――スニーカーとの出会いはいつですか?
原点は3歳のときです。アメリカ人の父親が、ナイキの「エアフォース1」を買ってきてくれたんですが、サイズが24か25で、さすがにブカブカだよ、っていうことになったんです。
ただ、それがやがて「イケてる」靴だったんだと、中学くらいの時にわかって、「格好良いのをくれたんだな」と感謝しました。
――中学のころは、ファッションとして注目したのですか?
最初はファッションとしてですね。はやってた音楽、ヒップホップとか、ロックとか、ミュージシャンの服装に目がいって。おっ、ナイキとかアディダスのスニーカーも格好良いなと。
彼らの着てる服は、結構高いものが多いけれど、スニーカーだったら、似たようなものを何とか買えるなと思いました。それで、どんどんどんどん好きになりました。
――今日は、個人的なエピソード、思い入れがある、お気に入りの3足をお持ちいただきました。
1足目は、中学の時に最初に自分で買ったエアフォース1のバレンタインモデルです。毎年ではないですが、2月にナイキが発売するモデルです。1万何千円かだったと思いますが、お年玉とお小遣いをためて買いました。
でも、学校に履いていったら盗まれてしまったんですよ。親にも怒られて、トラウマになったんですけど、その思い出があったから、昨年復刻したときに懐かしいなと久しぶりに買いました。
いま僕は300足くらい持っていて、その中から選ぶのは悩みましたが、2足目はジョーダン5とストリートブランドのシュプリームのコラボです。
シュプリームが好きなのと、5が出た年は、僕の生まれ年(1990年)と同じなんです。見た目も好きで、プレミア価格で買いました。芸人になって、お金ももらえるようになって、買ったスニーカーです。
実は以前、テレビ番組のドッキリ企画で、体を銀に塗られるというのがあって、銀の塗料がこのスニーカーにもめちゃくちゃかかったんです。いまは、「もしかして今日はドッキリがあるかも」と思う日は、大事なスニーカーは履かないようにしています。
――ドッキリ番組の時、アントニーさんが何を履いているか見れば、「あ、もしかして予想してたかな」と分かるかも知れませんね。
分かる人にはわかるかも知れません。あれ、「普段いろいろ言っているのに、ローテクのスニーカーだ。今日、こいつ予想してたんじゃないか」と。
最後の1足は、ジョーダン1とラッパーのトラビス・スコットのコラボです。トラビス・スコットは音楽もファッションも格好いいので好きです。それがナイキとコラボして、しかもスウッシュ(ナイキのロゴマーク)を反転させているんですよね。
「GQ JAPAN」でやらせてもらっているスニーカー紹介のYouTube番組で、初めてロサンゼルスに行った時、色んなショップが並んでて、僕の履いている28センチのサイズで17万円だったんです。日本だと二十何万くらいするので、ちょっと手が出なかったんです。せっかくのロサンゼルスの思い出にもなるし、と。人生で一番、スニーカーにお金をつかった一足です。
――3足ともナイキですね。
今日はたまたまそうですけど、アディダスとかも、めちゃめちゃ履きますよ。アシックスも履き心地いいなあと思いますし。
――最近はコラボスニーカーがとても多いですね。
スニーカー好きの中では、アパレルブランド、ハイブランドとのコラボが注目されていますね。ディオールとナイキのとか、アディダスとプラダとか。
ハイブランドがスニーカーとコラボしているというのは、スニーカーカルチャーがメインストリームになってきました。
あまりにもスニーカーカルチャーが浸透して、スニーカーを履くことがステータスになってきて、ハイブランド側が歩み寄っている感じがあるように思います。
――ストリートカルチャーやストリートファッションは、メインストリームとは違うんだ、という主張もありますね。
ストリートカルチャーが認められたというのは僕はうれしいですね。でも、ストリートの良さがなくなると言う人もいると思います。ミュージシャンとかもそうじゃないですか。売れたら応援しなくなる人がいるじゃないですか。「インディーズのころがよかった」と言ったり。
でもやっぱ、世間のいろんな人たちに刺さっているのが正義だと思います。芸人という職業にも通じていて、確かに目の前の50人を笑わせるのもすごいですけど、日本中の人に知ってもらって、日本中の人に面白いよね、って言ってもらうのが一番だと僕は思います。
僕が20代前半くらいまでは、「スニーカー好きなんです」と言ったら、「ああ、スニーカー好きなんだ」という反応だったですけど、いまは「あっ、スニーカー、俺も好き!」とか「私も最近スニーカー好きなんです!」という人が増えてきてうれしいです。
――いまは300足くらいお持ちということですが、自宅に置いているのですか?
