラットフォーマーが伸びれば、大きな利益を企業にもたらし、リスクヘッジ戦略にもなります」

そして、アフリカのイノベーションへの投資に限れば、米国が4割、欧州が2割、アフリカの現地ファンドが2割、アジアは1割以下というのが現状なのだという。「中国の進出が叫ばれて久しいですが、一番成長が期待されているイノベーション分野では依然、米国が圧倒的に強いのです」

ロシアによるウクライナ侵攻を契機に、アフリカにも新冷戦の波が押し寄せている。ロシアのラブロフ外相が8月、ロシアやウクライナ産の小麦粉に頼っているエジプトを訪れ、食料供給を確約した。米国のブリンケン国務長官も8月、アフリカ諸国を歴訪している。

武藤さんによれば、新冷戦によるイノベーション分野に対する投資への影響は限定的だという。ウクライナ危機などで叫ばれるインフレーションの影響が投資を鈍らせるという現象程度にとどまっている。

ただ、同時に、アフリカでの事業展開の成否は欧州との連携がカギを握っているのが実情だという。「アフリカの旧宗主国として、圧倒的なプレゼンスを誇る欧州と協力するのが理想です」。欧州社会は最近、中国への警戒感を示しているため、この方法が日本の国益にも合致するようだ。

武藤さんは「新冷戦で、欧米やロシア、中国などが入り乱れてアフリカに投資するなか、日本の投資効果が弱くなっています。官民が連携し、アフリカが何を求めているのかを見極め、アフリカ市場の潜在的成長性を分析したうえで、戦略的なポジショニングをとることが重要です」と語る。

アフリカは依然、若者を中心とした高い失業率に悩まされ、優秀な若年層が欧米社会に流出している。「公共施設のような箱ものに投資するより、将来の経済発展を担う若者がアフリカで起業し、グローバルな資本市場にアクセスできる環境作りに投資した方が、アフリカで歓迎されます。日本の外交や経済にも大きな利益をもたらすはずです」

武藤さんは「最近、私たちを含む世代の人たちは日本の外に出たがらないという話をよく聞きます。失われた30年しか経験してこなかった世代に、アフリカという成長市場でのチャレンジの醍醐味と意義を伝え、世界で働くことの魅力を是非、知って欲しいと思います」と語った。