新番組「仮面ライダーフォーゼ」が始まる前日の9月3日、バンダイが新商品を発売した。主人公が身につける変身ベルトだ。
9月半ば、東京都内の玩具店では、すでに品切れになっていた。
「おもちゃの発売が放送開始に遅れないよう、販売スケジュールも考えて番組の企画を進めてもらっている」。バンダイ・ボーイズトイ事業部の高橋秀行(39)は、そう説明する。
たかがおもちゃ、ではない。
バンダイ単体の国内キャラクター別売上高(2010年度)で仮面ライダーは230億円と1位。スーパー戦隊(92億円)やウルトラマン(28億円)など2位以下を大きく引き離している。
中でも変身ベルトは、1971年から約2年で380万個も売れた初代ライダーから人気がある。前々作の「W(ダブル)」では54万個、前作の「オーズ」でも73万個が売れた。バンダイにとって戦略グッズの一つだ。
まず新番組が始まり、次に関連グッズを売り出す。仮面ライダーシリーズが始まった40年前は、それが当たり前だった。番組に人気があればグッズも売れるが、人気がなければ売れない。そんな時代が長く続いた。
いまは違う。各種グッズを発売する年間スケジュールをあらかじめ立てたり、キャンペーンをして購買意欲を高めたりと、戦略的なビジネスを展開している。15年ほど前からだ。
たとえば、「仮面ライダーオーズ」が放映されていた昨年11月半ば、バンダイは主人公オーズのバイク「ライドベンダー」のおもちゃを発売した。
ライドベンダーは、その2カ月以上前の第1話から登場している。関連グッズの発売を遅らせたのは、クリスマス商戦を意識してのこと。
グッズ発売とちょうど同じころ、番組はライドベンダーに注目が集まる展開になった。こうした連携ができるのは、バンダイが東映の企画会議に早い段階から加わり、キャラクターのデザインや小道具の開発など番組づくりにかかわっているためだ。
東映とタッグを組むことで、バンダイは本物そっくりのグッズをタイムリーに販売できる。「テレビで見たのと同じものだ、という高揚感を裏切りたくない」とバンダイの高橋は言う。
東映にもメリットがある。グッズが売れれば、番組そのものやキャラクターを効果的にPRできるという。東映のテレビ商品化権営業部長、篠原智士(48)は「おもちゃを大事にするうち、子どもはキャラクターにも愛着をもつようになる。商品に勝る番組プロモーションはない」と話す。
子ども心を、どうつかむのか?
東映が「侍戦隊シンケンジャー」を企画したときのこと、剣を武器にたたかうサムライたちというストーリーに、「時代劇を知らない子どもたちに受け入れられない」という声があった。だが、2009年にいざ番組が始まってみると、子どもたちは棒きれで立派にチャンバラごっこをして遊んでいた。
東映の篠原は言う。「乗り物や武器、アクションが好き。世界の子どもに共通する遊びのDNAは今も昔も変わらない。そこを外さないキャラクターや商品づくりが勝負だ」。たとえば、仮面ライダーの変身ベルトは、携帯電話やIC乗車カードなど、子どもが触りたがるものをモチーフにしてデザインしている。
近ごろの子どもを飽きさせない工夫もこらしている。スーパー戦隊シリーズでは、昔は1体しか登場していなかったロボットが2号、3号と増えたり、途中から新たな戦士が登場したりする。
新たなキャラクターやアイテムが番組に登場すると関連グッズが発売される。そのたびに子どもは欲しがり、親の出費がかさむ。親たちが待ち望んでいるのは、家計を救ってくれるヒーローかもしれない。