自宅は200くらいだと思います。実家にもちょろっと置いていて、レンタルスペースにもちょっと。
6畳一間くらいのところに、僕は服も多いんで、アパレル、スニーカー、キャップとか、おもちゃとかポスターとかを置いています。自宅はリビングが10~11畳くらいなんですけど、スニーカーに侵食されて、生活スペースが4~5畳しかないんです。
――購入ペースはどのくらいですか?
まちまちですが、最低でも月2~3は増えていますね。2足にしておこうと思っているんですが、それでも1年で24足かあ。最近はスニーカーに関係するイベントなどの仕事もさせてもらっていて、いただくこともあって増えています。
――履きつぶすのですか?
いやあ、なかなか、ローテーションして履いていると。でも、300足持っているのに、なんで俺このスニーカー2日連続で履いているんだろうと思うこともあります。
――朝起きて、何を履くか迷いませんか。
迷いますね、めちゃくちゃ。その時間が楽しいという人もいますが、僕はああ、どうしよう、ああ時間ない、やだなと。前の日に決めておけば良いんですが、天気によって変わることもあるんで。
今日(このインタビューの取材日)も雨なんで、「これ(お気に入り)履くのやめようかな」と思ったりしましたけど、いや取材だからやっぱりなあ、と思ったり。
――スニーカー以外の靴はどれくらいお持ちですか。スーツ着なきゃいけない時はどうしていますか?
ブーツっぽいのと革靴で、7~8足くらいですかね。スニーカーに比べたら少ないです。スーツ着なきゃいけないときはちょこちょこあるんですけど、ドレッシーな格好するときにも、フォーマルにもあうスニーカーを選ぶようにしています。結婚式にはスーツにあうスニーカーを履いていきます。
この職業ですから、ちょっと枠をはみ出しても大丈夫かな、というのもあって。先日、相方の結婚式があって、ルイ・ヴィトンと(有名デザイナーの)ヴァージル・アブローがやった、ラグジュアリーな感じのスニーカーがあるんですが、それでいきましたね。
――革靴を履く機会はないですか?
生涯履かないでいければと。お葬式のときはちょっと難しいですが。スニーカーと同じように、芸人としても、メインの場にどんどん出ていきたいですね。
――ご自分でスニーカーを売ることはありますか?
ないですね。一回もないです。履くのが前提です。とは言っても、300足あれば、履いたことないスニーカーもあります。今後履いてくつもりですよ。
買うとすぐ履こうかと思うんですけど、周りに履いている人が多いとミーハーな感じがでるし、「今じゃないな、3年後、5年後とかにしよう」とか、そういうのも何足かありますね。
逆にそれやっていると、ちょうど復刻のタイミングが来たりして、「あ、これ買ってたわ」とか。
――ご自宅での管理に気を使っていますか?
どこまで関係あるかなと思う部分はあるんですが、冬も一応、リビングでは加湿器はたかないようにしています。だから、芸人という職業でのどと声が大事なのに、仕事でガラガラという時もあります。
でもやっぱ、「こいつらを守らなきゃいけない」という本末転倒なルールでして。革やゴムは湿度に弱いので乾燥させた方が良いらしいんです。本当は適度に履くのが一番と言いますけどね。
――タワーボックス(スニーカーを見せる収納ボックス)で保管していらっしゃると聞きました。先日の地震は大丈夫でしたか?
タワーボックスが天井までついているんで、つっかえ棒みたいに。逆に大丈夫という感じです。
――スニーカー好きとして、「ここだけは譲れない」というポリシーはありますか。
売らないということかも知れないですね。僕は買う側で、ビジネスをしたいとかいうことはないです。
――転売サイトの「StockX」などは過熱していて、投機目的で買って売ってという人もいるようですが。
やめてくれー、と言いたいです。普通に買いたいと思いますけど、ただ、スニーカーがそれだけ価値のあるものになって欲しいという人もいるから、何とも言えないですけどね。
ナイキさん、アディダスさん、数をもっと増やしてください、転売する人とかいなくなるんで、というのもありますね。戦略もあって、出し過ぎより、手に入らないようにというのもあると思うんですけど、メーカーさんがもっと出してくれたらなあ、と。
でもそうなると2次流通のところがなくなるし、いまが一番(経済的に)回っているのかも知れないし。難しいですね。
――いずれはスニーカーのデザインを手がけてみたいと思いますか?
スニーカーをつくるのはおこがましいんで、ソックスとかスニーカーの周りのものをデザインしてみたいです。スニーカーはハードルが高いし、楽しむ側でいたいんです。
■アントニー 1990年生まれ。大トニーとのお笑いコンビ「マテンロウ」で活動している。アメリカ人の父親と、日本人の母親をもつ。ファッション好きとしても知られ、スニーカーを愛する著名人らを訪ねる「GQ JAPAN」のYouTube番組に出演している。