――「小さい国」である良いことは何でしょうか。
少ない人口で、この大きな島の自由を享受している。国民はみな知り合いで、友人だ。互いに助け合い、誰に指図されることもなくおのおのが好きなことをできる。そしてなにより、それぞれにホーム、居場所がある。オフィスでの仕事に疲れて帰ってきたら、畑に出たり、豚にえさをやったりしてリフレッシュするんだ。
犯罪もほぼなく安全で、刑務所は、いま現在も誰もいないように、たいてい無人だ。
――スーパーの裏手にある刑務所は、私も見に行きましたが、敷地に柵も門もなく、本当に誰もいませんでした。なぜ犯罪が少ないのでしょう。
みんながみんなを知っているから、もし誰かが誤ったことをしようとしても、周りが正して、助けてくれる。すばらしいことだ。
――1974年の独立前、ピーク時の人口は5000人を超えていました。国の人口についてはどう考えますか?
みんながみんなを知っている心地よいコミュニティーである一方で、人口が少ないことによるデメリットはもちろんある。人手不足、特に技術者や医療関係者など、専門家が足りていない。国の発展には人が必要だ。日本をはじめ、諸外国からの技術的な支援に感謝している。
もちろん人口が多すぎても、今あるインフラで支えきれなくなる。個人的には3000人くらいがちょうどいいのではないかと思っている。幸い、ここ10年ほどの人口は1600~1700人で推移しており、海外から戻ってくるニウエ人も増えている。政府としては、ニウエに戻ろうと考えている人々が移住しやすいようサポートを続けていきたい。
――若い世代に期待することは?
私の世代は、雑誌や本で外国に思いをはせたが、いまはインターネットで何でも調べることができる。それでも、実際にその場所に暮らし、体験してみて初めてわかることはたくさんある。外の世界に出て初めて、自分の故郷を完全に理解することができる。
だからこそ、若い世代には、外の世界に出てニウエとの違いを感じ、家族と自由に囲まれたここでの暮らしがいかに恵まれているか、気づいてほしい。そしてより広い視野を得て、ニウエに戻り、故郷に貢献してほしい。
――ニウエにとって、国際社会の中で生きていく上で重要なことは何でしょうか。
この地域に軍隊は必要ない。2015年に日本と正式な外交関係を結んだように、ニウエという小さな島国が、ここにあるのだということを、世界に知ってもらうこと。これが我々とってはとても重要だ。ニウエをニュージーランドの一部だと思っている人もいるが、それは違う。ニュージーランドと独特の協定(自由連合)を結んではいるが、我々は、自らの政府と主権を持つ、独立した国だ。幸い、そのことが世界に知られ始めていると思う。
世界から見たら、我々は小さな小さな国かもしれないが、だからこそ、我々は世界で起きていることについて、常に気をつけている。我々の伝統や文化を守っていくのと同時に、技術の進歩についていき、世界とともに前へ進んでいかないといけない。
――太平洋の島国への中国のアプローチに対しては、警戒感も高まっています。
中国もまた、ニウエと外国関係を結ぶ良き友好国の一つだ。中国からの支援にもまた、感謝している。ただ、5月に中国の外相がこの地域を訪れた際、私たちは(安保協定の)合意も署名もしなかった。ほかのパートナー国同様、互いに尊敬し合う間柄であって、判断は常に私たちそれぞれの国次第なのです。
また、ニウエでは、国際的な支援は感謝して受けているが、借り入れは行わないことにしている。ニウエには巨大な高速道路も華美な建物も必要ない。これがニウエの生き方なのです。
――良い「国」であるために必要なこととは?
なによりそこに暮らす人々を幸せにしなくてはいけない。国を作っているのは人なのだから。私たちは過去からの恩恵を受けているのであって、我々を今日まで育ててくれた先人に感謝し、明日のために行動しなくてはならない。
私がこの国で一番好きなことは、人々がどんなときでも互いに助け合うことだ。家族やコミュニティーを大切にするということは、誰ひとり置き去りにしないということでもある。
――国の「ちょうどいい大きさ」とは?
ニウエの今がちょうどいい。高速道路もトンネルも作る必要がない。島を歩けばココナツの実がなっていて、ニワトリが走っている。空気は新鮮で、昼は太陽が、夜は星が輝いている。私たちは幸せに暮らしている。
そしてなにより、自分たちがいかに恵まれていて、そのことに感謝すべきであることを、私たちは理解しているのです。
……ニワトリの鳴き声があちこちで響き、気持ちが良い風が木々を揺らす中、約1時間のインタビューは和やかに進んだ。「いつかまたニウエで、もしくは日本で、あるいは世界のどこかでお会いましょう」。何度もお礼を言うと、「シー ヤ!(またね)」と右手を上げ、首相は自宅へと去っていった。