小さな体育館のようなスタジオのドアを開けると、ゴツゴツとした岩場や、未来基地を思わせる建物のミニチュアがあった。薄暗いなか、天井や床にある照明でピカピカの建物が浮かび上がる。
「本番いきまーす」
スタッフが白いスモークをたき、巨大なうちわであおぐ。ピアノ線でつられた飛行メカが宙を滑っていく。
「パン!パン!」
曳光弾(えいこうだん)が発射され、赤い軌跡を描いて飛行メカを追い越していく。硝煙の臭いが漂う。
半世紀以上の歴史がある東映東京撮影所。スーパー戦隊シリーズ「海賊戦隊ゴーカイジャー」(テレビ朝日系、日曜朝7時半)の特撮現場だ。
「次、ゴーカイオーです」
番組終盤のお約束である巨大ロボットの撮影に移った。赤、青、緑、黄色、ピンクをあしらったカラフルなスーツを、スタッフが2人がかりで俳優に着せる。いかにも動きにくそうだが、ロボットは何度も「みえ」を切った。
「CG(コンピューター・グラフィックス)でもできるだろうけど、こっちの方がいいでしょう?」。特撮監督の佛田洋(50)の言葉には自信がのぞく。
戦隊の製作では1990年代後半からCGが本格的に使われ始め、以前より実写の割合が減った。ただ、すべてがCGに取って代わられるわけではない。ロボットや巨大化した敵が動く際、仕掛けによって風や土煙を起こし、それをカメラで実際に撮影した映像は臨場感が違うという。
CGだと、思い描いた映像を自在につくることができる半面、「絵コンテ以上にはならない」と佛田は言う。予想外にカメラに向かってくる爆発の破片や、現場でカメラマンの意見で変えたアングル。「特撮だと、想定よりいい絵を撮れることがある。それがだいご味だ」
ミニチュアのセットを使うことで、着ぐるみのヒーローや怪獣を巨大に見せかける。このアイデアは「特撮の神様」の円谷英二(1970年没)が編み出した。
「ウルトラマン」「帰ってきたウルトラマン」でカメラマンや特技監督を務めた佐川和夫(71)は「おやじさん(円谷)はアイデアの出し方がすごかった」と振り返る。
ミニチュアの飛行機をつり下げるピアノ線が、どうしてもカメラに映ってしまうことがある。円谷はセットとカメラの上下を逆さまにして撮影し、その映像を逆さまにして放映するアイデアを生み出した。撮影時はセットの地面から飛行機を逆さまにつり下げるので、できた映像ではピアノ線が飛行機の機体の下にのびている。視聴者には「上からつっているはずだ」という先入観があるため、ピアノ線に気づかないというわけだ。
円谷の薫陶を受けた現場でも、迫力を出すために知恵を絞った。
爆発シーンでは、破片が盛大に飛び散るようセットに切り込みを入れて火薬を仕込んだり、セットをつくる石膏(せっこう)に砂を混ぜて強度を落としたりした。身長40~50メートルのウルトラマンや怪獣の重量感は、ハイスピード撮影で表現した。
多彩なCGや豪華なセットでつくったハリウッドの大作映画は、製作費が100億円を超えることも珍しくない。そういう派手な映像に比べると、着ぐるみやミニチュアセットでつくる日本の特撮は見劣りがするかもしれない。
だが、一球入魂のハリウッド大作とは違い、日本の特撮現場は40年にもわたって毎週コンスタントに番組をつくってきた。1本にかけられる予算や時間に制約があるなか、現場の創意と工夫で特撮技術を磨いてきたという自負がある。
佐川は言う。「器用さと根気で、日本オリジナルの特撮をつくり上げた。人まねはしない、というおやじさんの教えがあったからだろう」