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5カ国語操る元力士、いまは国会議員 「把瑠都」に聞いた、小国のいいところ

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エストニア出身で現在祖国で国会議員をしている、大相撲の元大関「把瑠都」こと、カイド・ホーベルソンさん
エストニア出身で、現在祖国で国会議員をしている、大相撲の元大関「把瑠都」ことカイド・ホーベルソンさん=2020年2月10日、東京都、岩下毅撮影

バルト海に面し、ロシアと国境を接するエストニア。1991年にソ連から独立し、九州ほどの広さの国土に130万人が暮らしています。大国に囲まれるなかで、エストニアはどのように、自国の存在感を示そうとしているのか。エストニア出身で現在祖国で国会議員をしている、大相撲の元大関「把瑠都」こと、カイド・ホーベルソンさん(37)に聞きました。

ーー2018年にエストニアに戻ったのはなぜですか。

一番の理由は、5歳の長男を自然豊かな場所で育てたいと思ったからです。エストニアは小さいから、車で1時間も走ればたいていの町に行けます。どこに行っても人が多すぎず、緑もたくさんある環境が気に入っています。

ーー国会議員を志したきっかけを教えてください。

私は農家の出身です。エストニアに戻ってきた当初、私も牧場を経営しました。小さな国が生き延びるためには、食糧はなるべく自分たちでまかなうことが大事で、そのためには後継者を増やさないといけないと思いました。それに、エネルギーは一国に依存するのではなく、分散して輸入するべきです。そうしたことを政治活動を通して伝えたかったのです。それからエストニアと日本をつなぐ架け橋にもなれたらいいとも思いました。

ーーエストニアはロシア、ドイツという大国に挟まれています。国としてどのようにして生きていこうと考えていますか。

エストニアはIT国家として生き残る道を選びました。万が一、他国に攻められても「データは残る」という思いがあるからです。IT産業が盛んで、インターネット電話「スカイプ」もエストニアで開発されました。政府の電子化も進んでいて、行政手続きもほぼすべてオンラインで済ませます。パソコンとIDカードさえあれば、家から出なくても日常のあらゆることができます。

国がコンパクトだからこそ、迅速に施策を実現できた好例だと言えます。エストニアのノウハウを学ぼうと世界中から視察が訪れますが、多くの国は実現するのに手間取り、時間がかかっています。

大相撲初場所で初優勝し、優勝旗を手に笑顔を見せる「把瑠都」こと、カイド・ホーベルソンさん。エストニア出身で、現在は祖国で国会議員を務めている
大相撲初場所で初優勝し、優勝旗を手に笑顔を見せる把瑠都(カイド・ホーベルソン)さん=2012年1月23日、東京都大田区の尾上部屋、西畑志朗撮影

ーー小国ならではの利点はありますか。

私は、エストニア語、英語、ロシア語、ドイツ語、日本語の5カ国語を話します。日本でそれを言うとみなさんに驚かれました。でも、エストニアでは多言語を操るのは当たり前のことです。子どもの頃から「小さい国だから、一つでも多くの国の言葉を話してコミュニケーションをとれないと、生きていけない」と言われてきました。小学校では毎日、英語、ロシア語、ドイツ語の授業があったし、長期休暇には集中講座もありました。

ーーロシアによるウクライナ侵攻が続いていますね。エストニアにとってはどのような影響がありますか。

エストニアにはロシア人も多く住み、妻のエレナ(39)もロシア出身です。ウクライナ人も多く、2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、新たに避難してきたウクライナ人は4万人を超えています。ロシアの侵攻を恐れる人々が一時、缶詰や飲料水、トイレットペーパーなどを買い占め、品薄になったこともありました。

エストニアは欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)に加盟しています。自分たちの力だけでどうにもならないことは、他の加盟国と協力しながら自分の国を守っていかなければなりません。ヨーロッパは一つという思いです。

エストニア出身で現在祖国で国会議員をしている、大相撲の元大関「把瑠都」こと、カイド・ホーベルソンさん。一緒に写っているのは、妻のエレナさんと息子のタール君
元大関「把瑠都」のカイド・ホーベルソンさん。一緒に写っているのは、妻のエレナさんと息子のタール君=本人提供